「‘そうケンカしないでください。今のところは日本出るつもりはありませんから’」
「‘だと言っている’」
「‘今のところ、か。期待はしておこう’」
「‘いらぬ期待はしないことだな’」
行かないと言っているのに都合よく解釈するものだ。
言い方も少し悪かったと反省する。
「‘他のものもアメリカは歓迎する。日本の覚醒者は優秀なものが多いからな’」
「通訳するな」
そこまで本気の勧誘ではない。
本気ならそれこそ先ほど言ったように個別に、秘密裏に接触してくるだろう。
「‘心が狭いものだ。まあいい。今回みんなを呼び出したのはこれを渡すためだ’」
ルドンはアタッシュケースを取り出してデスクの上に置いた。
カチャリと鍵を開けてトモナリたちに中を見せる。
「‘これは霊薬だ。ゲートで見つかった物を分析して再現したものになる。ホンモノの力には及ばないが高級な素材を使って確かに効果がある’」
中には青い液体が入った小瓶が並んでいる。
中身は人工霊薬である。
基本的に霊薬というものはゲート内で見つかることが多い。
あるいは高級な素材を使って錬金術師という職業の人が作ったりする。
しかしアメリカは覚醒者によらずとも自分たちの力で霊薬を作り出そうと研究していた。
実は多くの国で行われているものでもある。
霊薬が作り出せれば覚醒者の強化もできるし、霊薬の取引で莫大な利益を見込めるからだ。
現状では安定的に効果の高い霊薬を大量生産できている国はない。
必要な素材は効果で希少。
加えて、錬金術師が作った方が同じ物を使ったとしても効果が高い。
それでもアメリカは霊薬作りで最先端をいっている。
「‘これは団体戦優勝の賞品だ’」
こうして作られた霊薬は一般流通には乗らずに利用されている。
今回は交流戦の賞品として人工霊薬が贈られることになっていたのだ。
「‘一人一本受け取るといい’」
団体戦に参加していなくとも賞品は国に贈られるので霊薬をもらうことができる。
けれどもマサヨシとバチバチあった後なので、みんなも動くに動けない。
「‘それじゃあもらいます’」
このままじゃ埒があかない。
ため息をついてトモナリが小瓶を一本取る。
「‘そちらのドラゴン君もどうぞ’」
「むっ? 僕もいいのか?」
「‘もちろんだ。君もまだ日本の一員だからな。霊薬も十分な数がある’」
「わーいなのだ!」
まだ、などと一々問題になりそうな言い方もする。
だがヒカリはそんなことも気にせず嬉しそうに霊薬の小瓶を受け取った。
トモナリとヒカリが受け取ったことを皮切りにして、みんなもさっさと霊薬を受け取ってしまう。
「‘今回はあのような事件が起きて非常に残念だ。防ぐことができなかった我々にも落ち度はある。だがアメリカをああしたことばかり起こる国だとは思わないでくれ’」
ルドンは軽くため息をついた。
「‘確かにスリリングなことは多いかもしれない。しかし良い国だ。移籍など関係なく、いつか観光にでも来てほしい。個人戦、団体戦の優勝おめでとう’」
最後に祝福の言葉を口にして、ルドンは微笑むような笑顔を浮かべた。
終末教の襲撃によってスケジュール的にアメリカの滞在がだいぶ伸びてしまった。
交流戦後もちょっとした観光を、という計画は立ち消えしてトモナリたちは慌ただしくアメリカを出発して日本に帰ることとなったのだった。