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第3話


 そしてそのまま、口づける。酒を絡め合う舌が、上等な酒故の酒精に熱い。


 太夫の身を飾っていたかんざしを丁寧に抜き取り、カイリはその身体から、良い香りがするのを楽しんだ。

 男娼は、本当なら肉の様な、臭みが強いものは食べてはならぬ決まりだ。けれど太夫はそれを許された、特例中の特例と言えよう。


 ただ職業としてか、太夫も臭みが強いものは好まない。今日の暎鳥飯が、例外だった。


「セイラン」


 思わず名を呼んだカイリを見て、太夫は何か堪えるように笑う。

 それはどこか、困ったような笑みだった。

 思わず、何か不味かったかと身構えるが、そこで言われたのは予想外の言葉だった。


「私の手からも……お出汁の匂いがするんです。おかしくて」

「……ああ、それは」


 カイリも思わず、笑みを浮かべてしまう。


 紫水楼の夜は長い。昼間はなく、外がいくら明るくなろうとも、戸を開けなければここはいつまでも夜の中。夢の中だ。


 やはり、絵師にとっては良い世界だな、とカイリは思う。


 ただ、次は食事の前にしようと、堅く決めたのであった。


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