いつにも増して乗り気な≪サポちゃん≫。
その強引さに引っ張られるようにして、わたしと≪セリー≫は、ダンジョンの壁に突如として現れた裂け目――おそらく隠し部屋へと通じる通路に足を踏み入れた。
「うわっ、急に冷えるね……」
フロアを下ったわけではないのに、通路に足を踏み入れた途端、一気に気温が下がったのを感じた。これ、防寒具が必要な寒さじゃないかな……。
「嫌な感じがするわね……」
≪セリー≫の臆病さが増すのはわかる。
わたしもちょっと怖くなってきたし……。
【この冷気は通路の奥から流れてきています。これ以上進むには、何らかの対策が必要かもしれません】
≪サポちゃん≫による注意喚起。
まあ、そうだよね。
一旦足を止めて、チュニックの裾のほう――≪セリー≫のほうに視線を送った。
「んー、さすがに寒冷地用の装備は持ってないよね?」
念のための確認。
期待はしていないけれどね。
「私が準備しているとでも? お姉さまに無理やり連れてこられたのよ? 杖を持っていただけでも褒めてほしいくらいよ」
膝をカクカク震わせながら。
「ごめんって。でもあれは≪サポちゃん≫がやったことなので、クレームは全部≪サポちゃん≫にお願いします!」
まあ、もちろんわたしも防寒装備は持っていないんだけどね。
【ないよりはマシだと思いますので、こちらの『ホットドリンク』を服用しておいてください】
「ああ、あれね。効果時間10分しかないからコスパ悪いけど、たしかにないよりはマシか……。≪セリー≫は『ホットドリンク』って持っている?」
ないなら分けるよ。
一応20個はあるから、2人で分けても100分間はいけるね。
「それくらいなら常備しているものがあるわ」
「OKOK。じゃあ寒くて動けなくなる前に飲んどこ」
わたしと≪セリー≫は、『ホットドリンク』の小瓶を取り出して、呷るように一気飲みする。
たちまち体の芯が燃えるように熱くなり……アルコール度数の高いお酒を飲んだ時のような状態に。けれどアルコールとは違って体が怠くなることはなく、体の中心が常に熱く燃えているような状態が維持された。
「ふー、効くなあ。この『ホットドリンク』ってどんな原理なんだろうね」
「さあ?」
≪セリー≫は、さして興味ない、といった具合に空の小瓶をインベントリーに仕舞い込んだ。
【2人とも動けるようになりましたね。それでは少し先を急ぎましょう。『ホットドリンク』の効果があるうちに通路の先へ】
≪サポちゃん≫がそう言うからには、おそらくこの通路内にモンスターは現れない仕様なのだろう……と思う。
それならばと、少し大胆に通路を進んでいく。
壁にはたいまつ型の照明が等間隔に設置されているが、まるで人感センサーがついているかのように、わたしたちの前後5mくらいだけ点いては消え、を繰り返していた。
「すごく人工的な通路……。壁や地面は天然のダンジョンと同じ材質だけど、きれいに舗装整備されているし」
普通に建築物に見える。
【≪アルミちゃん≫止まってください】
先頭を行く≪サポちゃん≫が少し緊張感のある声を出して立ち止まった。
「どうしたの? 何かトラブル?」
とくに何も見えないけど。
【そこに何か落ちています】
そこ?
何も見えない。
と、1歩前に足を出すと、人感センサーが反応して、1つ先のたいまつ型照明が点灯した。
「あ、ホントだ」
照明が点いたことで、≪サポちゃん≫の言う、「そこに落ちている」何かがわたしにも視認することができた。
「何……? ゴースト⁉」
プチパニック状態に陥り、わたしの背中に抱き着いてくる≪セリー≫。
「いやいや、モンスターじゃないよ、たぶんね。……紙? 本かな?」
一応注意を払いつつ、『それ』を拾い上げてみた。
「薄さ的に、本っていうよりノートかな」
契約書のように立派な装丁などはなく、白い紙を束ねただけの簡素なノート。表紙には何も書いていない。
「なんだろう」
何気なくページを捲ろうと手を伸ばすと、≪セリー≫が手を重ねてきてわたしの手を止めた。
「不用意にはダメ。呪われたりしたら困るわ」
「それもそっか。どう考えても、ここにノートが落ちているのって明らかに不自然だもんね」
危ない危ない。
またAOの時の癖で、『呪詛無効』の指輪をつけているつもりでやっちゃった……。
「んー、じゃあ持っていても仕方ないし、戻して先に進もうか」
どうせこんなの十中八九罠だし。
床にノートを戻し、先に進み始めようとしたその時――。
『ワイを無視するなや!』
背後から声がした。