「このワサビとかいうのも肉に合っていて辛くて美味いものだな」
ルビウスはステーキにワサビをつけて食べている。
しばらく剣の中にいたルビウスはワサビなんてものを知らなかった。
ルビウスに初めてワサビを食べさせた時には毒を食べさせたと怒っていた。
しかし今ではワサビの刺激もルビウスのお気に入りとなっている。
ちなみにヒカリはワサビの刺激が苦手で食べない。
「あとは任せたぞ」
「あっ、ずるいのだ!」
ステーキ丼を食べ終えてルビウスはそそくさと剣の中に戻る。
「むむ……僕は偉いからちゃんとやるのだ!」
ヒカリはルビウスの分まで器を重ねて、流しに持っていく。
蛇口から水を出してスポンジに洗剤をかける。
「ふふふーん」
『偉いものだな』
「お前がやってもいいんだぞ?」
ヒカリは尻尾をフリフリしながら食器を洗う。
最近覚えたお手伝いである。
「よし、学校行くか」
洗った食器は水気を拭いて玄関前に置いておく。
こうすると後で回収して持っていってくれるのだ。
時間的にはややギリギリめ。
それでも間に合うだろうとトモナリはゆったりと歩く。
「ねむねむなのだ」
お腹が満たされて眠くなったヒカリはトモナリに抱っこされている。
子供のようで可愛いものだとトモナリは思う。
「おっす!」
教室のある建物に入ったところで、後ろからユウトが走ってきた。
「お嬢様はお眠か。いいなぁ、俺も寝たいぐらいだよ」
「うるさいのだ……」
「ごめんごめん」
「お前はちゃんと授業受けないとな。進級もギリギリだったろ」
「ま、まあ……それはな」
トモナリに指摘されてユウトは気まずそうに笑う。
「はぁーあ、勉強しなくてもいいから覚醒者になろうって思ったんだけどな」
ユウトは頭の後ろで手を組んで口を尖らせる。
半分冗談だが、半分本気。
正直自分があまり頭が良くないことも、勉強向きな性格をしていないことも自覚している。
勉強しなくていいから覚醒者になるというのは言い過ぎかもしれないが、そんな側面があることは否定できなかった。
「あっ、トモナリ君、ユウト君おはよう」
「おう、おはよー」
「おはようなのだぁ〜」
「ヒカリ君は眠そうだね」
教室に入るともうみんな来ていた。
トモナリとユウトが最後であった。
コウは眠そうに手を振るヒカリを見て笑顔を浮かべる。
みんなも同じようにヒカリを見ていた。
いつもなら元気なヒカリが眠そうにしているので、教室の中の声のトーンが一つ下がる。
さすがはみんなに愛されているなと思ってしまう。
「みんなちゃんと来てるな?」
ヒカリにしがみつかれたまま席に着いて準備をしているとイリヤマが教室に入ってきた。
「ホームルーム始めるぞ」
みんなが席に着いて静かになるとヒカリの寝息がわずかに聞こえる。
生徒が寝てたら怒るけれど、ヒカリならしょうがない。
むしろ可愛いなとイリヤマすら思うのだ。
「お前たちも二年生になった。ついてはそろそろ自分の武器を持つ時が来た」
ここまで一年生はアカデミーから支給される武器を使っていた。
けれど支給される武器は誰でも扱いやすいようにできていて大きな特徴もない。
一般的な形状であり、好みではないという人も中にはいる。
加えて貸与品なので無茶はできないし、アカデミーで管理されていていつでもどこでも持ち出せるものじゃない。
トモナリたちもアカデミーに入って一年が過ぎた。
自分の戦い方のスタイルを確立し始めているので、もう自分に合わせた装備を整え始めてもいい頃合いである。
「今年はオウルグループが協賛してくれて一人一つ武器を作ることができる。武器があるものは防具でも構わない。どういったものがいいのか後で要望書を書いてもらうから各自考えておくように。あるいは貸与品を購入することもできる」
武器の面倒もアカデミーではある程度見てくれる。
これまで攻略してきたゲートのお金はアカデミーが管理していて、こうした時に使われるのだ。
「オウルグループ……ってことはカエデ先輩のところか」
カエデの名字はフクロウ。
そこからオウルグループという名前がつけられている。
色々な事業に手を出しているが、覚醒者装備や素材研究なんかもやっていた。
今回はアカデミーに協力して生徒たちの武器を提供してくれるようである。
きっとゲート攻略のお金だけでは足りないだろうに、さすが大企業は懐も深い。
加えて貸与品も安く払い下げられる。
凡庸型であるのでそのうち乗り換える必要はあるだろうけど、武器だけじゃなく防具も含めて丸ごと一式を安く買うこともできる。
扱いやすい装備なのでそれもまた選択肢の一つである。
トモナリも学校装備は悪くないと思う。
「装備か……」
どうするかなとトモナリは思った。
トモナリにはルビウスがある。
けれど武器は欲しいと思っていた。
ドラゴンズコネクトでルビウスと同化すると、剣のルビウスが手元には無くなってしまう。
剣がないと戦いでは不便だ。
武器は武器としてだけではなく、防御にも使う。
ただ防具も欲しいなとは思う。
戦いが激しくなると防具による身の守りも大事になってくる。
武器があるから防具が欲しいと要望することもできるのでどうするのか非常に悩ましいところである。