醜い化物共が街を荒らす。
「こないで!こないでー!」
脚をもつれさせて、転んでしまった袴姿の女性に化物共が襲いかかる。
女性はもうダメだと諦めて、目を瞑るが数秒経っても化物から襲われることはなかった。
「おい、大丈夫か」
紺色の金糸で装飾の入ったスーツを着た黒髪の男が女性の前に立ち、化物どもの頭部を錫杖を放って粉砕し、仕留めていく。
「あ、ありがとうございます」
「おう、立てるなら、そのまま、あの建物まで走っていってくれ。無理なら俺が連れてってやる」
女性は男の言葉に何度か立ちあがろうとするが立ち上がることができない。
「こ、腰が抜けちゃって」
「気にすんな」
男がそういうと女性は何もしていないのに宙に浮かぶ。
「怖いかもしれないけど、今は俺を信じてくれ」
男の言葉に女性は頷く。
掌を建物の方に向けて押し出すと、宙に浮いていた女性が勢いよく建物の方へ飛んでいく。
建物付近で止まり、ふわりと女性を着地させる。
「ご気分いかがですか」
桃色の縦ロールをした女性が駆け寄ってくる。
「ありがとう。もう大丈夫です」
女性は立ち上がる。
「では、どうぞこちらへ」
桃色縦ロールの言葉に従い、女性はこの場を避難する。
避難入った時点で男に向かって手を振る。
「おし、これで全員助けたかな。あとはコイツらを倒すだけだ」
襲ってくる化物の頭部を錫杖や落ちていた小石、金属片で撃ち抜きながら、桃色縦ロールが手を振ったのを確認する。
「それにしても今回多いな」
男は周囲に誰も居ないことを確認すると男を中心に10メートル以内に落ちてある瓦礫などを全て浮かせる。
「じゃあな」
浮かせた瓦礫などがグルグルと周りあたかも竜巻が起きているかのような錯覚に陥る。
竜巻は化物共を飲み込み、巻き込まれて紫の煙となって消滅していく。
「おー、司君強くなったねー」
年端もいかぬ少女のような見た目の女子が男に話しかける。
「薊先輩きてたんですね。まぁ、先輩達の教えがいいからですかね」
「またまたー、司君のあれで全部片付いたかなー」
少女は竜巻を指差す。
「だと、いいんですけど」
男が一息つこうとした直後、突然30メートルはあろう巨大な一つ目の化物が現れる。
「そう簡単にはいかないかー。なら私の出番だねー」
少女が腕を天に掲げると男が制止する。
「俺に任せてください」
男がそういって少女に右手で触れるとネオンブルー色の光の線が男の体に沿って現れる。
「えー、せっかく出番だと思ったのにー!」
「後輩に任せて先輩はそこで見ててください!」
男はそう言い残すと一瞬で姿を消す。
次に認識できたのは巨大な一つ目の化物の前。
「確かこうすれば」
何かを確認するように男が掌を突き出す。
「
男が呟くと一本の光線が雲に穴をあけて、巨大な一つ目の化物の頭目掛けて撃ち込まれる。
それは一本の大きな槍のように巨大な化物の頭から地面まで一直線に穿つ。
この男こそ、百合を遠巻きから見る為に聖ジャンヌ白百合学園に入学したはずが、口車に乗せられこんなところで戦う羽目になっている
◇
話は明治時代初期まで遡る。
政府が秘密裏に計画していたとある研究が成就した。
富国強兵の一環として発足されたリミットレス計画。
超能力者を生み出そうとする無茶苦茶な計画だ。
歴史の授業で習ったのだが、この日本皇国は戦争時に兵器開発では無く超能力開発に注力した。
不可能だと思われていたその計画はある日を境に一変する。
検体の一人が超能力に覚醒した。
そこから連鎖するように一人、また一人と超能力に覚醒していった。
覚醒した超能力には色々な種類がある。
上げればキリが無い、人によって目覚める能力が違うのだ。
超能力は遺伝する。
時代は流れ大正25年。
俺、
毎月かなりの金額が支給されるのだ。
四人家族が慎ましく暮らせば一月くらい余裕で生活ほどの金額だ。
