「つまり財布が無かったからこんな目にあっていたと」
「はい。ピンク色の財布がいつのまにか無くなってたんです」
ピンクの財布?
「ピンクの財布ってさっき見たな。あの変な仮面被ったやつが持っていた」
五月はハッとした表情を見せた後、スマホを取り出す。そしてスマホを押し付けてきた。
「そういえば怪しい人と思ったので盗撮してたのです。この方ですか?」
ナチュラルに盗撮してるのはこの際水に流すとして。
「ああ、コイツだ」
特徴的なひょっとこ仮面。間違いない。さっき出て行ったやつと同一人物だ。五月の財布について何か知っているかもしれない。
コイツの名前を仮に被疑者と断言させてもらおう。
「けど数分前に被疑者は店内から出て行ったから、今更追えないぞ?」
「大丈夫です。こんな時は想定してませんでしたが、置き忘れ対策のためGPS仕込んでるんです」
「おお、財布にGPS入ってるのか! それなら追えるぞ!」
◇
「店員の彼氏は今日から僕のっす!」
「……えっ。えっ……?」
「なんというかさ。俺、男が好きだったっぽい」
一方その頃、寝取り魔田中が店員の彼氏をNTRしていた。田中はNTRのためなら老若男女ターゲットにするNTRのエキスパート。
ていうかいつになく登場が唐突だなぁ。出たがりか。
いや、ツッコミしてたら泥棒を逃してしまう。優先順位しっかりしろ俺!
「すーっ。この混乱に乗じて泥棒を追おう」
「いやでも目の前で店員さんがNTRてるんですけど……」
「寝取りが趣味な奴に狙われたのが運の尽きだよなぁ」
とはいえ、あれは俺も見過ごせない。だから俺はある人物に電話をかけた。
「ああ、二俣? また田中が寝取りしたからぶん殴って止めてくれ。なになに、すぐ向かうって? 了解!」
「二俣さんですか?」
「うん。純愛主義者な二俣に丸投げしたからもう大丈夫。NTRで終わった関係もアイツなら修復できる」
「終わった関係も修復できるんですか!? どんな心身掌握術を使ったらそんなこと出来るんですか!?」
「そんなことよりも、財布を追おう」
「は、はい!」
五月は寝取り現場を三度振り返ったものの、順序を弁えて自転車置き場へ向かった。
◇
GPSは数キロ先を指していた。徒歩にしては破格の速さである。しかもこの短期間で。忍びかなんかなのだろうか?
まあしかし、二人乗り自転車なら追いつける。ていうかなんか速度速い速い速い!?
風圧もエグいぃぃぃ!?
自転車にしてはというレベルを当に過ぎてるレベルで速い! なんなら自動車追い越してるんだけど!?
「なんだこれなんだこれぇぇぇ!? さっきから自転車の速度じゃないぃぃぃ!?」
「自転車にジェットエンジンを積んでるんです。いつもチックロックを観てくれてる整備士さんが整備してくれました」
「その整備士多分スーパーカー限定の人だろ! うわぁぁぁ! 人轢くってぇぇぇ!」
色々とルール違反してるだろこれ。俺が知る限り多分、自転車を魔改造してはいけない法律は無いが。
「運転変れぇぇぇ! 俺が自転車漕ぐぅぅぅ!」
「嫌です。あなたの運転も大概酷いものでしたから」
「あとなんで五月は風圧の影響受けてないんだぁぁぁ!」
「慣れましたよ。普通に」
風圧に慣れってあるのか? いやあるんだろうな毎日乗ってたら。
「あっ、先に謝っときます。事故したらごめんなさい。もしそうなったら、一緒に土に還りましょう」
ああぁぁぁぁぁぁ!? 降りたいぃぃぃぃぃ!?
◇
「はぁ、はぁ……何度か天竺が見えかけたぞ……」
「相場は天竺じゃなくて三途の川じゃないですか?」
GPSによるとこの先に被疑者がいるらしい。しかし目の前は大きな白壁。
おそらく塀の上を飛び越えたか。
「裏から回り込みましょう!」
「いや、それよりこっちの方がいい」
塀に手のひらを当て、集中力を高める。
「破っ!」
最短距離でぶち抜く!
「コ、コンクリートの壁をぶち抜いたぁぁぁ!?」
「近道作れた。さあ行くぞ!」
「器物損壊……は、はい!」
驚愕の表情をする五月。それと同時にまた一つ、俺の知らない五月の表情を知れた。
発勁を教えてくれた人に感謝しつつ、俺はGPSをを追った。
◇五十嵐五月好感度メーター99/100