俺は大学二年生、この春から三年生に進級予定。小坂一樹である。
「おっ、この動画全然伸びてないじゃん。ストレス発散がてら、チャンネル登録と高評価ボタン押して応援コメント書いたろ」
あのひょっとこ騒動以来、五月とは会っていない。別にネガティブな理由じゃあない。
金が無くなってきたのが理由で日雇いバイトに明け暮れていたからだ。
「にしても、爆弾松ぼっくり討伐の日雇いバイト代湿気ってんなぁ。今日だけで何回死にかけたと思ってんだ」
今日も生きて自宅に戻ることが出来た。さて帰ったら大学の課題を提出しなければ。
「ただいまー! 六花はまだ帰ってきてないか」
「おかえりなさい一樹くん!」
制服姿の五月がニコニコした表情をしながら玄関で正座をしている……
よく見ると目のハイライトが消えていた。
バタンッ。
俺は理解が追いつかず扉を閉めた。
神様の存在を信じたくなる瞬間、というのがある。それは例えば、思いがけない場所で、思いがけない時に、思いがけない人と偶然あった瞬間。
俺はすぐに警察へ連絡を試みた。
「もしもし警察ですか? 自宅に美少女高校生が不法侵入してて……」
「彼女に対してこの反応は酷くないですか!? 一樹くんの口の中を綿で塞ぎますよ?」
制服の上にエプロンを着ている五月が玄関のドアを開けて抗議を始めている。いやそれ以前に……
「なんで君、ここにいんの!?」
だって自宅教えてないもの。あまつさえ女子高生が無断に上がってるだと? 意味がわからんって。
これは絶対協力者が居るはずだ。まず一番怪しいのは……
「おい六花! 六花はどこだ! 出てきて説明しろ!」
返事は無い。ただの居留守のようだ。
「六花というのは誰ですか? 浮気ですか? セフレですか? 殺しますよ?」
この口振りだと六花の事は知らないようだ。
それより五月の様子がいつにも増してヤバい。六花を俺の不倫相手かなんかと勘違いしてるのか、ものすごい殺気を放ってる。
弁明しなきゃ刺されそう。
「ああ、うん。妹だね。ていうかその反応だと六花と君は接点無いのね」
「その件については小一時間問い詰めるとして、今日から私はここに住むことにしましたから」
「……ふぁ?」
青天の霹靂とはまさにこのことであった。