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大地の包丁

大地は3枚の板を並べ、一番左の赤い板をヤットコと呼ばれる長いペンチのような物で掴み、そのまま四角い袋の中の液体へと漬けた。




ジューという音と共に煙が発生する。




そして目を瞑り、その音に耳を澄ました。少しして大地は目をカッと開き液体の中から板を取り出し置いてあった2枚の板の内一枚の上に重ね、もう1枚の板も目にも留まらぬ速さでその上に置き挟む。


そしてすぐさま氷水の中へ入れて冷やしもう一度袋の中の液体に漬け、再び目を瞑った。




今度はその液体から取り出した後、置いてあった白い粉に板の両面に着け、氷水で一瞬冷やした後素早く作業台の上に置き、右手にハンマーを持ち両面を叩き始めた。その後は漬けては冷やして叩いて伸ばしてを繰り返していく。その工程を繰り返し徐々に包丁の形に整えられた板を最後は形を直しながら丁寧に研ぎ、そして一本の包丁が完成した。




「ふぅ・・・。久しぶりにしては良く出来た方じゃねか? どうだ、爺さん」




振り返った大地にキャロルが歩み寄って来る。そしてそのまま包丁を取り上げ、真剣な表情でその包丁凝視し始めた。




「・・・素晴らしいですわ・・・。大地のくせに」




「くせにってのは余計だろ!?」




「どうだ小娘。お前の接着剤でつけ、枚数を増やし強度を水増した板とは出来が違うだろう。確かにお前の作った板は特性を良く理解している、クラス2くらいならその方法でもプレス機を使えば曲げたり潰したりの加工出来るだろうが、クラス3からはこの方法で無いと逆に効率が悪くなるからのう」




「龍の胃酸も、龍の骨粉こっぷんも手に入らないから仕方が無いですわよ!」




「ほう。それじゃあ全て揃えば同じ物が作れるんじゃな?」




「クッ・・・」




「貸せ」




刀坂はキャロルから包丁を取り上げ、近くにあった万力に固定した。




「この大地の作った包丁を、お前の作った包丁で折ってみろ。クラス3以上の加工に必要なのは胃液を使いこなす事だ。それが出来れば曲げる事も龍鱗鉱同士を完全に接着する事も可能になる。時間は無制限、だが板は3枚までとする。大地の隣の加工場はお前の好きに使え。どうせもう使う事の無い加工場だ。以上。




