「どど、どうしますか?」
「一般人の避難の時間を稼ぐぞ!」
浜辺に広がっていた騒がしさが一転して別のものになってしまった。
トモナリはインベントリの中からルビウスを取り出す。
基本的に自分の武器や装備は必要のない時はインベントリに入れて持ち歩いている。
『おお! これが海というやつか!』
「呑気なこと言ってる場合じゃないぞ! 敵だ!」
『ふむ、ゲートか』
「一般人が逃げるまでモンスターと戦う」
『好きにせい。妾はお主に従うだけだ』
トモナリがルビウスを鞘から抜くとそれだけで火花が散る。
「みんなも手伝ってくれ!」
「う、うん」
「分かった!」
「私……武器持ってないよ!」
マコトとコウは同じくインベントリから武器を取り出した。
しかしミズキ、サーシャ、ユウトは武器を持っていなかった。
インベントリに入れ忘れたとかそういうことではなく元々自分用の武器を持っていなかったのである。
アカデミーから貸し出される武器を使っているのでインベントリに武器を入れていないのだ。
「三人は一般人の誘導を頼む!」
武器がなくても格下のモンスターとならば戦うことはできる。
しかし今は防具すらないので武器がないだけよりもリスクが高い。
ここは一般人が冷静に逃げられるように誘導をお願いする。
「すぐに海水浴場を守るギルドが来るはずだからゲートやモンスターから人々を遠ざけるだけでも十分なはずだ」
「……分かった」
ミズキはやや不満そうであるけれど武器がなければ戦えない。
「二人とも行くぞ!」
「僕も行くぞー!」
トモナリとヒカリはマコトとコウと共にゲートの方に向かう。
もうすでに海を警護していた覚醒者や遊びに来ていたと思われる覚醒者が戦い始めている。
「マーマンか!」
現れているモンスターは魚のような見た目をした二足歩行のモンスターでマーマンと呼ばれているものであった。
手には三又の槍を持っていて奇妙な声を上げながら逃げ惑う人たちを襲っている。
「きゃっ!」
「危ない!」
「うりゃりゃー!」
子供抱えた女性にマーマンが飛びかかる。
トモナリが素早く間に割り込んで槍を剣で弾く。
そしてヒカリがマーマンの胴体を爪で切り裂いた。
No.10での戦いでトモナリが強くなったからヒカリもまた強くなっている。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……助かりました」
「早く逃げてください!」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「チッ、多いな」
助けた親子が逃げて行くのを確認してトモナリは周りの状況を確認する。
ゲートから続々とマーマンが出てきている。
逃げ惑う人々の動揺は大きく、明らかに誘導もモンスターと戦う人も足りていない。
マコトはコウのフォローを受けながらマーマンと戦っている。
マーマンは水中では自由に動き回ることができる厄介なモンスターであるけれど、地上では十分に能力を発揮できない。
マコトとコウが互いをうまくフォローし合いながら戦えば地上におけるマーマンは問題なさそうである。
「トモナリ君、人が!」
「人? ……あいつら!」
マコトの叫び声でトモナリがゲートの方を見るとマーマンがぐったりとした人をゲートの中に運び込もうとしていた。
「くっ……邪魔するな!」
助けに向かおうとしたトモナリの前にマーマンが数体立ちはだかる。
「ルビウス!」
このままでは連れ去られた人が危険である。
トモナリはとっさにルビウスを召喚した。
「ええっ!? ヒカリさんが二人!?」
ヒカリとよく似た赤いチビ竜が現れてマコトは驚く。
「ルビウス、さらわれる人たちを追いかけてくれ!」
「任せよ!」
「今度はこっちが邪魔させてもらうぜ!」
飛んでいくルビウスに槍を突き出そうとしたマーマンの胸をトモナリが剣で突き刺す。
ルビウスは連れ去られた人を追いかけてゲートの中に飛び込んでいく。
「テメェら……人さらって何するつもりだ!」
言葉が通じないことなんて分かっている。
さっさとさらわれた人たちを助けねば手遅れになってしまうかもしれないとマーマンに切り掛かる。
「ほい!」
「いいぞ、ヒカリ!」
突き出された槍をヒカリが横から蹴り上げる。
その隙にマーマンに近づいたトモナリは一太刀でマーマンを切り捨てた。
「はっ!」
出し惜しみしている時間などない。
トモナリは剣を持たない左手から電撃を放つ。
マーマンは水に住むモンスターなので電気の攻撃に非常に弱い。
電撃を受けてマーマンは激しく体を震わせ持っていた槍を落とす。
「食らうのだ!」
追撃でヒカリが炎のブレスを放ってマーマンたちにトドメを刺す。
「トモナリ君!」
「マコト、コウ!」
「どうやら覚醒者ギルドが駆けつけたみたいだね」
いつの間にか武装した覚醒者が増えてマーマンを押し返し始めていた。
浜辺を守る覚醒者ギルドが来ているようだった。
一般人の避難もだいぶ進んでいてもう大丈夫なところまで来ているようにトモナリの目には映っている。
「君たちは覚醒者かい?」
武装した覚醒者の一人がトモナリたちに声をかけてきた。
「そうです」
「協力に感謝する。あとは我々ミネルアギルドに任せてくれ」
ミネルアギルドというのが海水浴場を護衛している覚醒者ギルドであった。
ゲートが発生してから駆けつけるのも早い。
それなりにちゃんとしたギルドのようであるとトモナリは感じた。