作業員たちが重機と連携して仕事に取り掛かっている。
◼️◼️県の◼️◼️市。そう。つい先日大ニュースになったばかりのアスファルト陥没事故の現場だ。
旧県道の高架近くのカーブ地点に空いた大穴は直径五メートルほど。突如として道路が陥没した理由は今のところは不明で、地元住民たちの間では憶測が飛び交っている。
黒と黄色の虎ロープと三角コーンで遮られた現場内で、重機が動き、灰色の作業服を着た作業員たちが大声で何かを指示しながら、動き回っていた。
幸いな事に幅広の道路であったので、工事区間は一車線に減少されてはいるが、交通止めとはなってはおらず、警備員の指示に従って減速しながら車は通行している。たまに散歩中であろう老人や、学生らしき自転車の若者も現場近くに足を止め、見物している。
筆者も実際に現場を見に行ってみたが、大事故の現場というよりも、日常的な道路工事作業の一環に見えたというのが本音である。ニュースにより話題を拡散された割には野次馬はおらず、工事も淡々と進んでいる。
そして作業員たちも手慣れたもので、筆者のように明らかに余所者よそものと判るような人間や、たまの見物人を意にも介さず作業は進められており、風聞を収集するのが趣味である筆者も雑談めかせて話を聞き辛い空気が醸成されていた。
どうしたものか、と、しばらく考えていたのだが、
「もしもし」
張り巡らされた虎ロープの外部、自販機の前に現れた若い作業員に筆者は声を掛けた。
はい? と返事をすると、若い作業員は筆者の顔を見た。よく灼けており、恐らく若年の割には老けて見える。所作に現れる職人気質がそう見せているのかもしれない。
筆者は風聞を収集し、それを文字に起こす事で口に糊している事を伝えると、若い作業員は、はあ、と、分かったような、分かっていないような生返事をした。
――水脈がですね。
若者はそう語ってくれた。
――ちょっとね、おかしい事になりまして。僕たちはその点検と保全計画のために動いてるんです。
なるほど。
要約すると以上のような会話をした後のち、若者は、あちらの方向に古民家を改修したカフェがあるんですが、そこと水脈が繋がっていて、つまりですね、一般家屋にも被害が出る可能性もあるんです。とも教えてくれた。
筆者はこの若い作業員に礼を言い、そちらのカフェにも行ってみる事にした。昼食がてら、話を聞けたらとの期待があった。
工事現場を離れ三百メートル程度歩いただろうか。確かに古民家を改修したらしきカフェを見つけ、筆者は迷わずドアを開けた。
客は筆者だけだった。
いらっしゃい、と、壮年の恐らくマスターであろう男性がこちらを見た。
筆者はカウンター席に着席し、カレーライスを注文すると、それが運ばれてくるタイミングで工事現場の話を切り出した。
何でも、アスファルト陥没現場とこちらの水脈が繋がっているとか――。
マスターは静かに頷き、うちの井戸とね、と答えた。
――井戸?
あれだよ、と窓の向こうに視軸を遣る。
筆者もそちらに目を凝らすと、確かに道路に面していない方の窓の向こうに、古井戸が見えた。
井戸の水脈が、狂ってね。
狂ってしまってね。
マスターは井戸の方向を見ながらそう言った。
井戸からは、灰色の作業服を着た作業員たちが、一人、また一人とよろぼい出てきた。四人目は、先程ここを教えてくれた若者だった。
今、ちょうどお昼を食べて一服したい時間なんでしょう。
そう言ってマスターは裏口からぞろぞろと入ってきた作業員たちに、いらっしゃい、と、言った。
合計七人の灰色の作業員たちは四人と三人に別れてテーブル席に着いた。
自分たちが井戸の中からぞろぞろ現れてきた事など気にもせぬように、おかしい事故だよなあ、穴はこちらに空くはずだったのになあ、等と会話している。