「まあ攻略するわけじゃないしね」
「あれ、そうなの?」
コウの言葉にミズキは首を傾げる。
「説明、ちゃんと聞いてなかった?」
コウは少し呆れたように笑う。
「んー……そんなこと言ってたような、言わなかったような?」
ミズキはエヘヘと笑って誤魔化そうとする。
移動の道中で軽く説明はした。
ただミズキは説明の最中、眠そうにしていたので覚えていないのも仕方ない。
「ここにいてもしょうがないから設営手伝おう。また改めて説明するから」
ゲートの確認はした。
中に入るのはしっかりと準備を整えてからとなる。
見るとカエデたちはテキパキと作業を進めていて、キャンプの設営もあまり手伝わなくても終わりそうだった。
トモナリたちも加わって設営をさっさと終わらせる。
「んじゃ、改めて今回の目的を説明するか」
石切場の下は太陽の位置がズレると光が差し込まなくなって、あっという間に暗くなる。
楽しむためのキャンプなら焚き火でもするが、今は遊びに来ているわけじゃない。
カエデが用意してくれたランタンタイプの明かりは魔石の魔力を利用する最新型のもので、周りを明るく照らしてくれている。
「今回俺たちの目的は魔力高保持鉱石……いわゆるミスリルってやつだな」
トモナリの狙いはミスリルという金属であった。
基本的に魔力というやつは体を離れるとあっという間に拡散して消えてしまう。
直接手に持つ剣などの武器に魔力を込めても、魔力の消耗というのは避けられない。
一方でミスリルは魔力を強く保持する力がある。
魔力を込めても簡単には拡散して消耗されず、魔力を金属内に溜めて維持してくれるのだ。
魔力を扱う覚醒者としては欲しいものである。
ただしミスリルはそう簡単に入手もできない。
ミスリルは地球上に存在している金属ではない。
ゲートの中で採取するか、あるいはモンスターが保有しているものを手に入れるしかない希少金属である。
アースドラゴンの精髄を加工するためにはミスリルが必要、それもちょっとぐらいではなくそれなりの量が必要だった。
いかにオウルグループといっても大量のミスリルを保有しているわけじゃない。
世界中の覚醒者がミスリルを欲していて価値は高く、余らせておくようなものでもない。
お金を払えば多少の入手は可能だが、アースドラゴンの精髄の加工のために必要な量には及ばなかった。
そこでトモナリはミスリルを自分で入手することになった。
今のところ国内においてミスリルが確定で採れるゲートが死のゲートなのである。
「私たちも使わせてもらえるんでしょ?」
「ああ、もちろん」
ミスリルを使った装備は貴重で高い。
普通はそうそう手に入るものじゃない。
ただ今回上手くミスリルが手に入ったら、一緒に攻略してくれたミズキたちもミスリル入りの武器を作ってもらえるのだ。
「目的地はゲートの三階だ。洞窟状になっていて、ミスリル鉱脈がある。採るだけ採ったら先には進まずに撤退だな」
死のゲートの中にミスリルが採れる場所がある。
そこでミスリルを採掘して戻ってくることが今回のやるべきことだ。
ミスリルがあるから死のゲートが放置されている、という側面は少なからず存在していた。
「Dクラスだけどそんなに心配することはない」
「どうして?」
「よく考えてみろ。三階にミスリルがあるって分かってんだ」
「……だから?」
「本当にミズキは鈍いのだな」
「むっ! じゃあヒカリちゃんは分かるの?」
トモナリの膝の上に座るヒカリは腕を組んでドヤ顔をしている。
「もちろんなのだ! だけど僕が言うとつまらないからトモナリ、言ってやるのだ!」
「分かってないジャーン」
ヒカリが真面目な顔をして、いかにもわかっている風に大きく頷いている時は、だいたい分かってない。
「一階と二階は攻略済み……」
「サーシャ、正解だ」
ぽそりとサーシャがつぶやく。
「三階にミスリルがあるって知られてるなら一階と二階はもう攻略してあるってことだ」
「なるほど」
中には攻略条件によってまともに戦わなくとも先の階に行けるゲートもある。
けれども今回の死のゲートは各階を攻略していくもので、すでに攻略されたから三階まで進めるのだ。
つまり敵の情報もあるし、攻略されているのだから簡単に先に進めるというわけなのである。
「時と場合によっては多少面倒なこともあるけどな。ともかく今回目指すのは三階。目的はミスリルの採掘。状況にもよるけど……戦いはできるだけ避けよう」
「りょーかい」
「ん、分かった」
「面倒なことなきゃいいけどね」
「沢山とれたらうちでも買い取るからな」
ミスリルの価値は高く、カエデはトモナリが沢山採ってきてくれることに期待している。
「今日はこのまま休んで明日の朝からゲートに挑もう」