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将校達の戦い

夕方5時のサイレンが砂浜に鳴り響く。




「はぁ・・・はぁ・・・皆さん、今日の訓練はこれにて終了いたしますわ。お疲れ様でした。6時半に食事が出来上がりますので、その時間までには食堂に集まって下さいまし。では、これより自由時間といたしますわ」




「よっしゃ! 泳ぐか守!」




「お前元気だな・・・俺は一回部屋に戻って休憩するよ」




「そっか・・・それじゃぁ俺も一回戻るかな」




部屋に戻った守は着替えてもう一度砂浜へこっそりと向かう。


砂浜につくなりドラゴンの力を解放飛行や急旋回などを繰り返す。




「飛行にも大分慣れてきたな・・・。少しブレスの練習もしとくか」




守は口を大きく開け、空へ向かって放つ。


一瞬の輝きの後、青い線が天高くへと消えていった。


一通りの動作をこなした後、再び砂浜へ降り立つ守。




「隠れて訓練とは関心ですわね」




「うわっ!? キャロル!? 何してんだこんな所で」



突然現れたキャロルに守は驚きを隠せない。




「少し砂浜を走っていただけですわ。わたくしは一番実力がありませんので、一番努力せねばなりませんもの」




「・・・気にしてんのか? 氷雪会長に言われた事」




「別に。それより何してましたの?」




「ドラゴンの力を使う練習だよ。皆が居る所でやったら怖がらせちまうだろ?」




「怖がったりはしないとは思いますわよ」




「かもな。でも、俺自身あまり理解していないこの力を、やっぱり皆の前で使うのは気が引ける」




「そのドラゴンの力で、何か分かった事などがあったら、教えて下さいまし」




うーん。と守は思い当たる節を考える。




「そうだな・・・。この力を最大まで引き出すと、多分俺は完全にドラゴンの姿に戻ってしまうって事だな。あまり出力を上げると意識が飛びそうになる。それを越えるとドラゴンになる・・・と思う」




「なるほど。ドラゴンに完全に戻ってしまうと、意識が飛んでしまうという事ですわね・・・。」




「まぁ、ドラゴンに戻る練習なんて出来ないから、何とも言えないんだけどな」




守は砂浜に胡坐をかいて座り、夕焼けに染まり始める海を見る。




「・・・海、綺麗だな」




「そうですわね」




「なぁキャロル。お願いがあるんだ」




「何ですの?」




「・・・俺がもし又ドラゴンに戻って、誰かに危害を加えるようなら、・・・お前が・・・俺を殺してくれないか?」




キャロルはその突然の申し出に、困惑しながらも冷静に返答する。




「ばっ・・・馬鹿な事を言わないで下さいまし!それに、わたくしにドラゴンに戻った貴方を殺す力はありませんわ。それにそうなったら軍が、全力で貴方を抹殺するだけですわよ」




「そうか・・・。もしそうなった時、大地達が俺を守ろうと軍に歯向かおうとしたら、お前が止めてくれ。それ位は頼んでもいいだろ?」




「・・・状況次第ですわね」




「なんだよそれーーー」




その時、突然サイレンがけたたましい音を立てて島中に鳴り響いた。サイレンの上に付いてある回転灯が赤い光を放ちながら回っている。




「なっ!? 赤色!?」




「これはどういう事だキャロル!? 何かあったのか!?」




キャロルは座っている守の手を取り、屋敷へ走り出す。




「お・・・おい!?」




「クラス4の出現ですわ!」




「なんだって!?」




屋敷の中ではロビーにある大モニターの前にメイドや執事、それに大地達も異常を察知し集合していた。




「出現場所、状況はどうなっていますの!?」




メイドの1人が答える。




「キャロル御嬢様! 東京第一ゲートにてクラス4甲龍型の出現との事ですわ。クラス4の出現は半年ぶりです」




「第一ゲートですって!? あのゲートはもう閉じて【ロストゲート】に指定されたはずじゃ・・・」




「ですが、そのゲートから出現したのはまぎれもない事実ですな」




パイロットの爺さんが答える。




「おいキャロル。なんでここで戦闘の中継が見れるんだ? 一般には放映されないんじゃ無かったのか?」




「ここは、わたくしのお父様の別荘であると同時に、軍の防衛施設としての役割も果たしておりますの。状況の把握のため特別に許可されているのですわ。そんな事より・・・軍の行動はどうなっていますの・・・このままでは被害が拡大するばかりですわ」