だが両親は「司が全部使えばいい」と言ってくれている。
あくまで俺の稼ぎという認識でいてくれているのだ。
日本皇国に命を賭けていると言っても過言では無いからかもしれない。
兵器があまり発展していない日本皇国では
戦時中の
超能力に目覚めていなかった時の俺はありえないと思っていたが、
危機と言っても戦争だけではない。
日本皇国は他の国に比べると地震が多い。
それに伴って津波等も発生することもあり、救助要員として招集呼ばれることもあるようだ。
だが、俺にとって金は割とどうでもいい。
・・・いや、どうでもいいは言いすぎたが、それよりも俺には『好きな学校に通うことが出来る権利』この権利の方がよっぽど嬉しい。
俺のような一般市民は金銭的に県立の高校に行くのが精一杯だったが、これのおかげで俺が行きたかった高校に入学することが出来た。
『聖ジャンヌ白百合学園』
全寮制の超お嬢様学校で国の重鎮や金持ちばかりが集まる学校だったが、時代だろうか段々と人が来なくなってしまい、今年から共学に変わった学校だ。
何故俺が『聖ジャンヌ白百合学園』に行きたかったか、その理由はたった一つだ。
この学校には古き良き風習が残っているらしい。
『シスター制度』
下級生と上級生がお互いの合意で契りを結び、上級生が下級生に対して、勉強や戦闘術などの指導をする。
そして、下級生はシスター契約を結んだ上級生をお姉様と呼ぶことが許されるのだ。
また、学園内では食事の時はもちろん寝る時は同じ部屋、この制度は本当の姉妹より硬い絆を生み出す最高の制度なのだ!
この制度を聞いた時、俺は全身に電流が走ったような感覚がした。
下級生が上級生をお姉様と呼ぶ?勉学を指導する?手取り足取り戦闘術を教える?
最高じゃないか!
俺は俗にいう百合が大好きだ。
百合は美しい。
百合に挟まれたがる男はみんな地獄に堕ちろ!
おっと、失礼。
過激な発言をしてしまった。
俺は壁になって間近で百合を眺めたい派だ。
俺に百合を供給してくれ!
それさえあれば俺は何処でも戦うし、誰でも助ける!
命を賭けるのなんて容易いことだ。
ということで、俺はこの制度がまだ残っている『聖ジャンヌ白百合学園』に入学したいと思った。
成績?あぁ、入学したいと思った時は全く歯が立たなかった。
だから必死に勉強した。
それはもうとにかく勉強した。
だが、それだけではダメだったんだ。
元超お嬢様学園ということだけあって、学費が公立とは比べものにならなかったのだ。
中学生だった俺にお金の問題はどう足掻いても無理だ。
俺は諦めるしかないと思っていたが、中学三年生の夏に突然
そこからはとんとん拍子で『聖ジャンヌ白百合学園』への入学が決まった。
学園長が直々に挨拶に来て、一般市民だった俺が学園長に接待された。
普通は考えられないだろう。
理由は接待されている時に学園長は嬉しそうに話してくれた。
国から補助金が貰えるだけでなく、
学園長はウハウハ、俺もウハウハ。
俺は『聖ジャンヌ白百合学園』へ入学書類などを提出して、その時を待った。
そして時間は進み迎えた3月19日。
入寮する為に学校に向かう日だ。
俺は何を入れるのかわからない位の薄っぺらい黒い革のカバンと少し大きめのカバンを手に持ち、玄関を出ようとすると母さんに呼び止められる。
「司、あなたが
「ありがとう、母さん!俺、頑張ってくるよ!」
「それと、もしも戦いに行くことになっても絶対に死なないでね。これは母さんとの約束だからね」
「おう!俺にはやらなきゃいけない事があるから、絶対死なないよ」
「はいはい、どうせ百合の為とか言うんだろ」
母さんは笑いながらな話す。
「そうだよ、俺は百合を守る者になるからな。それじゃあ!」
母さんに背を向け、右手を挙げて学校の寮に向かう。