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第4話


「ええ! よりによってそっちすかっ?」


 キミさんがいいリアクションをくれる。

 本気で驚いているにしてはリアクションがわざとらしい気がした。多分、うっすらとそっちじゃないかと思っていたのだろう。最近ダンジョンを目指す輩には配信者を自称するやつが多い。

 ダンジョンが身近になって十年程度だが、高難易度のダンジョンや高ランクの冒険者の配信が絶大な人気を博している。そのおこぼれに与ろうと考える人間はいくらでもいるのだった。

 おれも、もちろんその一人だった。


「そっちっていうか、今じゃ当たり前になりつつあるでしょ」


「そっすかぁ? おれらの間じゃまだまだ邪道ですけどねぇ。映えとか気にしてたらまともに進めないっすよ?」


「そんなこと言いながらドローンいくつも買ったじゃないですか」


「あ、いやぁ、その節は迷惑を」


 つまみのナッツとサービスで貝の缶詰までくれた。

 まぁ、我ながら責めすぎたのかもしれない。ただ、融資した金を当初とはまるで別の使い方をされれば一言二言以上に言いたくなるもんである。まぁ、制度として運転・設備資金なんていう反則みたいな資金使途だったから良かったが。

 おれが聞いていたのはダンジョン探索でかかる人件費だとか用具の経費だとかだったはずなのに。

 まぁ、昔の話なんだからこれ以上掘り返すつもりもなかった。


「今もまだ配信はじめてないですよね?」


「まぁ、なんつーか。見せるべきじゃないっつーか、実際に仲間に死なれた身としては賛成できないっすけどね」


「……」


 覚えている。

 何度か顔を合わせただけの人だった。パーティーのリーダーはキミさんだったし、基本おれはキミさんとしか話したこともなかった。ただ、新聞の訃報欄に載って、しかも所属のパーティーの名前まで出ていたから知ることができたのだった。

 年齢は確か25歳。

 当時であってもおれよりも年下だった青年の死は衝撃だった。


「ダンジョンは危険なんすよ。どんなに有名でも高ランクでも一つ間違えば死ぬ。そういう大原則をわかってない人は近づかない方がいいと思いますね」


「これは耳が痛いな」


「いや、黒地さんは別っすよ? そもそもおれにノウハウ教えてくれたのは黒地さんじゃないっすか」


「机上の空論だけです。知識だけは年食った分あるんですよ」


「そのおかげでおれは今日まで生き延びれたんですよ」


 相変わらずうれしいことを言ってくれるなこの人は。

 ビールが空になったのでハイボールを頼んだ。いや、最高だ。飲み始めとはいえ、まだ18時しかも明日は休みだってんだからたまらない。

 すぐに運ばれてきた一杯に口をつける。ああ、美味い。


「で、実際今日は何しに来たんすか?」


「なにって、飲みに来たんですよ」


「嘘っすね。黒地さんが一件目にうちに来るなんてはじめてじゃないですか」


 一発で見抜かれて笑うしかなかった。

 確かに、この店の雰囲気は気に入っているがいかんせん食い物が少なすぎる。大食漢とは言えないが、これでも食べる方なのだ。大抵焼肉か居酒屋で一杯引っ掛けて飲み足りない時に来ている。

 キミさんの眼力に降参し、おれは正直にここへ来た目的を言った。


「ばれちゃ仕方ない。ええ、キミさんにちょっとした頼み事があるんですよ」


「なんすか、勿体ぶらないでくださいよ」



「紹介してほしい人がいるんですよ。まぁ、人って言っても特定の誰かじゃなくて。が一番いいんですけど」

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