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#3

「ひっ……!」


 目の前まで迫るサブノック。

 キョロキョロと何かを探しているように見える。


「お、いたぜ?」


 一方で咲希とルシフェルはドローンとそのカメラで様子を確認していた。

 そのカメラで純希の姿を確認する。


「よぉぉし、捻り潰せぇ!!」


 指示を出されたサブノックは純希の方を向く。


「ギュゥルルル……」


「こっち見てる……⁈」


 そして怯える純希にサブノックの爪が振り落ろされようとしていた。


「うわぁぁぁっ!!!」


「ガァァァァキィィィッ」


 そこへ。


『トォリャッ!』


 ゼノメサイアが駆けつけて飛び蹴りでそれを阻止する。


「っ……⁈」


 純希は涙目で驚きの顔を見せる。


『ハァァ……』


 そしてゼノメサイアはすぐ下にいる純希の存在に気付いた。


『え、純希……⁈』


 まさかこんな所にいるとは知らずに快も驚いている。

 てっきりバイトが終わった後は家に帰っているものだと思っていた。


「ギィィィンッ……」


 混乱しているがサブノックは待ってはくれない。

 すぐさま立ち上がりゼノメサイア目掛けて構えを取った。


『セアッ!』


 もうこうなったら腹を括るしかない。

 純希に死なれたら"見返す"という目標が叶わなくなってしまう、それだけは阻止したかった。


『ハッ!』


 飛び上がりなるべく純希から離れたビルの上にに再び着地した。


『結構逃げてる人が多いな……』


 前回は山中だったので気にせず戦えた、前々回はお互い飛べたので地上への被害を少なく出来た。

 しかし今回は人が多く相手も飛べそうにない。

 どうやって戦うべきか。


「ギィィィ……ッ」


 悩んで行動できずにいるとサブノックは突然ゼノメサイアを無視して振り返り純希の方に向き直った。


「えぇっ⁈」


 再度矛先が自分に向いた純希は驚愕の声をあげる。


『何でっ⁈』


 ターゲットをこちらに移せたと思っていたため少し安心してしまっていた、それなのにまた戻ってしまい焦る。


『デアッ……!』


 人がいないのを確認しサブノックの所へ降りて背後から首を締め付け動きを止めた。


「ギギギ……ッ」


 しかしサブノックは止まってはくれず暴れまわる。

 その影響でゼノメサイアまで振り回されてしまい周囲のビル群へぶつかってしまった。


『あぁっ!!』


 なるべく被害を出さないように気をつけていたがこれでは意味がない。

 今ので何人を巻き込んでしまったか。


『(純希を守るためとは言えコレは……っ)』


 自らの夢のために一人を守る事で無関係の大勢を犠牲にしてしまうかも知れない。

 その考えが余計に不安感を高めてしまう。


『クッソぉぉぉ!!!』


 何とかサブノックを締め上げながら全力で持ち上げる。


「グギギギッ……!」


 苦しそうな声を上げるサブノック。

 ゼノメサイアはこのまま人の少ない所へ連れて行こうとした。

 しかしそれを許してはくれない。


「ギィィィンッ!!!」


 突如としてサブノックは全身を捻って振り返りゼノメサイアの腕から逃れる。

 そのままの勢いでゼノメサイアの胸部を鋭い爪で切り付けたのだ。


『グアッ……⁈』


 胸部に傷をつけられそこから緑色の血液のようなものが飛び散る。


「ガァァァァキィィィッ!!!」


 そしてそのままサブノックはビル群を伝いながらゼノメサイアの周囲を翻弄するように回る。


『ッ……⁈』


 サブノックが回るビル群はその衝撃で少しずつ崩れていく。


『あっ、そんな……!』


 せっかく街に被害を出さないようにと戦っていたというのに容赦なく壊されてしまった。


「ギギギィィンッ!!!」


 そしてそのままの勢いでゼノメサイアを切り付けた。


