「あなたは……」
印象としてはイケオジといった人だった。
白髪混じりの茶色い髪を軽く後ろに流し、ガッチリとした体型にスーツをまとい、長めの黒いコートを身につけている。
目つきが鋭く強面な感じもあるので、マフィア感も若干あるかもしれない。
ただ渋くてカッコいいおじさまという風にも見ることができる。
何にしても知らない人である。
だが低くて渋みのある声はどこかで聞いたことがあるような気がした。
「久しぶりだな」
「久しぶり……?」
目を細めてわずかに微笑むようにして男はトモナリとヒカリのことを見る。
久しぶりと男はいうけれど、トモナリは首を傾げる。
「僕も知らないのだ」
ヒカリのことも見てみるが、ヒカリも知らない男であった。
「ふっ、分からないか。まあこの姿では仕方ないな。私はアドシュタイト・ジャルヌン・エドマイデルンだ。君はトモナリで、君はヒカリだな」
「アドシュ……えと、どっかで聞いたな」
一度では覚えきれないような長い名前は聞き覚えがある。
加えて相手はトモナリとヒカリの名前を知っている。
「僕は分かったのだ!」
「ヒカリ?」
「イヌサワのところで出会ったドラゴンなのだ!」
「あっ!」
そういえばとトモナリも思い出した。
「あの時のアースドラゴン!」
「正解だ」
そもそも、ここもアースドラゴンの精髄から生み出されたゲートの中である。
そう考えれば簡単に分かるはずなのに、アースドラゴンの名前なんてすっかり忘れていた。
まさかゲートの中でアースドラゴンに再会するなんて思いもしなかった。
加えて今アースドラゴンは人の形をしている。
そんな風に目の前に現れられても分かるはずがない。
人になったらどんな感じと想像したこともなければ、ここまで渋い感じになるとは意外だった。
「ええと……アドシュタイト……」
「長いだろう? エドと呼んでくれ」
「分かりました。エドさんは……」
「さんもいらない。エドでいい。ただの、エドだ」
「は、はい……」
「エド!」
「それでいい」
ヒカリがピッと手を上げてエドの名を呼ぶと、エドは微笑む。
「どうしてエドがここに……」
エドは倒された。
トモナリたちは五十嵐ギルドと協力してゲートの中にボスとして現れたメガサウルスを倒した。
そのメガサウルスがアースドラゴンであり、エドであるのだ。
メガサウルスを倒した結果にトモナリは精髄を手に入れた。
倒された存在であるエドがゲートの中にいるのは、なかなか不思議な現象である。
「この状況を言葉で説明するのは難しい。あの時の私もある意味では私ではなく、私ではあった。今の私も私ではなく、ある意味では私であるのだ」
「……ちょっと分からないです」
「そうだろうな。私もよく分かっていない。……分かりやすく言うならば今の私はただの思念のようなものだ」
エドは指をパチンと鳴らした。
その瞬間世界が一変した。
「なんだ……?」
「ここは私の家だったところを再現したものだ」
真白な世界が急に洞窟の中になった。
天井には光る石が等間隔に嵌め込まれていて明るく、ソファーやデスクなどが置かれている普通の部屋のようにもなっている。
「ドワーフどもに山を切り開かせて作ったものでな。なかなか住み心地は悪くない」
エドはコートを脱いで畳んでソファーの背もたれにかける。
ドワーフ、なんで単語が出てきたということもあるし、洞窟を切り開いて作られたこの空間はファンタジーである。
それなのにスーツにコートという現代っぽい感じがあるのはミスマッチを感じさせた。
だけど見た目には似合っているのでいいかと思ってしまう。
「さて、なぜ私がこうして姿を現すことになったのか説明しようか」
エドはデスクに少し座るように寄りかかって腕を組む。
「それは君をテストするためだ」
「……テストですか?」
「私としてはそんなものいらないのだが……この世界はそれを許してくれないようだ」
エドはため息をつく。
「私の力は決して軽くない。その力を君が受け取るのにふさわしいか判断させてもらう」
「どうやって……テストするんですか?」
「それは教えられない」
エドは再び指を鳴らす。
するとデスクの後ろの壁が真ん中から割れて開いていく。
「いくといい」
「……いこうか、ヒカリ」
「うむ!」
何が待ち受けているのか分からない。
けれども行くしかなさそうだ。
「これはなんだ?」
壁の向こうは暗闇が広がっている。
部屋の中の光が全く届いていないようで、なんとなく闇の壁が立ちはだかっているような感覚だった。
トモナリがそっと手を伸ばすと、闇の中に手が飲み込まれていく。
手首から先が闇に呑まれて見えなくなる。
若干ドロリとしたような感触がある。
「ギュッ!」
気味が悪いとヒカリはトモナリに引っ付いた。
くっついていれば何かがあっても離れ離れになることはないだろうと思った。
「忘れるな。何があろうと君たちは君たちだ」
トモナリとヒカリが闇に飲まれていく。
エドは腕を組んだまま振り向くこともなく二人に対して声をかけた。
その言葉が届いたかは分からない。
だがきっと二人ならば大丈夫だろうとエドは思った。
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