「さっさと倒してさっさと帰ろう」
「行くのだ!」
ヒカリほどでないにしてもトモナリだってまだ平和な今のうちに毎日テントに泊まっていたいわけじゃない。
ボス部屋に一歩足を踏み入れるとボスブルーホーンカウが顔を上げてトモナリのことを見た。
ボス部屋の外にいる時はいくら騒いでも興味も示さなかったのに入った途端に動き始めた。
ボスブルーホーンカウが立ち上がる。
間近で見てみると思っていたよりも大きく見える。
ボスブルーホーンカウがトモナリのことを睨みつけて前足で地面を蹴って突撃する仕草を見せる。
「クドウ!」
「うん!」
ボスブルーホーンカウが走り出した瞬間サーシャがトモナリの前に飛び出す。
「ふっ!」
ただ待ち構えるでも正面から受けるでもない。
サーシャは前に足を踏み出しながらボスブルーホーンカウのツノに斜めに盾を当てた。
ボスブルーホーンカウのツノは盾の表面をガリガリ削りながらも滑ってしまい十分な力を伝えない。
サーシャはグッと腰を落として力を受け流し、ボスブルーホーンカウは軌道を斜めに変えられて攻撃の対象を失った。
「おりゃああああっ!」
急ブレーキをかけて止まったボスブルーホーンカウにユウトが横から切りかかる。
ズバッと剣で胴体を切り裂くがボスブルーホーンカウは怯む様子もなくユウトの方を振り返った。
普通のブルーホーンカウならば怯んでいたような一撃だったが、体の大きなボスブルーホーンカウは耐久度も高く体も大きいためにユウトの一撃も相対的に軽くなってしまった。
「くらえ!」
頭を下げてユウトに向かって突進しようとしたけれどコウがフォローするように魔法を放った。
火の玉が頭に当たって小さく爆発し、ボスブルーホーンカウは頭を振って怯む。
「はっ!」
その隙に近づいたミズキが刀を振る。
ボスブルーホーンカウの左目が切り裂かれて悲鳴のような声を上げる。
「ぬふふ! 僕もやるのだよ!」
ヒカリがボスブルーホーンカウのツノをむんずと掴む。
「うわぁ……」
見ていた生徒たちから思わず声が漏れた。
ツノを掴んだままグルンと体を縦に回転させたヒカリはボスブルーホーンカウをそのまま高く持ち上げて地面に叩きつけたのである。
未だにマスコット的にヒカリのことを見ていたみんなはヒカリの力に驚いていた。
トモナリも若干驚くぐらいの力強さである。
「はははっ、ヒカリいいじゃないか!」
「ふふーん!」
嬉しい誤算の強さ。
トモナリは笑いながら倒れるボスブルーホーンカウに近づく。
ルビウスに魔力を込めると赤い刃から炎が上がる。
「終わりだ!」
ボスブルーホーンカウは頭を上げてツノでトモナリの剣を防ごうとした。
けれどトモナリはそのまま剣を振った。
「ほほぅ……強いな」
ルビウスはボスブルーホーンカウのツノごと首を切り落とした。
ブルーホーンカウよりも強いはずのボスだったのに8班は巧みな連携と圧倒的な力を見せて簡単に倒してしまった。
みんなが呆然とする中トモナリはルビウスにより魔力を込めて剣についた血を燃やして払う。
「やったのだ、トモナリ〜」
「レベル9……ギリギリだったな」
褒めて! と飛びついてくるヒカリの頭を撫でながらトモナリは自分のステータスを確認する。
ボスを倒したせいなのかレベルは9になっていた。
「終わりました!」
トモナリがイリヤマに向けて手を振る。
「あ、ああ……」
イリヤマですらトモナリたちの力に驚いていた。
「あの赤い剣の子すごいですね」
「ダメだぞ? あの子は自分で翼を広げられる子だ」
「あんな才能見せつけられて声もかけるなと?」
スイセンギルドのギルドマスター山崎正輝(ヤマザキマサキ)がマサヨシに声をかけた。
トモナリの力は凄まじい。
おそらくまだ本気でもないとヤマザキは見ている。
現段階でもかなりの実力であった。
是非とも卒業後はギルドに来てほしいと思った。
しかしマサヨシは声をかけるなとヤマザキに釘を刺す。
「アイゼンにちょっかいを出すならスイセンギルドとの関係は終わりだ」
「それは……困りますね」
アカデミーからの仕事はリスクが低く割がいい。
アカデミーを手伝うことで周りからの印象も良く利点の大きな仕事なのである。
ここでアカデミーから切られると今度は周りからどんな目で見られるか分かったものではない。
「仕方ない……諦めます」
「ふっ、ただ注目しておくといい。アイゼンはきっと今後を担う覚醒者になる」
「キトウ先生がそこまでいうのなら凄い才能なのですね」
「覚醒者としての才能だけじゃない。アイディアもあるし、常に努力を重ねている」
「……ミズハラみたいですね」
「その名前を出すな」
「……すいません」
ボスを倒すとゲートは閉じてしまう。
すぐに閉じるものではないが閉じたゲートの中にいると帰ってこられなくなるので素早く撤収しなければならない。
スイセンギルドがボスブルーホーンカウを運び出し、ゲートから出たトモナリたちはテントなどを片付けて帰路についたのであった。