『ドワァァァッ……!!』


 大ダメージを負ってしまい後方に大きく吹き飛ばされた。


 ______________________________________________


 ドローンで様子を見ていた咲希とルシフェル。


「ギャハハ!これで戦いやすくなったろ〜?」


 街が破壊され守るものがなくなった事で存分にゼノメサイアが戦う事が出来ると踏んだルシフェル。


「アンタ煽りすぎ。いくら罪獣に指示出せるからって調子乗ってると失敗するよ」


 咲希がウザそうにルシフェルを横目で見ていた。


「だってまたと無いチャンスなんだぜ?ゼノメサイアがこんな弱い事あるかよ!」


 そのまま叫びながらサブノックに更なる指示を出す。


「こんなヤツに託したのが間違いだったなぁ!」


 テレパシーのようなものを受け取りサブノックはルシフェルの指示通りに動いた。

 ・

 ・

 ・

「ガァァァギィィィンッ!!!」


 そのまま崩れたビルの残骸をゼノメサイアに大量に投げつけていく。


『オォォッ……⁈』


 まるで守るものを失ったゼノメサイアを煽っているようだと当人も感じていた。


『(こんなやり方……っ!!)』


 ヒーローになるはずだったというのにどんどん街が壊されていく。

 上手く出来ない事に無性に腹が立ってしまった。


『このままじゃダメだ……!』


 そう思い何か行動を取ろうとするが隙がない。

 サブノックは止まらずに瓦礫を投げ付けてくる。

 残ったビルの影に隠れるのもヒーローとしてどうなのかと考えてしまい動く事が出来なかった。


『グゥゥゥッ……⁈』


 ドローンで見ていたルシフェルも余計に調子に乗る。


「おいおい本当にお終いなのかぁ?流石にそれじゃつまらな過ぎるぜっ!!」


 そのまま決めてしまおうと瓦礫を取ろうとするがある事に気付く。


「あ、もう瓦礫ねぇじゃん」


 調子に乗りすぎたため周囲の瓦礫を投げ尽くしてしまったのだ。


「しゃーねぇ、新しいの取るか」


 新たな瓦礫を作るための指示を出しサブノックを移動させる。

 まだ崩れていないビルが並ぶ辺りにやって来るとある人物を見つけた。


「ん?あぁコイツ忘れてた」


 下には腰を抜かしてしまい動けない純希がずっと同じ場所にいた。


「あぁぁ……っ」


 サブノックに気づかれた事を察して震えている。


「とりまコイツ殺すのが目的だろ、殺っちゃっていいか?」


 隣でモニターを見ている咲希に念のため確認する。


「いいよ、早く片付けちゃって」


 許可を取る咲希。

 その言葉を聞いたルシフェルは純希を殺すようサブノックに指示を出した。


「ガァァァァキィィィンッ!!!」


 ルシフェルの指示通りに鋭利な爪を立て純希を睨む。


「ひっ……」


 そのまま勢いよく爪を振り下ろした。


「うわぁぁぁぁっ!!!」


 叫びながら目を瞑ってしまう純希。

 覚悟も決まらないまま死んでしまうと思った。


「…………あれ?」


 しかしいつまで経っても死はやって来ない。

 恐る恐る目を開けてみると。


「っ⁈」


 目の前には予期せぬ光景が広がっていた。


『グゥゥゥッ……』


 なんとゼノメサイアが間に割り込み純希を庇って代わりに爪の攻撃を食らっていたのだ。

 深く鋭利な爪が突き刺さる背中からは緑色の血液のような光が溢れている。


『だからっ、お前に死なれちゃ困るんだって……』


 自分にしか聞こえない声で小さく呟く。

 視界には訳も分からず腰を抜かして震えている純希がボンヤリと写っていた。


『俺が立派なヒーローになってお前を見返すまで……』


 力を込めて立ち上がる。

 そして思い切り背中でサブノックを吹き飛ばした。


『死なれちゃ困るんだよ!!!』


 勢いよく後方へ吹っ飛んでいくサブノック。

