「インザシャドウ……」
パッと思い出せなかったので思い出すことは後回しにしてスキルを見た。
影に潜って隠れるスキルで使い方によっては非常に有用なものになる。
最初のスキルとしてはかなり破格なものと言っていい。
「影に潜るスキル……」
スキルを見たらまた何かが思い出せそうになった。
「ええと……あの?」
「大人しくしてろ!」
「あ、はい……」
「…………暗中乃影、暗王候補南真琴か」
「は、はい?」
ようやく思い出した。
世の中にはいろいろな組織がある。
終末教もその一つであるし、覚醒者が集まって作ったギルドも一つの組織である。
そうした組織の中で暗王会という組織があった。
暗王と呼ばれた覚醒者が作った組織で諜報など情報を扱っていた。
しかし暗王会の顔は情報屋だけではなかった。
金さえ積まれれば誰でも秘密裏に殺す、つまりは暗殺も請け負っていたのである。
暗王会は密偵に適した能力者を引き抜いて集めていたのだが基本的に内情は外部の人には分からなかった。
誰が暗王会のメンバーなのかも秘密で、暗王会のメンバーも日常の生活の中に溶け込んでいたと言われている。
ただ一人だけ暗王会のメンバーで名前をバラされた人がいる。
それがマコトであった。
暗王が何かの原因で暗王の名を継がせて世代交代を行おうとし、マコトはその暗王候補だった。
けれどマコトは別の暗王候補に敗れて亡くなり、なぜか暗王会はマコトの素性を公表したのだ。
新たなる暗王による見せしめだったと言われていたが細かな理由はトモナリには分からない。
「な、なんですか?」
回帰前にマコトに何があったのかなどどうでもいい。
大事なのはこの先暗王会で暗王の名前を継ぐ候補になれるほどの実力者が目の前にいるということなのである。
「なんで俺のことをつけていた」
「あ……バレてたんですね」
「気づいてたさ」
マコトの目的は何なのか。
上手くマコトのことを取り込めないかなんてトモナリは考えた。
「その……つけてたのは……」
「つけてたのは?」
「ファン……なんです」
「ふぁん?」
マコトは頬を赤らめて恥ずかしそうに視線を逸らした。
「ゲートのこと話に聞いたんです。クラスの仲間のために一人残ってゲートの特殊モンスターと戦って倒してしまった話を聞いて興味を持ったんです」
「そんなことで追いかけてたのか?」
「そんなことでって! すごいことだと思います。僕は一般クラスですし臆病で。アイゼンさんが同じ生徒なのにそんなことできた勇気がすごいなって思ったんです」
まさかあれでファンができるとは思いもしなかった。
予想もしていなかったストーキングの理由にトモナリは少し困惑する。
「あと……」
「まだなんかあんのか?」
「実は……ヤマザト先輩との戦いも見てたんです」
「あれをか?」
あの場にマコトなんていたかなと思い出そうとするけれどはっきりしたことは分からない。
ただ別に特別利用している人がいなかったという認識だっただけで完全に誰もいないことを確認したり他の人を利用禁止にしたりはしていない。
見ていた人がいても全くおかしな話ではない。
どこかでマコトが見ていたのだろう。
「先輩倒しちゃうなんてすごいなって思ってて、そこでまた君の話を聞いたから……」
「それはいいけど、なんで俺のこと付けてたんだ?」
「それは」
マコトは気まずそうに目を逸らす。
「何がヤバいことでもしようとしてたのか?」
「そ、そうじゃなくて! と、友達になりたくて……」
マコトは耳を真っ赤にして消え入りそうな声で答えた。
「友達……」
「そんなすごい人が近くにいるんだと思ったら知りたくなって。そして見てたら……アイゼン君良い人そうだし」
だから機会をうかがうためにトモナリのことを付け回していた。
タイミングを見計らってトモナリに声をかけるつもりだったのだ。
いざ声をかけようと思うとすると緊張してしまい、ただのストーカーになっていたのである。
「まさかバレてるなんて思わなくて」
確かにバレていると考えた時には相手から見てみるとかなり怪しいだろうとマコトは反省する。
「まあ押し倒してすまなかったな」
「僕が悪いんだ」
考えていたような危険な目的ではなかった。
トモナリが視線を送るとヒカリはマコトの上からどけてトモナリの肩に引っ付く。
トモナリが手を差し出すとマコトは恥ずかしそうに笑って手を取って立ち上がる。
「それにしても……どうして一般クラスなんだ?」
マコトの職業である忍者は珍しい職業である。
さらにはスキルも珍しい。
能力値も素早さを中心として高めな方である。
特進クラスでもおかしくない。
「入学テストの時モンスターを刺すのに少しためらっちゃって。ギリギリ退場にはならなかったけど特進クラスへの声はかからなかったんだ」
少し控えめな性格でありそうなことは見ていてわかる。
入学テストの時の様子を見て覚醒者としてのメンタル的な資質が特進クラスには相応しくないと判断されたのかもしれない。
「特進クラスに入りたいのか?」
「……うん。僕は覚醒者としてやっていきたいんだ」
「じゃあ、友達になろうぜ」
「えっ?」
「友達になりたかったんだろ? 友達になろう」
「あ、う、うん!」
「特進クラスで待ってるぜ」
「特進クラスで……? それはどういう?」
「ふふ、後になったら分かる。今日はもう遅い。帰ろうぜ、マコト」
トモナリは意味ありげにニヤリと笑った。
「トモナリの友達なら僕の友達だな! よろしくマコト!」
「よ、よろしくお願いします。アイゼン……」
「トモナリでいいよ」
「ヒカリ様でいいぞ!」
「よろしくお願いします、トモナリ君、ヒカリ様」
「うむ!」
様付けで呼ばれてヒカリは満足そうに頷いた。
敗れたとはいえ、暗王候補だった。
これを逃す機会はないとトモナリは思っていたのであった。