画面の中ではドラゴンが歩き回り、高層ビルを破壊しながら進んでいる。




「一度は閉じたゲート。軍の警備は手薄なはず・・・。これはまたあとで厳しく追求されますな」




「神代校長・・・一体どういたしますの・・・」




その時。一瞬、影のようなものが甲龍型の首元を通り過ぎたと思った瞬間、首元から大量の血液が噴出した。




「あれは・・・狗神か。さすがの速さだな」




「櫻姫、今の見えたのか!? つーか狗神って仁達が出てるのか!?」




「いや、あの生意気な小娘の父親の方だと思われます。大地様もこの前一度、救護室でお会いしたではありませんか」




「あの、咲さんの尻触ってたあの親父さんか!? あんなに強かったのか・・・」




「それに、上に誰かを乗せて来た様でございますね」




モニターを見るなりキャロルの顔色が変わる。




「あれは・・・アリーチェ御姉様!? まさか出動していますの!?」




周りのメイドや執事もざわつき始める。






甲龍型に一撃を食らわせたポチはビルを蹴りながら地上に降り立った。




「おーおー、硬い硬い。歯が欠けてしまいそうだ。やはり煎餅のようにとはいかぬな!」




「クラス4の甲龍型を砕くその牙、そして疾風の如きその速さ。流石は【狂犬】の異名を持つ狗神 中将ですね」




「お主のお尻の柔らかさも流石といった所かの!」




「そういう所が無ければ、素直に尊敬致しますのに・・・。さぁ、皆が到着するまで時間を稼ぎましょう。糸を張りますので駆け回って下さい。ポチちゃん」



そう言ってポチの背中をポンッと叩いた。




「お主・・・根に持つタイプだの!?・・・では【女郎蜘蛛】と言われるお主の実力を、とくと見せてもらうとしようかの」




「引っかかって、こけないで下さいね 狗神中将」




「振り落とされるなよ、お主こそ」




ポチはビルを蹴り、走りながら攻撃をかわしつつ、ドラゴンを囲むようにビルを飛び回った。






「おいキャロル・・・あれ何をやってるんだ・・・?」




「アリーチェ御姉様の得意とする戦術ですわ。知龍型の強靭かつ柔軟性のある鬣をベースとし編み込んだ糸に、御姉様の強力な魔力でさらに強化を加え相手を捕獲する。そのスタイルから女郎蜘蛛の異名をとっていますのよ。じきに相手は動けなくなりますわ。」




次第にキャロルの言った通り動きが鈍くなり、そしてついに動けなくなってしまった。




「噂通りの腕前だな! 大久保 中将!」




「褒めて頂き光栄です。・・・ですが、長くは持ちません」




ドラゴンの動きを止めていた糸が、少しずつ音を立て千切れ始める。




「お主でも止められぬのか・・・」




「クラス4ですもの。簡単にはいきませんわ。・・・しかし、時間は稼げたようですわね」




上空を見上げるアリーチェ。


その視線の先、遠くの上空よりドラゴンが飛来して来る姿が確認できた。


その上から1つの影が飛び降り、ドラゴンに向かって勢いよく降下する。


巨大な斧を持ったその女性は、高速回転しながらドラゴンの頭目掛けてその斧を勢い良く振り下ろす。命中したドラゴンは大きな悲鳴にも似た咆哮を上げ、その頭部からは大量の血液が噴出した。




