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残された者達

守の去った部屋に大地が扉を開けて入って来る。




「ばっちゃ。あんな言い方したら守が怒るに決まってるだろ。あいつは俺の親友なんだ・・・ひどい事言うなよな」




「わかっておる。悪いとは思っておる。・・・して、挨拶が遅れましたな櫻姫様。ご無沙汰しております」




桜は畳に両手をつき、ゆっくりと深く頭を下げる。




「ふんっ。小娘が。よくもこの余を封じてくれおったな。覚悟は出来ているのであろうな」




「勿論にございます。来年、大きな戦がございます。それまではお待ちを」




「櫻姫。ばっちゃには手出しはやめてくれよな」




「大地様も先ほどご覧になったはずでございます! この小娘の傲慢さを」




「確かにもっと言い方があったとは思うけど、ばっちゃには何か考えがあっての事だろ。な、ばっちゃ?」




「大地・・・」




「大地様がそうおっしゃるのであれば・・・。所で小娘。大地にほどこされている術は余が完全に解かせてもらう。力が制限されているのは何かと不自由でな。余の御神体の所まで行けば力が増幅する。その力を持ってすればお前の小賢しい術など簡単に解ける」




「・・・確かに櫻姫様の力を持ってすればワシの術など児戯に等しいでしょう。・・・大地。術が解ければお主は強大な力を行使出来るようになる。しかし、その力をもってしてもやはりドラゴンは手強い。油断せず、今まで弱いからこそ出来た経験を生かすのじゃぞ」




「心配するな小娘。余が付いておる。いざとなればこの身を捧げてでも大地様を生かす所存だ」




「左様でございますか。なら安心ですな」




「貴様のためではないがな。早速明日余の御神体へと向かう。2、3日は戻らぬ」




「畏まりました。ではワシは食事の準備をして参りますので、これにて」




「おっ。なら俺も手伝うぞ」




「うむ。すまんな大地」




しばらくして、大地は部屋で待機している皆を応接間に呼び出す。


応接間のテーブルには煮物やおひたしなどの田舎料理や刺身が大皿に盛られていた。




「すっごーい! 美味しそう!」




楓は手を叩き、用意された料理を眺めている。




「これ、大地お兄ちゃんが作ったの!?」




「まぁ半分はな!」




大地は得意げにドヤ顔をする。




「大地。君は本当に何でも出来るんだな。関心する」




「氷雪会長は料理しないんですか?」




「基本はコンビに弁当だ」




「・・・栄養・・・偏りますよ・・・」




「大丈夫。コロッケで野菜は取っているし、アイスで牛乳も取れている」




「そ・・・そうですか・・・。とにかく冷めないうちに食べましょう!」




一同は人数分用意された座布団に座り、頂きますをし、食べ始める。




「・・・美味しい」




「おっ! 沙耶それ俺が作ったんだぜ! 旨いだろ?」




「うん。今度教えて」




「いいぜ!」




皆がワイワイと料理に舌鼓を打っている中、千里の箸だけが中々進まないでいた。




「どうした? えっと・・・千里といったかの? 口に合わぬか?」




「い・・・いえ・・・料理はとても美味しいです。でも・・・守君大丈夫かなって・・・」




「守の事は心配するでない。あやつは必ず戻って来る。そういう男だとワシは思っておる。この歳になるまで多くの男を見てきたワシが言うんじゃ。間違いないぞ」




「ばっちゃも昔は超美人だったんだぞ! 待ってろ、写真を持って来てやる」




「これ大地。恥ずかしいわい」




大地は席を立ちタンスの上に飾ってあった写真を持ってき、それを千里は手渡す。


そこには複数の人と一緒に若かりし頃の桜であろう人物の姿があった。




「皆さんお綺麗な方ばかりで・・・あれ? でもこの人どこかで・・・」




「おそらく誠じゃろう。それは50年前の京都大災厄の出陣前。記念に撮ったものだからな」




「まじか!? 知らなかった・・・」




「左から 黒田先生、光先生、誠、雪乃、ワシ、守重もりしげの順で並んでおる」




「守重って誰だ・・・? 教科書とかにも名前出て来た事無くないか?」




「ああ。変わった奴でな、クラス5を倒した後、『俺の名前は公表しないでくれ』めんどくさいからと言ったたので、公表はされておらん。その後しばらく軍の訓練の指導者をしておったのだが、『飽きた』その一言を残して姿を暗ましおった。全く変わった奴じゃった・・・」




