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視線




「なぁ?」

「ん?」

 友達の慎介が俺の方を見ながら声を上げる。


「正行さぁ、密井みついさんに何かしたのか?」

「なんで?」

「いや、なんか……こっち見てね?」

「そうなのか?」

 慎介の視線をなぞるように俺も視線を向けると、その密井さんは机の上に出した本を読んでいた。


「見てねぇじゃん」

「いや見てたんだよ……」

 おかしいなとか慎介はブツブツ言っていたけど、その後も少し彼女の方を見ていたけど、結局俺の方を見る事が無いので、偶然どこかを見ていたんじゃないか? という事に落ちついた。


 そんな事を話したりすると、ちょっと意識してしまうのは仕方がない。それからも俺は密井さんの方を何度か振り返ってしまっている。


 密井さんとは新学期になってから、俺の通う高校へと転校してきた東京出身の女子生徒で、都会出身の子らしく周辺に住んでいる俺達に比べると、何となく垢ぬけている容姿を持っていて、そして可愛く見える。


 だから校内でも男子生徒からかなり人気を得ているみたい。

 俺には関係ない話だと思っていたんだけど。




 その日の昼休み――


「正行」

「あん? なんだよ」

「お前さぁ、密井さんと何かあったのか?」

「は? 何もないぞ?」

「また見てるぞ?」

「え?」

 慎介の視線をまたなぞり、その方向へと顔を向けると、今度は『バチッ!!』と音が鳴ったと錯覚するほどに、密井さんと視線がしっかりと合ってしまった。


 彼女も気が付いたのか、ニコッと微笑む。


「っ!?」

 瞬間に俺の中で何かが跳ねた。



「な?」

「あ、あぁ……」

「どうした?」

「いや、何でもねぇよ」

「ふぅ~ん……」

 慎介はニヤニヤしながら俺を見る。その視線に耐えられずに俺は顔を逸らした。


「気になる人の事視線で追っちゃうってよく聞くじゃん? もしかして……」

「…………」


 慎介が何か言っているけど、俺は胸の鼓動をどうにかすることでそれどころじゃなかった。


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