目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第106話 薄さ的に、本っていうよりノートかな

 いつにも増して乗り気な≪サポちゃん≫。

 その強引さに引っ張られるようにして、わたしと≪セリー≫は、ダンジョンの壁に突如として現れた裂け目――おそらく隠し部屋へと通じる通路に足を踏み入れた。


「うわっ、急に冷えるね……」


 フロアを下ったわけではないのに、通路に足を踏み入れた途端、一気に気温が下がったのを感じた。これ、防寒具が必要な寒さじゃないかな……。


「嫌な感じがするわね……」


 ≪セリー≫の臆病さが増すのはわかる。

 わたしもちょっと怖くなってきたし……。


【この冷気は通路の奥から流れてきています。これ以上進むには、何らかの対策が必要かもしれません】


 ≪サポちゃん≫による注意喚起。

 まあ、そうだよね。

 一旦足を止めて、チュニックの裾のほう――≪セリー≫のほうに視線を送った。


「んー、さすがに寒冷地用の装備は持ってないよね?」


 念のための確認。

 期待はしていないけれどね。


「私が準備しているとでも? お姉さまに無理やり連れてこられたのよ? 杖を持っていただけでも褒めてほしいくらいよ」


 膝をカクカク震わせながら。


「ごめんって。でもあれは≪サポちゃん≫がやったことなので、クレームは全部≪サポちゃん≫にお願いします!」


 まあ、もちろんわたしも防寒装備は持っていないんだけどね。


【ないよりはマシだと思いますので、こちらの『ホットドリンク』を服用しておいてください】


「ああ、あれね。効果時間10分しかないからコスパ悪いけど、たしかにないよりはマシか……。≪セリー≫は『ホットドリンク』って持っている?」


 ないなら分けるよ。

 一応20個はあるから、2人で分けても100分間はいけるね。


「それくらいなら常備しているものがあるわ」


「OKOK。じゃあ寒くて動けなくなる前に飲んどこ」


 わたしと≪セリー≫は、『ホットドリンク』の小瓶を取り出して、呷るように一気飲みする。

 たちまち体の芯が燃えるように熱くなり……アルコール度数の高いお酒を飲んだ時のような状態に。けれどアルコールとは違って体が怠くなることはなく、体の中心が常に熱く燃えているような状態が維持された。


「ふー、効くなあ。この『ホットドリンク』ってどんな原理なんだろうね」


「さあ?」


 ≪セリー≫は、さして興味ない、といった具合に空の小瓶をインベントリーに仕舞い込んだ。


【2人とも動けるようになりましたね。それでは少し先を急ぎましょう。『ホットドリンク』の効果があるうちに通路の先へ】


 ≪サポちゃん≫がそう言うからには、おそらくこの通路内にモンスターは現れない仕様なのだろう……と思う。


 それならばと、少し大胆に通路を進んでいく。

 壁にはたいまつ型の照明が等間隔に設置されているが、まるで人感センサーがついているかのように、わたしたちの前後5mくらいだけ点いては消え、を繰り返していた。


「すごく人工的な通路……。壁や地面は天然のダンジョンと同じ材質だけど、きれいに舗装整備されているし」


 普通に建築物に見える。


【≪アルミちゃん≫止まってください】


 先頭を行く≪サポちゃん≫が少し緊張感のある声を出して立ち止まった。


「どうしたの? 何かトラブル?」


 とくに何も見えないけど。


【そこに何か落ちています】


 そこ?

 何も見えない。


 と、1歩前に足を出すと、人感センサーが反応して、1つ先のたいまつ型照明が点灯した。


「あ、ホントだ」


 照明が点いたことで、≪サポちゃん≫の言う、「そこに落ちている」何かがわたしにも視認することができた。


「何……? ゴースト⁉」


 プチパニック状態に陥り、わたしの背中に抱き着いてくる≪セリー≫。


「いやいや、モンスターじゃないよ、たぶんね。……紙? 本かな?」


 一応注意を払いつつ、『それ』を拾い上げてみた。


「薄さ的に、本っていうよりノートかな」


 契約書のように立派な装丁などはなく、白い紙を束ねただけの簡素なノート。表紙には何も書いていない。


「なんだろう」


 何気なくページを捲ろうと手を伸ばすと、≪セリー≫が手を重ねてきてわたしの手を止めた。


「不用意にはダメ。呪われたりしたら困るわ」


「それもそっか。どう考えても、ここにノートが落ちているのって明らかに不自然だもんね」


 危ない危ない。

 またAOの時の癖で、『呪詛無効』の指輪をつけているつもりでやっちゃった……。


「んー、じゃあ持っていても仕方ないし、戻して先に進もうか」


 どうせこんなの十中八九罠だし。


 床にノートを戻し、先に進み始めようとしたその時――。


『ワイを無視するなや!』


 背後から声がした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?