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アースドラゴンに認められろ4

「あれに食いちぎられたんだったな」


 ゾウよりも大きな黒い奇妙な生き物が口を開けると、何重にもならんな牙が見える。

 噂では90番目か、91番目の90番代でも前の方のゲートから出てきたモンスターであると言われていた。


 90番代で前の方であるとしても、試練ゲートとしてみれば99のうちの90番代はかなり後ろの方である。

 ほとんどの人にとっては戦うことも辛いモンスターである。


 むしろ叶うはずのないモンスターだ。

 つまり多くの人が負ける戦いに身を投じようとしている。


 それでも戦う。

 邪竜たるブラックドラゴンを倒して世界を救うのだと、ほんのわずかに希望にかけて。


「うわああああっ!」


 先ほどトモナリに声をかけてきた日本人の覚醒者が空中に投げ出される。


「くっ……」


 下にはモンスターが口を開き、ギザギザとした歯を見せて待ち受けている。

 誰も助けられる者はいない。


 手足をばたつかせてどうにか逃れようとしたものの、空中ではなんの意味もない。

 そのままモンスターの口の中に落ちていってグシャリと噛み砕かれてしまった。


 仮に神がいるのだとしたら文句の一つも言いたくなる。

 どうして乗り越えられない試練を与えたのかと。


「‘こ、こんなの勝てるわけがない!’」


「‘やめだ! 俺は降りるぜ!’」


 トモナリたちはいわゆる捨て駒というやつだ。

 覚醒者たちは戦っているというよりも、逃げ惑ってモンスターにただ蹂躙されているだけだった。


 隣にいた仲間が三又に分かれた奇妙なモンスターの手に押し潰されて心が折れてしまった覚醒者が逃げ出す。


「‘どけっ!’」


 覚醒者たちの中でも実力があってリーダーの役割を果たしていた覚醒者が逃げて、トモナリの方に真っ直ぐに向かってきた。


「おっと」


 ただ逃げればいいのに男はトモナリに手を伸ばしてきた。

 トモナリは男の手をひょいとかわす。


「アンディ・ベルマッド……」


「‘なんだと……! うわあああああっ! 嫌だ、死にたくない!’」


 トモナリにかわされてアンディはバランスを崩す。

 直後後ろから黒いものがアンディの足に絡みついて、引きずられていく。


 そのまま空中に投げ飛ばされたアンディはモンスターに噛みちぎられて真っ二つになった。


「……本来ならああなってたのは……俺だった」


 回帰前トモナリはアンディに身代わりにされた。

 伸ばされた手で肩を掴まれて倒され、黒いものに引きずられて下半身を噛みちぎられたのである。


 今回はそうなることが分かっていたのでアンディの手をかわしてみたら、トモナリではなくアンディが噛みちぎられることとなった。


「ひとまず危機は一つ乗り越えたけど……」


 回帰前に経験した死は回避した。

 ただ相変わらず死の寸前にある状況は変わりない。


『力が宿ります!』


「なんだ?」


 目の前に表示が現れた。


「力が……体が軽く……」


 トモナリの体に力が溢れてくる。

 必死に逃げ回って疲れて始めていたのに、そんな疲れも吹き飛んで体が軽くなる。


「あぶな! ……うえっ!?」


 不思議な高揚感に困惑していると、モンスターがトモナリに手を振り下ろしてきた。

 とっさに飛び退いたトモナリは想像よりも勢いよく下がったもので驚いた。


「……今なら!」


 力が溢れて万能感を感じる。

 今ならモンスターとも戦えるかもしれない。


 トモナリは地面を蹴ってモンスターに向かって走り出す。

 剣に魔力をまとわせて、振り下ろされたモンスターの手を斬り裂く。


「‘な、なんだあいつ!’」


「‘わからねぇ。でも……あれならいける……’」


「‘あいつをフォローしろ!’」


 急にモンスターと戦い始めたトモナリのことを知る人はいない。

 だがモンスターと対等に戦える存在に覚醒者たちが希望を見出す。


 覚醒者たちはトモナリがうまく戦えるように立ち回り始めた。


「はあっ!」


 魔力を込められて光を帯びたトモナリの剣がモンスターのことを真っ二つに両断した。


「‘……やったぞ!’」


「‘モンスターを倒したぞ!’」


 モンスターが倒れて場は喜びに包まれる。

 トモナリはほんの少しだけ息を乱しているだけで、まだ余裕を感じていた。


「‘このあとはどうなさいますか?’」


 隠れた実力者が助けてくれた。

 そう思った周りの人はトモナリに敬意を払う。


「‘俺は邪竜……ブラックドラゴンのところに向かう。みんなは怪我人を助けて一度引くんだ’」


 今のコンディションならまだ戦える。

 しかし他の人たちはブラックドラゴンと戦えるほどの力も余力もない。


 無駄に命を散らすことはない。

 トモナリは一人で大きな戦闘音が聞こえる方に走り出した。


「そこにいるのか……ヒカリ」


 邪竜はヒカリである。

 ヒカリという名前はトモナリが名付けた。


 走っていくと黒い巨大なドラゴンが見えてきた。

 人類の残された戦力はまだブラックドラゴンを相手に抵抗を見せている。


「‘なんだ!’」


「ヒカリ!」


 覚醒者たちの間を駆け抜けてトモナリはブラックドラゴンの前で飛び上がった。


「危ない!」


 ブラックドラゴンと目があった。

 しかしブラックドラゴンは理性的な目をしておらず、トモナリを見てもなんの反応も見せない。


「グッ!」


 ブラックドラゴンの尻尾がトモナリに直撃する。

 トモナリはぶっ飛んでいくが、周りの覚醒者にトモナリを助けにいくような余裕などない。


 不用心に飛び出したトモナリが悪いと戦いに戻る。

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