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魚人ゲート2

「どの子がアイゼン君かな?」


「俺がそうです」


「君がそうか。父さんから君の話は聞いているよ。これまで挨拶できなくてすまないね」


 トモナリもテッシンと直接会うのは初めてだった。

 一年近くテッサイの道場に通っていたけれどもタイミングが悪くてテッシンとは会わなかったのである。


 テッシンは日頃会社員として働きながら夜の時間帯に師範代として門下生を教えていた。

 日中にテッサイに教えてもらっていたトモナリとは基本的に時間が合わないのだ。


 ミズキは母親似であると思うけれどテッシンもどことなくミズキに似ている。


「ええと?」


 テッシンはトモナリの顔をじっと見つめる。

 意図が分からなくてトモナリは困惑する。


「おてんばな娘だけど良い子だ。うちの娘のこと頼むよ」


「えっ? あぁ、はい……」


「もうお父さん! 変なこと言わないでよ!」


「ははっ、すまないな」


 朗らかに笑うテッシンは良い人そうだった。


「ここがみんなの部屋」


「おおー、広いな!」


「旅館みたいだね」


 道場があるので母屋である建物は外から見たよりも大きくはない。

 それでも十分な広いし客間なんてものまでしっかりと家の中にある。


 トモナリたち四人が泊まっても余裕がある。

 自分の部屋とは大違いだとトモナリは畳敷の部屋を見て思った。


「サーシャちゃんは私の部屋ね」


「ん」


「じゃあ荷物だけ置いて海に行くか!」


 事前に立てていた計画としては今日は海に行くつもりだった。


「あっ、ちょっとだけ待ってくれ。挨拶したい人がいるんだ」


「ああ、分かった。先に準備してるよ」


 トモナリは部屋を出て道場に向かった。


「師匠、いますか?」


 トモナリが道場に入るとそこにはテッサイがいた。

 初めて会った時のように座禅を組んで瞑想をしている。


「師匠、ご挨拶に伺いました」


「久しぶりだな」


 スッと目を開けたテッサイはトモナリのことを見る。


「お元気そうで何よりです」


「ふふ、お前さんの方こそ。男子、三日会わざれば刮目して見よというが……鍛錬は怠っていないようだな」


 出会った時には細い子供だった。

 その時から比べるとトモナリの体つきはがっしりとしていて強い生気がみなぎっている。


 テッサイは覚醒者でないから魔力を感じることはできない。

 それでもトモナリの力強さは分かった。


「もちろん毎日頑張ってますよ」


「そうか。ならいい。頑張っているものに小言は必要ないだろう」


「テッサイ、僕もいるぞ!」


「もちろんだとも。息災か?」


「うむ、息災だ」


「それはよかった」


 以前変わらぬヒカリの姿にテッサイも笑顔を浮かべる。


「大きな困難を乗り越えたようだな」


「……そうです」


「ミズキのやつから聞いたのだ。人類は困難に立ち向かわねばならない。それは理解している。しかし無理なことはするなよ」


「はい」


「師より先に行く弟子などあってはならないのだからな。何事もやるならば慎重に、命を大事に突き進め」


「肝に銘じておきます」


 やるなとは言わずトモナリの意思を尊重しながらも心配はしてくれる。

 良い師匠である。


「今日もやることがあるのだろう? それが終わったらまた少し手合わせしよう」


「分かりました」


「楽しんできなさい。輝かしい時間は大切だ。可愛い弟子に餞別をくれてやろう」


「そんな……」


 テッサイは懐から一万円札をピラリと取り出した。


「こう歳をとると使うこともない。お友達といいものでも食べてくるといい。ミズキには内緒だ」


「……いただきます、師匠」


 ーーーーー


「海だー!」


 今時海に行くのも簡単なことではない。

 なぜなら海にもモンスターが現れる可能性があるから。


 ゲートは人の目があるところばかりに出るわけではない。

 人の目がないところに現れて放置されてしまった結果ブレイクを起こしてしまうケースも珍しくないのである。


 人の目が届かないところの中には海の中ということもあり得ない話ではない。

 海の中にゲートが出現して誰も気づかないままにブレイクを起こしたという事例がいくつかある。


 中には水に対応していないモンスターゲートでそのままモンスターが死んでしまったこともあるが、水の中で生きられるモンスターで海にモンスターが広がってしまっている状況もあるのだった。

 そのために多くの海岸は危険区域に指定されていて遊ぶことができない。


「ユウト、こっちだ」


「うーす」


 もちろんトモナリたちが訪れた海岸も同じなのだけど、この海岸では遊ぶことができる。

 なぜなら覚醒者ギルドによって管理されているから。


「入場料……大人六人で」


 覚醒者が常に駐屯し、海や浜辺を見張ることで安全を確保して遊ぶことができる。

 その代わりに浜辺への入場料を支払わねばならないがこれぐらいなら必要経費だとトモナリも割り切っている。


「結構人がいるな」


「遊べる海は少ないからね。しょうがないよ」


 入場料は必要であるけれど海は人でごった返している。

 今では遊ぶことのできる海は少ないのでどうしても人が集まってくるのだ。


「それじゃあ着替えようか」


「あそこで集まろう」


 海岸は覚醒者ギルドが管理しているために設備も大規模な更衣室からしっかりした海の家まで揃っていて快適に遊べる環境が整っていた。

 海で遊ぶのだ、まずは水着に着替えることが必要である。


「ミズキのミズギ……ププ……」


 ヒカリは一人で何かを呟いて笑っていた。

 男女分かれた更衣室に入ってトモナリたちは水着に着替える。

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