 倒れている隙にゼノメサイアは振り返りエネルギーを溜める。


『オォォォ……ッ』


 まるで背後の純希に見せつけるように。


『見てろよ、俺がお前のヒーローになるとこ……!』


 そして一気に神の雷を放った。


『ライトニング・レイ!!!』


 一直線にサブノックへと向かって行き命中。


「ギィィアアァァァァンッ……!!!」


 そのまま大爆発を起こして消滅した。

 周囲に多少被害は出てしまったが最初の頃よりはかなり威力を抑えられている。


『ハァ、ハァ……』


 息を切らしながら純希の方へ向き直る。


「すげぇ……」


 純希はその現実離れした凄まじさに圧倒されていた。

 そしてゼノメサイアは消える。

 勝利を飾り今回の件は幕を閉じた。


 ______________________________________________


 サブノックが倒された事をルシフェルは少し嘆いていた。


「あークッソ、殺せなかった……!」


 純希さえ殺せなかった事を悔やんでいる。


「はぁ、おつかれ」


 そう言って咲希は部屋を出ようとした。


「あ、もう良いのかよあの男は?」


「いいよ、もうどうでもいい」


 光を失った瞳を見せながら咲希は言った。

 ・

 ・

 ・

 翌日、快はまたバイトに行ったが出勤した途端にこっ酷く叱られた。


「昨日は突然バックれやがって、どんだけ大変だったと思ってんだ!」


 先輩は変身した時に抜け出したのを怒っているのだ。

 しかし正体を明かせない快は何とか上手い言い訳はないかと考えた。


「罪獣出たってニュース見たので……」


 怖かったからという理由を言ってみる。

 しかし話は通じなかった。


「全然遠い所だったろ?ここから逃げる必要ないだろ!」


 ヒーローになった事とは裏腹に現実の自分は褒められるどころではなかった。


「おはようございまーすっ」


 なんとそこへ純希も出勤してきたのだ。

 先輩は心配の声をかける。


「お前大丈夫なのか?昨日目の当たりにしたんだろ?」


 それに対して純希は元気に笑って言った。


「確かに怖かったっすけどお陰で怪我してないんで!」


 その言葉に先輩は疑問を抱く。


「お陰?」


「誤解してましたわ、ちょっと申し訳ないっ」


 やり取りを聞いている快はまさかと思った。


「ゼノメサイアが助けてくれたんです、やっぱアイツ凄げぇヒーローっすわ!!」


 そんな風に言ってくれる。


「!!」


 しかしまだ快自身が認められた訳ではない。

 いつかそうさせるために頑張ろうと踏むのであった。


 そしてその日の仕事中。

 快は純希と二人で洗い物をしていた。


「ゼノメサイア間近で見ちまった、迫力ヤバかったぜ」


「そっか……」


「お前も頑張れよヒーロー、あんな風になってやれ!」


 その言葉で分かる、彼はやはり快自身をヒーローとしては見ていない。


「あぁ、頑張るよ……」


 しかしこの出来事をモチベーションに頑張ろうと思えた。

 すると純希は話題を変える。


「そいえばさ、お前はキューピットだから伝えないとなと思うんだよ」


「何それ?」


 キューピットとは一体どういう事だろうかと思って耳をすませていると驚愕の言葉を純希は発した。


「今度の休みになんと!愛里ちゃんとデートする事になりましたー!!」


 一瞬時が止まった気がした。


「え……」


 流石に早すぎると思ってしまった。

 しかしLINEのトーク画面を見せられ事実と知ってしまう。


「あれから色々話してよ、意気投合したから勇気出して誘ってみたんだ!」


 もう何も聞こえなかった。

 愛里との関係、一体どうなってしまうのだろうか。






 つづく

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