「待ってくれよ爺さん! その包丁はメイドさんにやるんだ返せよ!」




「その小娘が折れなければ、そのままやれば良いじゃろ。もし折られたようならそんなナマクラなら、やらなくて良かったと思え」




「ったく・・・わーったよ。さ、一回帰るかキャロル」




「・・・上等ですわ・・・! このわたくしが大地如きに負けるはずありませんわ! 大地! 本日よりここに泊り込みにて製作にかかりますわ!」




「正気かよ!?」




「桜さんには事情を伝えておいて下さいまし! 刀坂さんよろしいですわよね!?」




「勝手にしろ。奥の部屋は好きに使え」




「あーなったらキャロルはきかねぇもんな・・・。行こうぜ守」




「お・・・おう。 頑張れよキャロル」




守と大地は工場を後にした。




大地の実家では優香が訓練の指導をしていた。そこへ大地と守が馬に乗って帰ってくる。




「お馬さん!」




楓が目を輝かせで走り寄って来て馬を撫で始めた。


馬から下りた大地は、皆にキャロルが工場に泊り込みで修行する事を伝えた。




「そうか・・・キャロルがな。彼女は何に対しても熱心だから関心するな。私も見習わなければな」




「ちょっとやりすぎ感はありますけどね・・・。まぁ俺らも負けないように訓練に励みましょう」




守と大地も訓練に加わる。


夕方までそれぞれ空き地にて訓練を行っていると空から一匹のドラゴンが飛来した。そのドラゴンの上から桜が飛び降りてくる。桜を下ろしたドラゴンは旋回し一声咆哮を上げる




「あれは花子!? マ・・マタ・・・ネ? 又ね!か!」




守は花子に向かって大きく手を振った。花子は再び嬉しそうな咆哮を上げ、飛び去って行った。




「ばっちゃ!」




「すまんな大地。突然会議が入ってしまってのう。一花はちゃんと皆をもてなしたか?」




「酒飲んで今、家の中で寝てるよ」




「何だと!? あのバカ者が・・・!」




怒りをあらわにする桜に、優香が歩み寄る。




「お久しぶりです桜さん」




桜は優香を見るなり、苦虫を噛み潰した様な顔をした。




「なんだ、お前もノコノコとついて来おったのか・・・この【黒田の出来損ない】が」




「何っ!? おいっ! 今なんつった!?」




守を手で制す優香。




「弟が失礼な事を言いました。申し訳ございません」




そう言って優香は深々と頭を下げた。




「・・・訂正しろ! 優香姉は出来損ないなんかじゃ無ぇ!」




「やめなさい守!」




「・・・お前が【龍の子】守だな。本当の事を言って何が悪い。さしずめお前も龍の出来損ないといった所か?」




「桜さん!」




「てめぇ・・・!」




守の体が見る見るドラゴンの姿に変化し始める。




「ばっちゃ! 何言ってんだよ! 謝れって! 守も落ち着いてくれ! な!?」




大地は必死に守をなだめるが、守の怒りが収まる様子は無い。




「いい機会じゃ。その小僧が本当に戦力になるのか見定めてやる。かかって来い【決闘】を受けてやる」




「桜さん! やめて下さい!」




「黙っとれ! 皆の者も手出し無用じゃ!」




「望む所だ! 俺が勝ったら訂正しろ」




「はっ! 若造が図に乗りおって。良かろう、それがお主の【条件】じゃな。こちらの【条件】は来年の予言の日、お主を最前線に投入する。でどうじゃ」




「そんな・・・それじゃ守は・・・」




優香は呆然としている。




「何でもいい!勝てばいいんだろ!」




「では、立会人を・・・旋風。お前がやれ」




「分かりました」




空き地に対峙する2人。真ん中少し後方に旋風が立つ。


守はすでにドラゴンの力を解放し龍人りゅうじんの姿へと変化を済ましている。




「両者準備は?」




「いつでも良い」




「こっちもだ!」




「では・・・これより西日本防衛軍総統 大将 相良 桜 対 特殊戦闘員育成学校東京本部 軍曹 黒田 守 との決闘を執り行う! 勝利条件、相手の戦闘不能及び敗北宣言とする!」




旋風は手刀を上に上げ




「では・・・決闘開始!」




旋風は勢いよく手を振り下ろす。


と同時に、勢い良く地面を蹴り桜に殴りかかった。


桜もそれに合わせて植物の拳で迎え撃つ。お互いの拳がぶつかり合い激しい音と共に、守は空中へと大きく吹き飛ばされるが翼を出し体制を立て直す。

一方、桜の右腕も跡形も無く吹き飛んでいた。




体制を立て直した守は、間髪入れずに口からプラズマの火球を桜目掛けて放つ。


桜は左脚を地面に突き立てる。すると地面から巨大な植物のツタが出現し、守の火球をそのまま守目掛けて打ち返した。




守はそれを間一髪避ける。


その隙に桜は地面から伸ばした植物を駆け上がり、一気空中の守との間合いを詰め再び殴りかかった。


守は咄嗟に体を一回転させ尻尾を使い迫る桜に上から叩き付けた。桜はガードするもはるか下の地面へ一直線に吹き飛ぶ、

地面に激突する寸前、植物の左脚をバネ状に変化させその勢いを利用して再び飛び上がり守を再度襲撃する。守は火球で迎え撃とうとするが、間に合わず桜の巨大化した手に体ごと包まれてしまい、そのまま地面に向けて勢い良く投げられる。が、地面すれすれの所で翼を広げ激突を避けることが出来た。




「っち・・・ちょこまかと小賢しいハエのような奴だのう。ワシも少し本気を出すか。飛梅!」




「はい。ここに。」




小さな手のひらくらいの少女の姿をした精霊が現れ、梅の実に体を変化させる。その梅の実を丸ごと桜は飲み込んだ。




「さて・・・さらばだ小僧!」




桜が地面に手を当てた瞬間、竹が生え、一瞬で守の後ろへと到着する。




「チィッ!」




守は回転し尻尾で攻撃するが、桜はそれをヒラリとかわし逆にツタに変化させた腕で羽をぐるぐる巻きにした後、腕を切り離し元の竹の足場へと戻った。羽の使えなくなった守は地面へと急降下しはじめ。そして地面へと激突した。




