——アタシは、トキメキを探している。
トキメキ。
その丸っこい単語が、嫌でも目についた。
宙をぷかぷか浮いてはしゃぐ、薄緑のおかっぱ生徒が脳裏を過る。
「トキメキって、もしかして」
ザラメがハッとして声を零す。
多分、こいつも俺と同じことを考えている。
俺は、その答えを探るべくページを捲った。
——“トキメキ”って何?
色んな本を読んだけど、分かんなかった。
でも、欲しくてたまらない。満たしたくてしょうがない。
トキメキって言葉に、胸が高鳴っちゃうの。
「やっぱこれ、ミドウの……」
「ですよね」
——せんせーが言ってた。恋はトキメキだって。
恐怖に追い込まれると、恋をしやすくなるって。
“せんせー”の似顔絵と一緒に、文は続く。
「吊り橋効果ってやつか」
「つまり、ミドウさんは生徒を怖がらせることで、トキメキを引き出そうとしたってことですかね?」
「だろうな」
日記を閉じ、教室を一望する。
「他にもなんかあるかもしれねぇな」
ここがポルターガイストの頻発する場所だったのは、物証があったからだろうか。
「探してみましょう!」
「だな」
「捜査……」
「まずはここの書類を……あれ? 佐藤さん、どこへ行くんですか?」
抜き足差し足で出口に向かう佐藤。
「ちょ、ちょ〜っとお手洗いに行こうかな〜って」
「行かせねぇよ?」
佐藤の肩に右手を置く。
そんでもって、がっちり掴む。
「い、痛いな郡。離してよ郡」
「なんで逃げるんだ? まさかここに、不都合なもんでもあるのか?」
「まっさかぁ、そんなことは……」
左手で、佐藤の左手首を握る。
「お前、この異変に関わってるだろ」
「ナ、ナンノコトダカサッパリダヨォ」
「ミドウがガムシロップ持ってたんだよな。お前がいつも持ってるのと同じやつ」
「うわぁ~、す、すっごいぐうぜ~ん……」
目が泳いでるじゃねーか。
つーか死んだ魚みたいに虚を仰いでるぞ。
滅茶苦茶怪しい。むしゃくしゃしてきた。
握る手に力が入る。
「ちょ、いだい! 逃げないから優しくしてぇ!」
「嘘つけ! 絶対とんずら決めるだろお前」
「郡さん、いくらなんでも友達を疑うのは……」
「ひどい……」
「俺が悪いの?! どう考えてもこいつ黒だろ!」
ザラメもコスズも騙されるな。
見たか佐藤のほくそ笑み。「数で勝ったんだけど郡君?」みたいな顔。
1対3、俺が完全アウェーだ。勝ち目がねぇ。
決め手に欠ける尋問。苦虫を嚙み潰したような心地でいると……。
「なぁ佐藤青年。ホワイトボードに、ミドウの名とともに君の名が書いてあるのだが」
救世主がいた!! 鶴の一声ならぬ、神の一声。モザイクのせいで雰囲気台無しだけど。
この一言で、ザラメとコスズが頷き合う。俺たちを回り込み、扉の前で両腕を広げ立ち塞がった!
「ザラメを騙すなんて100年早いです!」
「早い……」
さっき普通に騙されてたんだがな。
「犯人……確保……」
「観念してください!!」
あっさり手のひらクイックターン。すっげぇ切り替えの速さ。ともあれ形勢逆転だ。
「ぁ、あわ……わ」
佐藤はか細く鳴き、丸い汗を滝のように流す。
それを目の当たりにした途端、何かが爆ぜた。今までぐつぐつと腹の中で煮えていたものが、泡を立てて一気に噴き出したような気がして。
佐藤の耳元に顔を寄せ、囁くようにして再度問い詰める。子どもに尋ねるかのごとく、ねっとりと。
「なぁ佐藤クン。ミドウに、協力してるんだよな」
「…………はぃ、その通り、です……」
わななく佐藤の顔は、アンデッドもびっくりするぐらいに青ざめていた。
ザラメがジト目で詰め寄る。
「それで、どうしてミドウさんに協力を?」
「だってそりゃぁ……」
「そりゃぁ?」
呼吸を整えて言ったのが、同情誘う動機ならまだ良かったが。
「面白そうだったんだもん☆」
「ざけんなクソ教師!!」
有罪。情状酌量の余地はなかった。