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魚人ゲート8

「まあ普段はこの剣の中にあるんだよ」


「妾にひれ伏せ!」


 偉そうに腕を組むルビウスだけど腕が短すぎて自分を抱きしめているようだった。


「もう一つの目ってまさか……」


「そう、ルビウスのことだよ」


「……言ってくれればいいのに」


「驚かせたくてさ」


「トモナリ君には驚かされてばかりだよ」?


 コウは苦笑いを浮かべる。

 トモナリの能力には本当に驚かされることが多い。


 賢者の職業をもてはやされてきた自分が恥ずかしくなるほどだと感じてしまう。


「ともかくルビウスを先に送り込んで状況は把握してある」


 中の環境はもちろん、マーマンがさらった人をどこに連れていったのかもルビウスを通じて分かっている。


「これから俺たちの目的はさらわれた人の救出だ。モンスターと戦うこともあるだろうけど出来るだけ交戦を避けて助け出すんだ。いいな?」


 あまりゲートの中で作戦会議を行うのは褒められたものではないが外ではミネルアギルドの視線があった。

 横から口出しされたり変に正義感でも湧き起こって止められたら面倒なので中で今回の行動を確認しておく。


「相手はマーマンだ。陸上ではそんなに強い魔物じゃないが……武器を扱うような知恵がある。相手はこの先にある入江の洞窟に人を連れていったようだ。ボスなんかもそこにいる可能性があるから十分に注意するんだ」


 トモナリの話をみんな真面目な顔をして聞く。


「可能なら相手にバレずに助けてそのままゲートを出たいけど……難しいだろうな」


 マコトの能力なら潜入は可能だろう。

 しかしなんの能力もない一般人を連れて隠密に行動することはかなり難易度が高い。


「潜入はこっそり。そして脱出で暴れて一気に突破。これが今の所いいだろうと思ってる」


「そうだね。一回の戦闘で帰ることができればいいだろうね」


「ただ……みんなの実力ならこのゲートを攻略しちゃうこともできると思ってる」


 トモナリはニヤリと笑った。

 目的はゲート攻略ではないがここにいるみんなとならゲートの攻略も夢ではない。


 もしかしたら下手にさらわれた人を助け出すよりもマーマンを倒してしまった方が早いかもしれないとすら頭の隅では思っている。


「まっ、それは次善の策だ」


 変に攻略を優先してさらわれた人を危険に晒すことなどない。

 トモナリの言葉にみんなが頷き返して行動の方針は定まった。


「まずは洞窟がある入江まで行こう。マーマンがいたら戦いは避けるけど無理そうなら仲間を呼ばれる前に処理だ」


 トモナリたちは浜辺に沿って移動を始める。


「……モンスターいないね」


 さらわれた人を助けるためには素早く動かなきゃいけないがマーマンに見つかって騒がれると厄介なことになる。

 まだみんなの経験が浅くて突発的な出来事に対応できないことを考えてあまり急ぎすぎず高い警戒を保つようにしていた。


 いつでも戦えるように気を張っているのだけど、今のところマーマンのマの字もない。


「ゲートがブレイクを起こしてるからな」


「……どういうこと?」


 キョロキョロと周りを警戒しているミズキは不思議そうな顔をしているがトモナリはそんな予感もしていた。


「よく考えてみろ。ゲートがブレイクを起こしてあんだけモンスターが出てきたんだ。中のモンスターが少なくても不思議じゃないだろ?」


「あ、確かに」


 ゲートブレイクが起きると中からたくさんのモンスターが飛び出してくる。

 ただモンスターだって無限に湧くわけじゃない。


 外に出てくるモンスターの数が多ければ多いほどゲートの中のモンスターは少なくなるはずなのだ。

 ゲートから出てきていたマーマンの数は多かった。


 正確な数なんてものは分からないが砂浜はマーマンの死体だらけになっていた。

 出てきたモンスターが多いということは中は手薄になっているだろうとトモナリは思っていたのである。


 今のところは予想通りマーマンの姿はない。

 ゲートの中にいた多くのマーマンが外に飛び出してしまったためである。


「これもゲート攻略できそうって言った理由だよ」


 モンスターの数が少なければ攻略はしやすくなる。

 外で見た数をゲートの中で相手するのは難しいがもうそんなに残っていないのならトモナリたちでも勝機はある。


 無理をするつもりはないが経験を積む上では良いチャンスかもしれない。

 ついでにいけすかないミネルアギルドの面目も叩き潰せれば最高なのであるのだがとトモナリは思う。


「あそこだぞ!」


 トモナリはヒカリを抱きかかえ、ルビウスはトモナリに肩車されるような感じになっている。

 サーシャ曰くトモナリ含めてカワイイ状態らしいがトモナリはそんな目で見られていることに気づいていない。


 ルビウスが短い前足を伸ばした。

 砂浜が陸側に大きくえぐられるようにへこんでいる場所が先にあり、入江の砂浜の真ん中に洞窟が見える。


「マーマンの姿はありませんね」


 マコトが洞窟周りの様子を確認する。

 怪しい場所があれば大体それはモンスターに関連する場所である。


 ルビウスは人が洞窟に運び込まれたと言っているし洞窟もマーマンの巣か何かだろう。

 しかし洞窟周りにもマーマンの姿はない。

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