「守!」




助けに入ろうとする優香を旋風が目で制す。




「決闘中は先生と言えど、邪魔するこ事は許されません。それを止るのも私の役目です」




「どきなさい!」




「出来ません」




桜は腰の袋から何やら豆のような物を取り出し口に含む。そしてそれを口から出し右手で握り込んだ後、竹から飛び降りた。




「さて・・・意外にあっけなかったのう」




握り込んだ豆から見る見るとツタが伸び、桜の右手に2重・3重と絡みつき最後には巨大なツタの塊が出来上がった。




「あれは・・・!? 殺す気!? 旋風さん! 決闘終了の合図を!」




「出来ません。守にもまだ戦意があります」




守は立ち上がり上空にいる桜に向かって口を開け、こちらも今までで最大の青い火球を作り出していた。そして次第に守の鱗の色が黒色から赤色へと変化を始め、角や牙などの部位が大きくなっていく。




「ほっ! まだ力が上がるか! しかしこのワシの【球棍きゅうこん】を止められるかの?」




「コロシテ・・・ヤル!」




「守・・・意識が・・・! 旋風さん! 貴方は知らないでしょうけど、桜さんのあの技は本来、クラス4を一撃で倒せるほどの力があるんです! 搾取を使用していないのでそこまでではありませんが、それでも無事では済みません! 旋風さん! 貴方は守を失ってもいいの!? 旋風さん!」




「わ・・・私は・・・」




「さて・・・もう十分じゃろう。 行くぞ! 小僧! これで死ぬならそれまでじゃ!」




桜は最大まで大きくなったそのツタの塊を守へと思い切り投げつけ、そして腕から切り離した。


迫りくるその玉を守も最大級の火球を放ち迎え撃つ。その2つが激突し爆音と地鳴りが発生した。






「危ない! 守!!!」




「クッ!」




守の攻撃は桜の球棍を半分ほど削っただけで、破壊するには至らなかった。


残りの半分が守に迫る。守は逃げようとするが、脚が動かない。よく見ると足には太いツルが巻きついていた。




守に直撃したツタの塊は、地面ごと守をを押しつぶす。


その凄まじい衝突による土煙が辺りを包み込む。




「守君っ!?」




「守!」




千里や大地達が守に駆け寄ろうとする。それを旋風が立ちはだかり止める。




「今行ってはいけない」




「どいて下さい会長!」




大地は旋風を睨みつける。




「大丈夫だ。見ろ」




押しつぶしていた植物の塊に亀裂が入り、轟音と共に四方へ爆散した。


守の横には優香が拳を頭上高くかざしている。その拳、そして瞳が赤く燃え上がっていた。


その拳同士を胸の前で打ち付け、桜を睨みつける優香。




「これ以上やると言うなら、私が相手になります」




桜は片足をバネに変え地面へと降り立つ。




「優香・・・その小僧を落ち着かせて治療しろ。それが終わったら2人でワシの部屋に来い」




桜はそういい残して家へと歩いていった。




「グルル・・・」




「守・・・? 落ち着いて。 ほら、私だよお姉ちゃんだよ」




優香はゴツゴツとした鱗を纏った守を優しく抱きこむ。




「ユ・・・ユウ・・・カ・・・ゆうか・・・姉?」




「そう。優香姉ちゃんですよ」




守の姿が除々に人の姿へ戻る。




「俺・・・負けたのか・・・? 痛つッ!」




「ほら、治してあげるからじっとしてて」




「ごめん優香姉・・・」




「何を謝る事がありますか。 私こそごめんね。 もっと早く止めていれば・・・」




他の皆も守へと駆け寄ってくる。




「大丈夫かよ守!?」




「ああ・・・大丈夫だ。 すまんな皆、怖がらせちまったーーー」




千里が突然守に抱きつき涙を流す。




「・・・千里?」




「怖かった・・・」




「すまん。」




「違う! 怖かったのは守君が居なくなっちゃうかもしれなかったって事! でも・・・私助けに行けなかった・・・足がすくんじゃって・・・動けなかった・・・ごめんなさい・・・。」




「千里が謝る事無いって・・・俺こそごめん」




「・・・無茶しないで・・・ね」




「おう・・・ブフッ!」




守の口から血が吹き出す。




「守君!?」




「はいはい! 千里さん。治療しますので離れて下さいねーーー!」




千里は守と優香を引き離す。


そして守を横にし手をかざし治療を始めた。


見る見る傷口が塞がっていく。




「す・・・すごい。 黒田先生・・・治癒魔術も出来るんですね・・・。しかもかなり高度な・・・」




「昔、ある人に教わったのよ。さぁ守。どうかしら?」




「流石優香姉! もうほぼ完治だぜ」




腕をぐるぐると回す守。




「では、桜さんの所に行きましょうか」




「俺は絶対あの婆さんの所には行かないぞ!」




「いいから行きますよ!」




優香は守を引きずりながら、桜の待つ部屋へと向かったのだった。



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