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第64話 人間界に紛れ込んだモンスター


川谷が若い女性をおんぶして去っていくのを見送った宮本と山崎は、感心した表情を浮かべていた。

さすがは幸運の女神に愛された川谷、ちょっと屋台を回っただけでこんな出会いに恵まれるとは。


二人が再び屋台を回ろうとしたその時、背後から馴染みの声が響いてきた。


「えっ!宮本おじさんも屋台に来てたんですねー!」

振り返ると、ぴょんぴょん跳ねながら近づいてきたのは、元気すぎる美少女、琴音だった。


琴音は宮本の腕に腕を絡めてにこにこ笑いながら聞いた。

「あれ、川谷おじさんは?」


「えっと…人助け、かな?」宮本は困ったように頭を掻きながら、あいまいな答えを返す。


その後、神楽、彩雲、アリスも集まってきた。

九尾は神楽に抱えられ目を細めて寝ていた。


…はずだったが、突然、九尾がパッと目を覚まし、ルビーのような目を大きく見開いて警戒しながら山崎の肩に飛んで、小さな鼻をふんふんと嗅ぎ始める。


その後、九尾は地面に跳び降り、宮本を見上げて言った。

「ご主人さま、モンスターの気配…!とても臭くて、悪い奴だぞ!」


九尾は人間の言葉を完全には理解していないが、何か異常を感じ取ったのは確かだ。その言葉に、集まった皆も顔を見合わせ、表情を変えた。


ここは洞爺湖近くの、無秩序なダンジョンとは違う最大規模の屋台エリアだ。

モンスターがいるはずは…。


(そうだ!おそらくモンスターペットのようなものじゃないか?)

宮本は少し考えた後、九尾を抱き上げて落ち着かせながら言った。

「キュウ、君もモンスターだろう?この屋台には他のモンスターペットもいるかもしれないじゃん」


九尾はふわふわした尻尾を揺らし、断固として言った。

「ち、違うっ!悪い奴だ!!!」


キュウの強い抗議に、さすがに宮本たちも怪しいと思い始めた。


北海道に常駐しているT社の令嬢として、アリスはすぐに何かを察し、眉をひそめながら言った。

「まさか…ダンジョンのモンスターが人間界に潜入したというのでしょうか…!?」


彼女の仮説は、まったく根拠がないわけではなかった。

実際、過去30年間で似たような事例は何度も発生していた。


ダンジョンの異変後、下層のモンスターが制限を突破して人間界に侵入したり、特殊な能力を持つモンスターがバリアを打破してひっそりと忍び込んだり、さらには伝説級のモンスターが命を燃やして二つの世界の壁を破り、人間世界に侵入して無差別に殺戮を繰り広げたこともあった。


アリスの言葉を聞いて、全員の顔が緊張に変わった。

何しろ、今日は無数の一般人が屋台を回っている。もし制御できないダンジョンのモンスターが紛れ込んでいたら、その結果は想像もつかないものになるだろう。


「キュウ、匂いで追跡できるか?」宮本は肩に乗ったキュウを見ながら尋ねた。

「ぐ…!頑張るぞ!」


主の肩よりも美少女の胸の方が好きなキュウでも、今はそれを気にしている場合ではないと理解している――主が真剣な表情に変わったということは、今は遊んでいる場合ではないのだと。


________________________________________


賑やかな屋台から2キロほど離れた暗い小道で、川谷は美しい女性をおんぶしながら、楽しげに話していた。


「静香さんがまだ独身だなんて!」

川谷は柔らかな感触を背中に感じつつ、できるだけ紳士的に振る舞おうとした。


「ええ、おかしいですか?」

静香は柔らかな声で言った。「私も好きで独身しているわけじゃないんです、ただなかなかお似合いの人に出会えなくて…」


川谷は思わず目を見開いた。

「静香さんのような美人には、きっとたくさんの男が寄ってくると思いますけど!」

「ふふ…でも今の男たちにはろくなものがいないわ」


静香はため息をつきながら、わざと川谷の背中に体を寄せ、息を吐いた。その息は、川谷の首元にかすかに触れ、挑発的な雰囲気を醸し出していた。

「でも、川谷さんは違うわ。本当に優しいのね」


幸いにも川谷自身も女慣れしているため、心の中ではかなりドキドキしつつも、冷静を保つことができた。


「そうだ、そんな遠くにお住まいなのに、わざわざ送ってもらって申し訳ないです」静香が言うと、川谷は内心で少し胸を高鳴らせた。

「家に着いたら、ぜひ私の方からお も て な し させていただきます」


「おもてなし」と聞いて、川谷の心はどうしてもその方向へ引き寄せられた。

暗い小道、二人きり。男なら誰でも思い描くシチュエーションだ。


(ラッキーすぎる!宮本と山崎には少し待っててもらわないとな…。美人をがっかりさせないようにしなきゃ…ニヒヒ、洞爺湖に来てよかったーーー!)



それから十数分。二人の距離はますます縮まり、果てしない小道の暗さも一層深くなった。


川谷の背中に寄りかかっていた美しい女性は、今や異様に邪悪な紫色の輝きを瞳に宿し、プルプルとした唇も瞬く間に耳まで裂ける巨大な口へと変わり、精巧で美しい鼻は消え、顔の中央には黒い鼻の穴だけが残された。


もはや、人間の面影など微塵も感じられなかった。


(腹減った…まずい男でもいいや!もう我慢できんっ!)


“静香”は川谷の頭を一飲みできそうなほど大きく口を開き、道の途中で相手を食べてしまおうかどうかを迷っていた頃…。


突然、何も知らない川谷は自己アピールを始めた。


「静香さん、こんな辺鄙な場所に住んでいるなんて、静かな生活にはぴったりの場所ですね! あっ!そういえば自己紹介を忘れていました。実は僕、探索者で、つい先日ウェイスグロ防衛戦に参加してきたんですよ。 あっ、ウェイスグロ防衛戦ってご存知ですか? いやー…あれはもう、歴史に名を刻むくらいの恐ろしい戦争でしてわ…」


一瞬、恐ろしい顔へと変わった静香は、その顔をすぐに元に戻し、優しく言った。

「……あら、川谷さんが探索者だったとは!なんて勇敢な方…!モンスターに立ち向かう探索者のこと、私はとても尊敬しています!」


(チッ。まさか探索者だと?こいつら探索者どもが我々の仲間を何人も殺した。こいつを簡単に殺すわけにはいかない…。最も苦しむ方法で、王に捧げなければ……)

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