俺、
まあ別にその辺はそれほど重要じゃあない。
重要なのは迷宮作戦群の一員で。
現在、戦闘行動中であるということだ。
「――ッ‼」
俺は飛んでくる瓦礫を、前受け身で躱して再び対峙する。
対峙するのは、
ここはダンジョン最下層、地下二百五十六階。
「ぐ……っ」
俺の思考を遮るように、黒竜王は鋭い爪を振り下ろす。
速すぎる上に、リーチが長すぎる。
ギリギリで躱すがちょっと掠って鎖骨がいった。
現在、黒竜王の体長は目測四メートル。
ああ現在ってのは今の黒竜王が第四形態だからだ。
もっとデカかったり小さかったりしたが、今はこのサイズに落ち着いた。
さらに即死の爪や尻尾を避け続ける。
装備はとっくにない。徒手格闘だ。
小さくなった分……まあ全然デカいが、筋肉の密度が増してより硬くなったし速くなった。俺との戦闘中に最適化してきやがる、ちゃんと今が一番強い。
内臓狙い。
これなら肉や鱗の厚さは関係ない。
鍛えてきたことが活かされていく高揚感と、感覚と反射で即死を回避する緊張感がアドレナリンやらドーパミンやらエンドルフィンやらをフルスロットルで噴き出して色んなリミッターが外れてパフォーマンスが跳ね上げる。
ここで決める、流石に長すぎる。
腹部へ
これ以上なく
「……ッグエェ……っ」
黒竜王は堪らず、身体をくの字に曲げて口から胃液を吐き出す。
来た。
頭が下がった!
もう折れた鎖骨は回復した。
飛びつくように組み付いて締め上げながら、頭頂部に膝を入れ続ける。
このまま頭蓋骨かち割って殺す。
「――グェ……ッ、ガァア‼」
膝蹴りを繰り返していたところで、黒竜王は組み付いた俺ごと首を振り回し地面や壁に叩きつけて剥がそうとする。
痛ぇ……っ、意識が飛びそうだ。
鎖骨どころじゃあねえ、全身バキバキだ。やべえ、弾け飛ぶぞ俺。
だが無駄だ。
死んでもおまえを離さない。
さらに首を絞め上げて喰らいつく。
隙を見ては膝を入れて、締め上げ続ける。
「……っ、ァガっ」
やがて首を振る力が弱まり、再び頭が下がった。
締め上げながらがぶり返しの要領で。
首を捻じってへし折る。
「――――っ」
黒竜王の身体から力が抜けて行くのが伝わってくる。
俺は伝わる感覚から確信を持って、腕を外す。
力を込めすぎて腕が痺れて震える。
脳内物質が引っ込んで身体中で細かく砕けた骨や、潰れた肉からの痛みが駆け巡る。
だけど黒竜王に視線を合わせて。
「俺の……、勝ちだ」
ふらふらな足を無理やり踏ん張って、俺はそう言ってのけた。
同時。
黒竜王の身体が発光。
光の中から
一般的に言うんならすこぶる美人で肉付きの良い女だった。
理解が追いつかんが、俺は迷宮作戦群所属。
不測の事態しか起こらないことを前提に行動している。
だから慌てないし驚かない。
「見事、貴様の勝ちだ」
女は笑みを浮かべて俺に言う。
そうだろう、文句の付けようがない勝利だ。
俺は辛うじて女に笑みを返し、ここまでで蓄積した損傷や疲労の重さのまま前のめりに倒れ込む。
「おっと」
女は倒れ込む俺を抱きかかえるように身体で受け止め。
「これからよろしく頼むぞ、
そんな女の声が聞こえたところで。
俺は柔らかさと温かさに溶けるように。
眠りについた。
202X年。
日本各地に突然、
政府は調査チームを派遣。
未知の生命体や植物を確認し、病原菌や自然環境に及ぼす影響を危惧して早急に封鎖し調査を続けた。
同時期に民間人によるダンジョンへの不法侵入が行われた。
攻略者と自称する連中はダンジョン内にあるアイテムを盗掘したりして財を成していた。
そんな攻略者の中に、ダンジョン内のモンスターを使役する者が現れた。
使役したモンスターは意思の疎通が行えて命令に従順となる。
検挙した攻略者は「共鳴した」と、証言。
やがて調査チームも同現象を確認したが、攻略者は共鳴した戦闘ペットと呼ばれる存在を用いて盗掘を続けた。
内部を撮影した映像も出回り、メディアも注目し日本は一大ダンジョンブームに沸いた。
しかし攻略者が増えるにつれて、ダンジョンが異変を見せ始めた。