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第一章 サークル仲間と妹と五月と

第14話 二俣は純愛狂信者

 僕は二俣愛斗。創作サークルの代表をやっている男だ。そしてこの作品の唯一で最高な常識人をやらせてもらっている。


「僕は田中。老若男女一切合財寝とるっす!」


 虚空に向かって自己紹介している。隣にいる奴が人類の敵、田中。


 純愛を真っ向から否定してくる憎たらしい奴だ。今でこそ創作サークルでお互い切磋琢磨しているが、昔はバチバチとやり合っていた。



◇一年前


『NTRを許容しない限り、先輩は僕に勝てないっすよ』


『間男には分からねえだろうが、寝取られた人の数だけ泣いているんだ。だからNTRは許容しない』


『純愛過激派も難儀っすねぇ。まあいいや。拳で語り合うっすか!』


『おうよ。お前に純愛のイロハを叩き込んでやる!』


          ◇



 あの日々も今は懐かしい思い出……


「そこのお姉さん方。僕も仲間に!」


「百合に手を出すんじゃねえ!」


「ゴブファッ!?」


 物思いに更けてる側から田中は百合に手を出そうとしていた。ぶん殴って間一髪、NTRは阻止したが油断も隙もありゃしない。



         ◇



「さっきは不覚にもカップルを寝とれなかったっすけど、『犬』も歩けば棒に当たる『馬』の耳に念仏『蛸』たっ、たこ? 猫……」


「猿」


「も木から落ちる。それだ!」


「お前そういうことわざの覚え方してんの?」


「猿も木から落ちるという様に僕もたまには寝取りに失敗するんす。ちなみに弘法にも筆の誤りとも言うっす」


「そっちすんなり出てくるんならそっち使えよ!」


 あっ、我ながらいいツッコミできた気がする。今度ネタに使おう。メモろう。




        ◇




「映画館はいつならいけますか?」


「そうだなぁ。スケジュール的にあの日とかいけそうかな?」


 田中の寝取りを阻止し続けていたそんな時。一樹と知らない女性が一緒に歩いているのが見えた。女性は見る限り育ちの良さを感じる。


「ゲッ、寝取り魔と純愛狂信者だ……」


 一樹は僕達を見るなり、サングラスを付けてお嬢さんの手を握り、何処かへ走り去ろうとした。


 それより一歩早く田中が一樹の股間をカンチョー。『グブボッ!?』と胴間声を出した後、一樹はその場へへたり込んだ。田中は中指を立てていた。



         ◇



「申開きを聞こうか一樹。何故僕達から逃げたのか」


「二俣先輩と同じ、以下同文っす!」


 一樹は尻を押さえながらも観念した様子で、頬を掻きながら喋り出した。


「何で言えばいいんだろう。今は関わりたくなかったというか、彼女と仲を育む時間を邪魔されたくなかったというか」


「彼女っすか。その娘と?」


 あっ、田中が食いついた。


 一樹はチラッと田中を見たあと『付き合っていない』とはっきりな口調で言った。それを聞いてから露骨に表情が沈み始めるお嬢さん。


 一樹は否定しているが、もしかしてこの人達付き合ってるのでは?


 待てよ? 付き合ってると田中にバレたら面倒なことになると、一樹が思って嘘を言った可能性があるな。


 普段嘘つけないのに、今回は割と良い嘘のつき方をしている。誰かに入れ知恵されたのか?


 ここは唯一の常識人として話を合わせるとしよう。


「そうか! なら付き合った時、言ってほしい! 純愛主義者である僕が全力で純愛を遂行するから! 障害は全部僕が消してやる!」


「ああ、もうどいつもこいつもなんでそんな極端な思想なんだぁぁぁ! つくづく面白い奴らだなちくしょう!」


 一樹は何故か発狂していた。お嬢さんはその様子を見てクスクスと笑っていた。



         ◇



「いい機会だから紹介するよ。そこで不適な笑みを浮かべているやつは二俣愛斗。またの名をムッツリ愛斗」


「僕のことを不適切な呼び方で呼ぶな。ちなみに隣にいるモヒカンの人は田中だ。寝取りが趣味の人類の敵だ。お嬢さんはあまり近づかない方がいい」


 お嬢さんは一樹の顔を見て呆れ苦笑いしながらこう言った。


「あなたの友人、まともな人居ませんよね」


「そうだな。俺の友人全員狂人だよ。けどみんな面白い連中だ」


 おい、それだと僕も狂人側に組み込まれてることにならないか? 僕はコイツらと違って常識人なことをアピールしないと。


「お嬢さん、僕はコイツとは比べ物にならないくらいマトモだよ! 純愛は好きかい? 思う存分カフェで語り合おうじゃないか!」


 一樹の隣にいる彼女は露骨に嫌な顔を僕に向けてきた。ツンデレかな?


「それはそうと一樹。金を貸してくれないか? 競馬で勝ったら返すからさー」


「はぁ? 二俣てめぇ。前もそれで金溶かしてなかったか? もう貸さないぞ、てか今まで貸した分返せ」


 話は変わるが、僕は金が欲しい。今度勝てそうな競馬レースがあるから。しかし一樹は貸してくれそうにない。ならばここは一計を案じよう。


「本当に貸してくれないのか?」


「どうしたんだよ二俣。大丈夫か? なんか元気なさそうだけど?」


「僕の口座にたくさん金が入ったら元気になるかも……」


 泣き落とし作戦。即興的に思いついたことをためしてみた。普通、この手口に引っかかる奴はいないが。


「少ししか無いけど、二俣のためだ。出来る限り入金しとくよ!」


 唯一の例外は小坂一樹。詐欺に遭いやすいタイプというのはこのことである。


「あなた、今までどうやって生きて来れたんですか?」


 お嬢さんが一樹に対して呆れ半分の表情で俺の口座へ入金しようとする小坂を止めてようとしている。止めるなバカタレが、ギャンブルができなくなるだろ!



         ◇



 無事、一樹から軍資金調達出来たことだし、また競馬に挑戦できる。今度こそ勝ってやる!


「これだけあれば金で女を寝取り放題っすね!」


「はっ? まだこの期に及んで他人を不幸にする気なのかお前」


「二俣先輩、勘違いしてるっす!」


「なにがだ?」


「僕は幸せになりますっす!」



◇二俣と田中は殴り合いの喧嘩にまで発展した。その喧嘩を小坂と五十嵐は止めれなかった。否、関わりたくなかったのが正解である。


「しょうがない。五月、少しだけ荷物を預けて大丈夫か?」


「構いませんが、何をする気ですか?」


「五月、喧嘩は仲裁に回る奴が一番得するんだ。誰かの喧嘩を止めれば褒めてもらえる」



 殴り合いをしていると、唐突に一樹が割って入ってきた。


「はい一人目」


「ブゥぅゥゥゥっすぅぅぅ!?」


「なっ!?」


 一樹が田中に発勁を喰らわせただと!? てか、待て待て待て、なんで僕に近づいて!


「グボぱぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 肋骨が砕ける感触と共に、僕は血反吐を吐きながら地面に倒れた。そのまま薄れていく景色と共に意識が闇へと沈んでいった。


「オマケに最低でも二人殴れる。人を殴りたい時にはこれに限る」


「爽やかな笑顔でも隠しきれてない怒筋。あの二人に相当イライラしてたんですね」


「うん」

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