「でも討伐隊に選ばれる位だから強かったんだろ?」




「あの中では黒田先生に次ぐ実力を持っておったわい。ちなみに一番弱かったのが誠だ」




『ええ!?』




衝撃の事実に皆は箸を止め声を揃えて驚いた。




「それ本当かよ!? 神代校長が一番弱い!?」




「うむ。武術の才能はあったのだが、基本の実力では一段劣っておった。だからワシらは最初誠がチームに加わる事になった時、足手まといだからと反対したのだ。そこを黒田先生が無理やりな・・・。だが誠の隠された力を知ったとき、納得したがな・・・」




その時扉がガラっと開き一花が一升瓶を片手に現れた。




「いい臭いがする~! 丁度よかった~つまみが欲しかったの~。大ちゃんあーんして~!」




桜の腕が伸び一花を一瞬で包み込み、そのまま締め付ける。




「この大ばか者が! 言いつけも守らず、酒ばっかり飲みよって!」




「ばあちゃんごめ~ん・・・。あ~締め付けないで・・・出ちゃう・・・おうぇ・・・」




桜は一花を慌てて降ろす。




「便所で吐いて来い!」




一花は走って部屋を去って行った。


少しして再び一花が戻ってきた。




「いや~・・・皆さん失礼しました~。私は相良・・・相良 一花ちゃんですっ! 以後御見知り~」




「まったく・・・そのふざけた喋り方どうにかならんのか・・・。皆の者すまんかったな」




「あはは~! いつも大ちゃんがお世話になってますっ! お近づきの印に一杯どうぞ~!」




一花は手に持った一升瓶を前に突き出す。それと同時に桜の拳が一花の頭を殴る。




「未成年じゃ! 馬鹿者!」




「痛いな~もう~。御神酒よ御神酒! ばぁちゃんだって私がまだ小さい頃から、正月の御神酒飲ましてたでしょ~?」




「駄目なものは駄目じゃ!」




「へいへ~い」




そう言いながら一花は手酌をするのだった。




一方守はコーヒーを飲みながらキャロルと他愛もない会話を交していた。




「さ・・・そろそろ、片付けを致しますわ」




守からカップを受け取り流し場で食器を洗うキャロル。


機嫌がいいのか鼻歌交じりで次々と手際よく洗い物を済ます。




「そういえば守ーーー」




キャロルが振り返ると、守は机の上に突っ伏していた。




「守!?」




キャロルは慌てて守の肩をゆする。


しかし守はスースーと寝息を立て寝ているようだった。


拳をギュッと握り振り上げる。が、その拳をゆっくりと降ろし、そしてしゃがみ込む。


守の顔の高さに合わせ、スヤスヤと眠る守の顔を少しの間眺めていた。




「こうして見ると、ほんと・・・ただの人間ですわね」




ふと、守の髪の毛に手を伸ばす。そして先ほどの戦闘でホコリまみれのその髪の毛をそっと撫でる。




(貴方はわたくしの髪が羨ましいと言いましたが、守の髪の毛も人並みに十分黒く美しいですわよ)




キャロルは椅子に座り、守の髪の毛を人差し指でクルクルと巻き取り遊ぶ。




「う~ん・・・」




守の唸り声にキャロルは慌ててその場を離れた。




キャロルは今までの自分の行動を振り返り、急に恥ずかしくなったのか顔を赤らめる。




「わ・・・わたくしったら一体何を・・・! と・・・とにかく起こして外へ・・・」




再びその気持ち良さそうな寝顔を見て思い直す。




「ほんと・・・仕方ない奴ですわね」




キャロルはベッドから薄い掛け布団を一枚取り、それを守るにかけた。




「さ、わたくしはもう一頑張り致しますか」






しばらくして守はカーンカーンという音で目を覚ました。




「あれ・・・俺・・・」




体を起こした守から掛け布団がするりと地面に落ちる。




「・・・キャロル!?」




当たりを見渡すがキャロルの姿は無く、守は音のする工場へ向かった。そこには槌を持ち龍鱗鉱を打つキャロルの姿があった。




「キャロ・・・」




声をかけようとしたが、その集中しきった姿に躊躇われた。


仕方なく一段落するのをその場に座り待つ。


包丁が出来上がったのか立ち上がり大地の包丁に向かって切りつける・・・がキャロルの包丁が一方的に曲がってしまった。もう怒る事もせず、小さく一つため息をつくキャロル。




「苦戦してるようだな・・・」




「あら、やっとお目覚めですの?」




「布団ありがとな」




「さぁ? 何の事かわかりませんわ」




「ったく・・・。もう12時過ぎてるぞ。そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」




「誰かさんが居ましたので」




「ゴメンナサイ・・・」




「そうですわね」




キャロルが守の横を通り過ぎようとした瞬間、キャロルの体がふら付きバランスを崩す。それを守が咄嗟に受け止めた。




「大丈夫かよ!? ふらついてるじゃねぇか!」




「ふんっ。この程度いつもの事ですわよ」




「いつもの事!? お前いつもこんな無茶してるのか・・・?」




「余計なお世話ですわ」




「そんな事言うなよ・・・仲間だろ」




「・・・」




キャロルはフラフラと奥の部屋へと歩き出し、そしてそのままベッドへと倒れこんでしまった。




「おい・・・キャロル!?」




キャロルはうつ伏せのまま寝息を立てている。




「寝たのか・・・」




(いつもこんな事ばっかりしてるのか・・・やっぱすげぇなキャロルは。しかしこれじゃ・・・よし!)






