そしてそのまま、口づける。酒を絡め合う舌が、上等な酒故の酒精に熱い。
太夫の身を飾っていたかんざしを丁寧に抜き取り、カイリはその身体から、良い香りがするのを楽しんだ。
男娼は、本当なら肉の様な、臭みが強いものは食べてはならぬ決まりだ。けれど太夫はそれを許された、特例中の特例と言えよう。
ただ職業としてか、太夫も臭みが強いものは好まない。今日の暎鳥飯が、例外だった。
「セイラン」
思わず名を呼んだカイリを見て、太夫は何か堪えるように笑う。
それはどこか、困ったような笑みだった。
思わず、何か不味かったかと身構えるが、そこで言われたのは予想外の言葉だった。
「私の手からも……お出汁の匂いがするんです。おかしくて」
「……ああ、それは」
カイリも思わず、笑みを浮かべてしまう。
紫水楼の夜は長い。昼間はなく、外がいくら明るくなろうとも、戸を開けなければここはいつまでも夜の中。夢の中だ。
やはり、絵師にとっては良い世界だな、とカイリは思う。
ただ、次は食事の前にしようと、堅く決めたのであった。