「硬ってー! マジかよこの硬さ!って・・・うわわ!」




斧を弾かれた女性は勢いそのままに、ビルに激突しそうになる。


すんでの所でアリーチェの糸が絡め取り、激突は避けられるも、蜘蛛の巣に引っかかった虫のような、あられもない姿で宙ぶらりんになってしまった。




「ふー・・・助かったぜ、アリーチェ御姉様!」




「まったく・・・。とりあえず全力で攻撃するのをやめないと・・・あれほど言っているでしょう?」




「いやー。悪い悪い!」




「とにかく・・・神代 元帥 に合流します。エレナ。乗って下さい」




そう言って糸を解除し、ポチの上に乗せる。




「げっ!? この犬ってもしかして・・・狗神 中将!?」




「うむ!」




「いや~・・・乗っちゃってごめんな?」




「気にするな。お主のお尻も中々素晴らしい!」




「ポチ」




「わかっておる! そう急かすな!」




2人を乗せた狗神はビルの屋上に降り立った誠の元へ向かう。


屋上では、誠・桜・咲・小春・剛の5名が待っていた。




「待たせたのう。 時間稼ぎご苦労だった・・・ポチにアリーチェ」




「やはりクラス4となると手ごわいですね」




「うむ。・・・この非常事態にお主らが東京に居てくれて本当に助かった。しかし・・・ポチよ。何故お主が四国の守りを放って東京に居るのだ?」




「授業参観です!」




「ほっほっほ。まぁ良い。相手はクラス4甲龍型。今回、ワシと桜は手を出さぬ。お主らだけでしとめて来い!」




そう言う誠の目は普段見せる優しい校長では無く。軍最高責任者 元帥 神代 誠 としての鋭い眼光を放っていた。




「はい! 先生!」




ドラゴンを抑えていたアリーチェの糸が千切れ、ドラゴンが大きな咆哮と共に誠達の居るビルを睨む。




「俺がすべて引き付ける。皆は攻撃を頼む」




体中を龍麟鉱の鎧で覆った剛が、大きな盾と共にビルを飛び降り、鎧を鳴らしながらドラゴンに向かって歩き出す。


剛は大きく息を吸い、そしてドラゴンにも劣らない声で凄まじい怒声をドラゴンに向けて放つ。


辺りのビルのガラスというガラスは、砕け散り雨のように剛に降り注ぐ。。


ドラゴンは大きく息を吸い剛に向かって火球を放った。その火球は剛に命中し爆風と熱線を撒き散らし辺りに大きなクレーターを作る。


その中心で衝撃で地面にめり込んだ剛が、瓦礫の中から煙を上げながら立ち上がり、もう一度咆哮を上げながら再びトラゴンへとゆっくり歩き出した。






「これが・・・クラス4との戦いか・・・」




「やっぱり怖いよ守君・・・」




千里はキュっと守の袖の握る。




「しかしすげぇな・・・あの鎧の人。クラス4のブレス食らってもピンピンしてるぞ」




「神代チルドレンの1人【不沈漢ふちんかん】事、神代 剛ですわ。大佐階級でありながら、クラス4の鎧とコア。それにクラス5の盾の所有を認められており、挑発の咆哮により敵のヘイトを自分に集中させ全てを受ける。チームの絶対的な盾。それがあの方ですわ。あの方のおかげで他の方が攻撃に集中できますの」




「男の中の男だな・・・! 憧れちまうぜ!」




「大地は真似したら駄目。危ないから」




「そうだよ大地君。危ないよ・・・」




「でも、あの鎧の人も俺らを守ために戦ってるんだぞ? 俺らの代わりにあそこに立ってるんだ。あの人の背中に全国民が居ると思うと、やっぱりすごい人だと思うぞ?」




「大地の言う通りですわ。剛さんも、御姉様方も皆の代わりにあそこで命を賭けて戦っている。そしてそのバトンが、近い将来わたくし達にも必ず回って参りますわ」




キャロルは千里に視線を向ける。




「分かってるけど・・・」




千里は目を逸らし、守の後ろに隠れる。




「大丈夫。嫌なら戦わなくていいからな」




「守。甘やかさないで下さいまし!」




「ひっ・・・」




ムッとした表情をするキャロル。




「大体・・・千里! 貴方本当に戦う気がありますの!? 貴方にもちゃんと戦闘の際役割がありますのよ!? 怖いからといって放棄して逃げては皆に迷惑が・・・!」




旋風がキャロルの肩を叩く。




「そこまでにしておけ。怯えているじゃないか」




千里は守の後ろで半泣きになってしまっている。




「・・・しかし、キャロルが焦る理由も分かる。・・・そうだな。この戦闘が終わったら皆、私の部屋に来てはくれないか? 話がある」




「わかりました」




その間にも戦闘は進行し、軍は次第にドラゴンを追い詰めていくが、ドラゴンの方も一筋縄ではいかず、必死の抵抗を見せる。町は破壊されあちこちで火の手があがっていた。しかし抵抗していたドラゴンも将校達の前についに力尽き、地響きを立て地面に倒れ込み戦闘は終結した。




倒れ込んだドラゴンの前に花子に乗った小春が降り立ち、何やらドラゴンに話しかけ始めた。


もう、首も動かせないのだろう、息も絶え絶えに小さく声を漏らす。小春は目を瞑り右手を挙げ、そのまま振り下ろす。




待機していた将校達はそれを合図に一斉に首目掛け猛攻を始め、最後にアリーチェが首に糸を巻き、首と胴体を切り離し戦闘は終了した。




将校達は即座に四散し、人命救助や消火の作業に移った。


その中1人剛だけがその場に残り、鎧を脱ぎ始める。その鍛えられた肉体には無数の傷、そして火傷の痕が残されていた。すぐさま咲が隣に降り立ち、一言二言言葉を交し一発剛を殴った後、治癒を開始する。




「千里。あの方の傷が誰の為についたのか、よく考えてくださいまし」




「・・・」





ー戦闘現場ー


剛に治癒を行っている咲は相変わらず不機嫌そうな顔をしている。




「毎回毎回ケガしてんじゃ無ぇよ、少しは避けたりしろよ。この鈍亀が」




「盾は受けるためにあるんだろ。それに俺が避けたら攻撃が神代元帥やお前、それにまだ居るかもしれない市民に当たるかもしれないだろ」




「この俺がいるんだ。あの程度の攻撃、この俺様がジジイには指一本触れさせねぇし、市民なんかいくら死んでも構わねぇから、少しは避けろ」




「兄を心配してくれてるのか? 少しは妹らしい事いうようになったな!」




はははと笑う剛。




「して無ぇし! 大体血繋がってねぇだろ! この筋肉デブが!」




咲は剛を蹴るがビクともしない。




「血の繋がりこそ無いが、俺はお前の事をかわいい妹だと思っているし、神代元帥を親父だと思っている。血の繋がりの有無なんぞ大した事では無い。過ごした時間こそが本当の繋がりだ」




「ケッ・・・。寒い事言ってんじゃねぇよ」




咲は立ち上る煙幕と火の粉の中、剛の治癒を続けた。



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