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第40話 2人の関係は

病室のベッドの上、結愛は窓の外が見えた。窓には結露がたまっていて、外の様子はぼんやりとしていた。今朝は寒いんだろう。冬だというのにまだ雪は降らない。寒さだけ少し訪れている。いつになったら、本格的な冬になるのだろう。ふとんを肩までかけて、そんなことを考えていた。トイレに起きようと、お腹の縫ったところが痛み出す。横を見ると、碧央がいびきをすーすーかいて眠っていた。髪がちょこんと寝ぐせがついている。パイプ椅子に座って、ベッドを枕代わりにしていた。こんな格好で寝て、ひどくないのだろうかと心配した。そっと起こさないように移動するが、術後の痛みでうまく歩けない。それでもトイレにはいきたい。まだ痛みで慣れない体を動かして、床にびたんと倒れてしまった。


「いたたたた……」

 腰をさすって、自分をいたわっていると、ぐっすり眠っていた碧央はパンと鼻ちょうちんを割って、目が覚めた。ハッと起きて、結愛がいないことに焦る。


「結愛?! どこ行った?」

 ベッドのふとんを意味もなくさする。そんなところに明らかにいないだろうとつっこみを入れたくなった結愛は横に寝転びながら笑いを止められなかった。


「あ、な、なんでそんなところで寝てるんだよ?」

「だって、ふらふらして転んだの。トイレ行きたいんだもん」

 そう言いながら、まだ体を起こしてない。碧央はため息をついて、ひょいっと結愛をお姫様抱っこをして起こした。


「うひゃぁ!? な、ちょっと、怖い。術後でお腹痛いんだから」

 本当は嬉しいくせに碧央の肩らへんをパコパコとたたく。碧央はドヤ顔をしながら、無視をする。


「軽いなぁ。やっぱ、お腹の赤ちゃん出てきたからだな。てか、結愛、ごはん食べてたのかよ。細くない?!」

「……ちょっと、そういうの女子に言うのはセクハラだから。早くおろして。トイレ行きたいの!!」

「はいはいはい」


 碧央は個室のトイレの便座にそっと座らせた。ぎゃーぎゃー言いながら、恥ずかしいからと外に追いやった。


「そ、そんな、裸さえもお互いわかる関係なのに、今更じゃねぇの。まったくよぉ」

「……うるさーい」


 個室の中から叫ぶ結愛がいた。ふと、たばこが吸いたくなった碧央は、病室を出て、喫煙ルームに移動した。結愛はまだ碧央がいるだろうと思って、何度も碧央を呼ぶが返事がない。仕方なく、そっとトイレの個室から出る。ちょうどその時、病室の引き戸が開いた。


「石原結愛さん、おはようございます。検温ですよぉ」

 担当看護師の佐々木が、中に入って体温計を差し出した。トイレから戻ってベッドに座ったため、病衣がしわしわだった。


「慌てて、どうしたんですか? お手洗い無事行けました? 術後は痛くてトイレもひどいって聞きますから」

「あ、はい。何とか大丈夫になりました。あ、あの、息子は大丈夫ですか?」

「……そう言うだろうなって気になってました。安心してください。ベテランの小児科医が熱心に対応していたので、命に別状なく順調に育ってますよ。人工呼吸器はしばらく必要ですが、大丈夫です。搾乳して、母乳をお子さんに届けに行きましょう。あとでお部屋にご案内しますね。産科医の回診が終わったあとですが」

「ほ、本当ですか。それは何よりです。よかった。一安心です」

「あれ、よく息子ってわかりましたね。まだ性別報告してなかったんじゃないですか?」

「妊娠中の超音波検査で男の子かなって言われてたので、そうかなって思いました。あたってましたか?」

「なるほど、そういうことですね。さすが、おかあさん。覚えていたんですね」


 話に花を咲かせていると、一服を終えた碧央はズボンのポケットに手をいれながら、病室内に入ってきた。


「あら、旦那様ですか?」

「「え?」」

 2人はそう言われて、急に頬を真っ赤にさせた。

「え、違うんですか? ご家族で間違いないですよね」

「あ、いや、そうですけど、旦那様と言われたことがないので……」


 碧央は後頭部をぽりぽりとかいて照れていた。結愛はどう対応すればいいかわからなくなり、ふとんに潜った。


「あ、ずるいぞ。俺も隠れたい!!」

「ちょっと、お2人とも。そういうのは退院なさってからでもいいですか?」

「あ、はい。すいません」


 看護師の佐々木は、慌ててじゃれあうのを阻止した。2人は冷や汗をかいて、何度も謝った。ほのぼのとした空気が流れる。まだ夫婦であることに実感がわかない。まだ正式に決まったわけじゃないのに有頂天になる2人だった。

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