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サポーター……執事?

「先輩、起きてください」


 トモナリの朝は少し早く起き、自分の身支度を整えてからフウカを起こすことから始まる。

 寝ている女の子の部屋に入ってもいいのかと思ったのだけど、フウカがトモナリがいる間はトモナリに頼る宣言をしたので仕方なくお部屋にお邪魔して起こす。


「おーきーるーのーだー」


 ただフウカも一度声をかけたぐらいでは起きない。

 ヒカリがグニグニとフウカの頬を爪の先でつっつく。


「……!」


「はぁっ! わーはっはっ! もうお見通しなのだー!」


 カッと目を開けたフウカが手を伸ばしてヒカリを捕らえようとした。

 しかしヒカリもヒカリでフウカより一瞬早く反応して見せて飛んで回避した。


 フウカに抱きかかえられることはヒカリにとって不満そうであるが、フウカそのものが嫌いだということでもないようだ。

 ヒカリが起こしに行ってフウカに捕まるということを毎日繰り返していたらヒカリの方もだんだんと慣れてきて捕まらなくなった。


「今日は見回りの当番ですから早く準備しますよ」


 トモナリはサッとブラシを取り出した。


「ん」


 起き上がったフウカの髪はところどころ跳ねていて寝癖がつき放題である。


「また髪乾かさずに寝ましたね?」


 ベッドに腰掛けてトモナリがフウカの髪をとかす。


「お腹すいたのだ〜」


「先輩が着替え終わったら食堂行くからもうちょっと待ってくれ」


 トモナリが丁寧に髪をといてやるとフウカは気持ちよさそうに目を細める。


「むむむ……」


 ヒカリはトモナリとフウカの様子を嫉妬めいた目をして見ている。

 本当ならトモナリがフウカのことをベタベタと触るのも許したくないけれど、サポーターとしてのお仕事なので仕方ないとヒカリは我慢する。


 ただこれは本当にサポーターとしての仕事なのかとトモナリはうっすら疑問に思っている。

 普通サポーターは髪をとくようなことはしない。


 ヒカリの機嫌も機嫌もちょっと悪くなるし、せいぜい朝起こすぐらいにしてほしい。

 だがいつの間にかこうなっているので今更文句も言えない。


「ヒカリ?」


「トモナリは僕の友達なのだぁ」


 我慢しきれなくなったヒカリがトモナリの背中にしがみつく。


「ふふ、仲良しさん」


「笑ってないで先輩が自分でちゃんとしてくれればこうならないんですよ?」


「サポートがいる間は活用するのが賢い」


「これサポートの仕事ですか?」


「うん、お仕事」


 多分違うと思うのだけどフウカは割と変わった人だから仕方ない。


「すぅー……むはー」


 そしてヒカリは胸いっぱいにトモナリの匂いを吸い込んでいたのであった。


 ーーーーー


「なんかさ、トモナリ君って執事みたいだね」


「執事……俺がですか?」


「うん、ダメお嬢様と優秀な執事」


 見回りがあるので早めの時間に食堂を訪れた。

 ピークの時間になると混む食堂も早めの時間だとゆったりした空気が流れている。


 同じく見回りのアサミがフウカに飲み物を持ってきたトモナリを見て目を細めた。

 先回りするようにトモナリはフウカの考えを読み取ってお世話をしている。


 別にサポーターがそこまで甲斐甲斐しく世話を焼く必要はないのになとアサミも思う。

 サーシャの方はトモナリのように動いてくれるわけじゃなく言えばやってくれる感じである。


 トモナリとフウカの関係性はサポートする側される側というよりももっと使用人のように見えた。

 ただしフウカはぼんやりとしているお嬢様で、トモナリはフウカのことをよくわかっているできる執事のようだ、なんてアサミは想像を膨らませて笑っている。


「そうかな……」


「ヒカリちゃんに対しても執事さんみたい」


 トモナリはヒカリの口周りについた食べこぼしをティッシュで拭いてやる。

 こちらもまた執事のようだと思って見ていると執事に見えてくる。


「んー、じゃあやっぱ……」


「ダメ。トモナリ君はダメお嬢様のお世話でいいの」


「ダメお嬢様でいいんですか?」


「いい」


 フウカは本気なのか冗談なのか分からない目をしている。


「……ふっ、じゃあお世話させていただきます、お嬢様」


 まあどちらでもいいかとトモナリはわざとらしく頭を下げた。

 回帰前のトモナリは能力が低くてサポート的な立ち回りも多かった。


 メインとなる覚醒者たちの世話を焼いていたこともあるのでそんな経験が染み付いているのかもしれない。


「ふふふ」


「僕もいるぞ」


「はいはい、ヒカリもな」


「トモナリ君みたいな執事なら一家に一人欲しいところだね」


「確かにそう」


 トモナリが来れば自動的にヒカリもついてくる。

 そんなことも思いながらアサミの言葉にサーシャも頷いていた。

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