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魚人ゲート12

「トモナリ!」


 トモナリが切り捨てたマーマンの死体から黒い煙が出てきてトモナリを覆った。

 なんだか湿度が高い空気に包まれたような微妙な不快感がある。


「こんなもん効かないぜ!」


 トモナリは剣のルビウスに魔力を込めて炎を発生させる。

 剣を振って炎を飛ばす。


 黒い煙の中から炎が飛び出してきてマーマンシャーマンは反応しきれず杖でガードしてしまった。

 炎がまともに当たって杖が叩き折れる。


「くらえ!」


 少し遅れて黒い煙からトモナリも飛び出して剣を振るう。


「チッ!」


 転がるようにして逃げるマーマンシャーマンの左腕が切り裂かれた。

 倒す気であったのに黒い煙のせいで目測を見誤った。


 マーマンシャーマンを守っていたマーマンが一斉にトモナリに襲いかかる。


「ふっ、いいのか?」


 また邪魔が入った。

 しかしトモナリは余裕の笑みを浮かべた。


「ぬっふっふっふ〜」


 マーマンたちは忘れている。

 トモナリは一人でないということを。


 腕を失ったマーマンシャーマンが転がっていった先にはヒカリがいた。

 トモナリが派手に攻撃したのでヒカリの存在がマーマンたちの中で薄れていた。


 しかしここまででもヒカリもマーマンのことを軽く倒してきた力があるのだ。


「ドラゴン……クロー!」


 マーマンシャーマンはマズイという顔をして、ヒカリはニヤリと笑った。

 護衛のマーマンはトモナリの方にいてもはや間に合わない。


 ヒカリが力を込めると爪がシャキンと少し伸びる。

 さらにそこに魔力を加えて淡く光る爪をヒカリはためらいなく振り下ろした。


「ふっ……またつまらぬものを切ってしまったのだ……」


 どこで覚えたそんなセリフ。

 マーマンシャーマンはヒカリのために切り裂かれて縦に五分割になって地面に倒れる。


「ヒカリ、よくやった!」


 マーマンシャーマンがやられてマーマンたちに動揺が広がる。


「体軽くなった!」


 マーマンシャーマンがやられたことで呪術によるステータス低下も解除された。

 残りのマーマンの数を見るにもはや勝敗は決したも同然である。


「どおおおおりゃああああっ! やったーーーー!」


 気づけばマーマンもトモナリたちよりも少なくなっていた。

 ミズキが最後に残ったマーマンを切り裂いて勝利の雄叫びを上げる。


「……結局全部倒すことになっちゃったな」


 最初の予定ではさらわれた人を助け出すつもりだったのだけど仕方なくマーマンを全滅させることになってしまった。

 陸上で相手したのでマーマン一体一体は弱かったけれどなんせ思っていたよりも数がいた。


 さらわれた人たちを守りながらよく戦ったものだとトモナリはみんなの成長に感心してしまう。


「みんな、まだ油断するな。ゲートは出るまでだぞ!」


 ゲートは出るまで何が起こるか分からない。

 ボスを倒し、その場にいるモンスターを全滅させたからと油断をしてはいけないのである。


 さらわれた人たちもいる。

 最初の目的はさらわれた人たちの救出であった。


 さらわれた人たちを安全なところまで運んでようやくトモナリたちも落ち着けるというものである。


「皆さん動けますか?」


 見たところ多少の怪我はしているようだが動けないほどの怪我させられている人はいなかった。

 トモナリが声をかけるとさらわれた人たちは怯えたような顔をしながらも立ち上がる。


「俺たちが護衛しますのでこのまま脱出します」


「君たちが助けに来てくれたのか? 他の大人たちは……」


「助けられる人が助けに来ただけです」


 どうしてまだ高校生ぐらいの子たちしかいないのかと冷静になれば疑問にも思う。

 大人たちは助けに来なかったんだよとは答えずトモナリは笑顔を浮かべておいた。


 マーマンの死体はトモナリがインベントリに入れて回収し、それからゲートに向かう。


「ゲートだ!」


「ああ、よかった!」


 途中マーマンに襲われることもなくゲートが見えるところまでやってきた。

 さらわれた人たちにはゲートを見て涙ぐんでいる人もいた。


「こっちいないのだ」


「こっちもおらんぞ」


 ヒカリとルビウスで空から左右離れたところも警戒して最後の最後まで気を抜かない。


「へへ、やったなトモナリ」


 隣に立つユウトがニヤリと笑ってトモナリのトンと小突いた。


「……ああ、みんな強かったよ」


「お前もな。それにちょっと意外だったよ」


「何が?」


「こんなふうに人助けに行こうなんて熱い奴だったってな」


「別にそんな……」


「照れんなよ」


 冷めた奴だとは思わないが危険を冒しミネルアギルドに突っかかって、そして頭を下げて装備を借りてまで人を助けに行くような熱い心の持ち主だったのは少し意外だった。


「結構お前のこと好きだけど……もっと好きになったよ」


「ありがとよ。こうして一緒に来てくれるお前も好きだぜ」


「惚れんなよ?」


「言ってろ」


 トモナリとユウトは拳を突き合わせる。

 外ではゲート攻略するためのギルドが到着していてトモナリたちが無事に出てきたことに驚いていた。


 ミネルアギルドの人に睨みつけられていたような気はするけれど、助けに行かないという判断をしたのも勝手に助けに行けばいいと言ったのもミネルアギルドである。

 何も文句を言われる筋合いはない。


 次の日の朝刊で鬼頭アカデミーの学生覚醒者がモンスターに誘拐された人を助け出しゲートを攻略したと一面に載ることになったのであった。

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