それから3時間ほどした後キャロルが目を覚ます。しかし何故か身動き出来なかった。




「何ですのこれ・・・!? 縄!?」




ベッドの横に座っていた守が声をかける。




「やっぱりな・・・どうせ又ろくに眠らずに作業に取り掛かるだろうと思ってベッドに縛り付けてて正解だったな」




「この・・・変態! わたくしを縛ってどうするつもりですの!?」




「どうもしねぇよ!? そのまま寝てて欲しいだけだって!」




「ふんっ! この程度の縄・・・」




キャロルはもぞもぞと動き出す。




「抜けられるだろうな、俺は大人しく寝てて欲しいからお前を縛った。それでも抜けるってんなら好きにしたらいい」




「・・・時間が惜しいのですわ。一刻も早く加工技術を会得しないと・・・」




「何でお前はそんな全部出来るようになりたいんだ? 出来ない事は出来る他の人に任せればいいだろ? 大地が出来るんなら頼めばいいだけだろ。プライドがそれを許さないのか?」




「守の鳥頭で覚えているかどうかは分かりませんが、わたくしが目指しているのは、いえ、目指さなければいけないのはオールラウンダーですの」




「鳥頭は余計だろ! 覚えてるって! けど無茶してまで焦る事は無いだろって話だよ・・・」




「・・・。貴方だけには話しておきましょう」




キャロルは縄を抜けベッドの上に座る。




「安心して下さいまし。ベッドから降りたり致しませんわ。」




「だと助かるよ」



キャロルはベッドの上に腰かけた。





「守。前にわたくしはオールラウンダーを目指すと確かに言っていましたわ。ですが、あなた方の成長を見てきた事。そして神代校長からの期待。それに氷雪会長などの助言。それら全てを加味した上で・・・」




キャロルは目を瞑り少し息を吸い込む。そして・・・




「サポートに徹する事と致しました」




キャロルは決意の眼差しを守に向ける。




「それってつまり・・・」




「はい。実戦では最前線は立たず後衛にて指揮を取りますわ。武活では指導や武具製作などに重きをおくつもりですわ」




「・・・お前はそれでいいのかよ・・・」




キャロルは少し複雑そうな顔を見せる。




「勿論、前線で華々しく戦う事に未練も頓着もありますが、わたくしが自分で判断した事に後悔はありませんわ」



その表情に曇りは無い。




「そうか・・・。なら俺らはお前が少しでも使いやすくなるように、努力しなきゃな!」




「ですから、守は最強の前衛であってくださいまし。ですので簡単に負けてて帰って来てもらっては困りますの」




守は突然勢い良く立ち上がった。座っていた椅子が地面に転がる。




「守・・・?」




「俺は今までただ目標もなく、ただ漠然と強くなりたいと思ってた・・・。俺は今日からキャロル。お前の為に強くなる! 約束する。」




守は拳をキャロルに向けて突き出す。




「ふんっ・・・。何言ってますのよ・・・。でも・・・期待してますわよ」




キャロルもその拳に自分の拳を合わせる。




「よし! こうしちゃ居られねぇ!」




「守。あなたもしかして・・・わたくしに寝とけとか言いながら、自分は何処かに行くつもりではありませんよね?」




キャロルはジトっとした目で守を睨みつける。




「いや・・・その・・・・」




「気をつけ」




「は?」




「気をつけって言ってますでしょう!」




守は気をつけの姿勢をとる。




キャロルはベッドをぐるぐる巻きにしてあったロープを解き、そのロープで守を縛った。






「お・・・おい。分かったって! 俺も今日は寝るーーー」




キャロルは後ろから守を蹴り倒す。


蹴られた守はそのまま前にあったベッドに倒れこむ。




「おまっ!」




「床で寝て風邪でも引かれたら困りますわ」




キャロルも同じベッドへと入る。




「変な事したら殺しますわよ。では、お休みなさいませ」




「お・・・お休み・・・」




お互い顔を真っ赤に染めている事を、背中合わせの2人が知る由は無かった。







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