トモナリは覚醒者としてだけでなく、学業の面でも優秀である。
回帰前それなりに真面目に勉強していてよかったなとトモナリは思う。
だから問題なく二年生への進級ができた。
特進クラスは覚醒者育成を目的としていて、普通の高校プログラムとは異なった授業、評価で運用されている。
だからといって学業をおろそかにすることも許されないのだ。
覚醒者として能力があればいいだろう、なんて考えると痛い目を見ることになる。
そんなことを考えている奴いないだろうと思うと意外といたりする。
そいつの名前はユウト。
覚醒者としての成績は優秀だが、学業の方で痛い目を見た。
危ないところだったのだが、やはり学業に関しては緩めなところがあるのでギリギリのところで進級できた。
結果一人も欠けることなく特進クラスは二年生になることができた。
「ふふ……初々しいものなのだ」
ピカピカの一年生を見てヒカリが先輩面で微笑みを浮かべている。
まだアカデミーを把握していない一年生は教室にたどり着くのも意外と難しい。
不安げだったり、ちょっとキョロキョロしていたり、生徒手帳の地図を眺めながら歩いていたりとこの時期の一年生は見て分かりやすい。
みんなに可愛がられがちなヒカリは、子供扱いや弟扱いのようなものが多い。
愛されキャラといえばそうなのだけど、トモナリのようなリーダーシップを発揮したり慕ってくれる後輩が欲しいなと思っていたりした。
一年生が来た。
つまり後輩ができるということだ。
もう先輩っぽい顔をしたヒカリは一年生を生暖かい目で見ている。
「ん? おっと、大丈夫?」
「あっ! す、すいません! ちゃんと前見てなくて……」
のんびりと歩いていると角を曲がったところで人とぶつかった。
小柄な女の子で、トモナリはふらついた相手をとっさに支える。
生徒手帳の地図を見ていたようでトモナリに気づかなかったようだ。
「あ、あの?」
「あ、ごめん」
支えた体勢のまま見つめられて女の子は不思議そうな顔をした。
ハッとしたトモナリはサッと離れる。
「いえ、ぼーっとしてた私が悪いので」
「気持ちは分かるよ。慣れるまで大変だし、移動は早めにしておいた方がいいよ」
トモナリもアカデミーに来たばかりの時は移動に苦労したものだ。
教室がわからなくて授業に遅れてくる人もいるので慣れるまでは余裕を持って動くのが正解である。
「あの……」
「なんだい?」
「この教室ってどうやって行ったら……」
「あっちに行くと逆だね。向こうの方だよ」
どうやら迷子になっていたようである。
最後まで迷子になるぐらいなら誰かに道を聞いた方が早い。
トモナリも笑って優しく道を教えてあげる。
「あっ、そうなんですね! ありがとうございます!」
女の子は深々と頭を下げる。
なんだかとても性格の良い子であるようだとトモナリは思った。
「早く行かなきゃ遅れちゃうよ」
「ハイ! 先輩、ありがとうございます!」
女の子はトモナリが教えた方に走っていく。
「むむむ……僕が教えてあげればよかったのだ」
先輩と呼んでもらっていいな〜とヒカリは目を細めている。
「まあ今度はお前が教えてやれよ」
「そうするのだ」
こうしたヒカリも初々しいな。
そんなことを思いながら二年生としての生活が始まっていた。
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「さて、そろそろ一年生も慣れてきただろう」
トモナリは課外活動部の部室にある会議室に集まっていた。
ユウトたち他の二年生や部長であるカエデを始めとした三年生、マサヨシたち教員もいる。
「誰を課外活動部に勧誘するか話し合いたいと思う」
今回集まったのは一年生の誰を入れるのか話し合うためだった。
課外活動部は他の部活とは違う。
実際にゲートに挑んだりと授業よりも実戦的なことを行う。
誰でも入れるものじゃない。
勧誘活動は一度のみで、事前に話し合って決めた人に声をかけるのだ。
誰に声をかけるのかはマサヨシたち顧問の先生が決めているのではなく、課外活動部に所属する生徒たちで話し合って決めていた。
トモナリはマサヨシの推薦、コウは姉であるミクの推薦という事例もあるものの、基本的には課外活動部の中での推薦がある。
一人一台タブレットが配られる。
タブレットの中には一年生たちの入学時の職業や能力値のステータスとスキルの情報が入っている。
まずは今年特進クラスに選ばれた生徒から中心に見ていく。
この時点での能力で誰を勧誘するのか難しいところはある。
初期ステータスが高くてもレベルが上がってくると伸び悩んでしまう人も決して少なくない。
レベルが上がって得られたスキルによって一気に力が目覚めるパターンもある。
ただ今はどうしてもレベル一時点での能力で見るしかない。
良さそうだと思った一年生に印をつけていく方式で、印が多い子ほど勧誘優先度が高くなる。
とりあえず希少職業には印をつけておく。
希少な職業はステータスも上がりやすく、スキルも良いものを手に入れる確率が高い。
育てて戦力になる可能性が高いのである。
「こいつはどうだ?」
「なかなか面白いのに目をつけるな」
トモナリの膝の上に乗って一緒にタブレットを眺めていたヒカリがある覚醒者を指差した。
それは鍛冶職人という職業の持ち主の女の子だった。
鍛冶職人の職業は戦闘向けじゃない。
しかし職業の名前の通り、鍛冶職人は武器や防具を作る能力がある。
レベルが上がって育つと将来的に戦闘外のサポートとして必須の人物になる。
良い目の付け所だとトモナリは思わず感心してしまう。