「ファミレスってはじめて来た」
「え?」
開口一番。
指定した場所で待っていると目の前にとことこ歩いて来た女子高生がぶっきらぼうに声をかけてきた。想像していたよりも小さい。多分身長160センチくらいだろうか。中学生にも見えるような華奢な体格で、身につけているのは多分高校の制服だろう。
どうしてわかったかと言えば、ダンジョンに潜るには男女問わず十五歳をすぎないといけないという。申請を出せているということはその条件はクリアしているはずだ。
申請が通らないのは別に問題があるということだ。
似たようなケースをおれは何度も経験している。
「はじめて来た」
いや、繰り返し言われても。
電話の時よりも警戒の色が強い。まぁ、おれ自身の見た目が関係しているのかも。思ったより冴えないおっさんだったから塩対応になっているのかもしれない。
「はじめまして。とりあえず座ってくれ。飲み物や食べ物は好きに頼んでいい」
「…ええ、はじめまして。改めて、伊藤葵です」
着席を促すと同時に挨拶を交わす。
むー、どうも硬い。明らかに電話の時とは異なる印象。もしや、キミさんのやつ酒飲ませてたのか? いや、あの人はそういうとこは厳しいから違うだろう。
「なに?」
「いや、昨日電話した時と随分違うから」
「…キミさんに怒られた」
「へ?」
「キミさんから説教された。言葉遣いと態度を考えろって」
思わず、苦笑した。
さすがキミさんだ。厳しいと思っていたが、まさかここまで対応しているとは。厳しいというよりむしろ過保護に近い。今度店に行ったらシャンパンだけでなく寿司の出前もとってやらねば。
「なんだ、随分と正直だな」
「私だけじゃないから」
「へ?」
「私のパーティーのみんなもいるから素直でいるって決めた」
眩しすぎる…!
思わず目を背けずにはいられなかった。まっすぐな瞳の力強さに自分自身の存在自体が恥ずかしくなってくる。まさか半分も生きたかどうかの女の子がこんなことを言うなんて…。
とりあえずメニューを渡し、好きなもん食えと伝えた。
「…教えてほしいんだけど」
「…今度はなんだ?」
「なにがオススメなの?」
今度こそ言葉を失った。
むしろ、おれの方が彼女に聞こうと思っていたくらいだったのに。冗談か何かかと思ったが彼女は至って真剣だった。
「本当に食ったことないのか?」
「うん、あたし孤児院にいるから」
孤児院。
そのキーワードで疑問は解けた。もちろん、解けたと言ってもすんなり飲み込むことは出来なかった。むしろ別なキーワードが浮かんだ。
生災孤児。
存在自体は知っているが、まさか、目の前に現れるとは思っていなかった。
そうか、そういう時代になったのか。
「だから、色々教えてほしいの。これの注文の仕方も社会の常識も」
「あたし達がダンジョンの探索者として成功する方法も。人生かかってるからさ」