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#4

 カメラの前に立った名倉隊長は緊張して少し息が荒くなっていた。

 しかし視界の隅にいるTWELVEの隊員である仲間たちの顔を見て少し落ち着いた。


「すぅぅぅ、よしっ……」


 深呼吸をし語り出す。

 どんなメッセージが伝えられるのだろうか。


「ゼノメサイア、聞いているか?」


 重たいトーンで自分に語りかけて来たという事で快は一瞬驚いた。


「!!」


 彼らは一体ゼノメサイアに何を言おうとしているのだろうか。

 少し不安になってしまい早く次の言葉が聞きたかった。


「あ、すまん。まず俺はConnect ONE実動部隊TWELVE隊長の名倉だ、自己紹介を先にすべきだったな……」


 快は彼を知っていた。

 何故ならデモゴルゴンの夢の中で見ていたから。

 しかし向こうはこちらの正体に気付いていないようだ。


「単刀直入に言う、今の我々だけでは火力不足でヤツを仕留め切る事は難しい」


 世間の評価を気にしていた彼が正直に力不足を伝えた。

 その覚悟が快には何となく伝わっていた。


「だから君に協力を頼みたい。図々しいのは分かっている、しかし我々はもっと君と距離を縮める必要がある……っ」


 段々と声に力が乗って来る。

 それだけで快以外にも彼の覚悟が伝わって行く。

 詳しくは分からないが相当な何かを背負っているという事は理解できた。


「我々は無力だ、出来る事に限りがある。でもそれは君も同じ、この世に生きる全員がそうなんだ……」


 いつもTWELVEを見下していた職員たちも釘付けだった。


「だから出来る事をやろう、そして他人の出来ない事を支えてやろう。互いの弱みに歩み寄ってこそ我々の関係は完成される……!!」


 そしてはっきりとまだ見ぬ快に向かって言い放った。



「今、君が必要なんだ……っ!!」



 その言葉を受けた快は思わず力んで立ち上がってしまう。


「〜〜っ!」


 その反応を見て瀬川と愛里の二人は驚いた。


「うぉぅ、どうした急に……?」


 息切れするほど力む快を少し不思議に思うが妙に芯が強いように感じた。


「彼らも歩み寄ってるんだなと思って……」


 名倉隊長の想いはしっかりと届いていた。


 ______________________________________________


 そしてカメラは切られ生放送が終了する。

 ドッと疲れた名倉隊長はその場に倒れ込むような姿勢を見せた。


「おっと……」


 それを駆け寄った竜司が支える。

 仲間たちが集まってくれたのだ。


「隊長、カッコよかったぜ」


「初めてここまで頑張れたかも知れない……」


 そして立ち上がった名倉隊長は宣言した。


「我々はこれより迫る作戦に向けた準備に入ります、サポートよろしくお願いします……っ!!」


 頭を勢いよく下げる隊長に合わせて他の隊員たちも頭を下げる。

 蘭子は少し不服そうだったが自分のその気持ちよりも隊長に応える事を優先した。

 ・

 ・

 ・

 そして彼らTWELVEは戦闘服に着替えヘルメットを着用し準備を整えていた。

 その最中、竜司が名倉隊長に話しかける。


「俺、この間の夢の中で色々気付かされたんだ。隊長も同じ……?」


 デモゴルゴンの件の話題を持ちかけた。


「あぁ、過去に縛られるより大切なのは今だとな」


 自分の経験を交えて竜司に語る。


「認めてくれなかった他人ばかり気にしてお前らや新生さんの存在を忘れていた、しかしやっと歩み寄る事が出来たんだ」


 そして準備を終えた彼らは並んで格納庫へ向かう。


「存分に出来る事をやろう、そして自分の存在を示すんだ」


 彼らは機体に乗り込み現場に向かったのだった。


 ______________________________________________


 現在は午後十時。

 作戦開始までまだ時間があったため快と瀬川はホテルの浴場へ向かった。


「何時に避難誘導来るんだっけ?」


「えっと、十二時って言ってたね……」


 屋上の露天風呂に浸かりながら今後の避難の確認をする。

 しかし快は何か考えている事があるようで瀬川もそれに勘付いた。


「(星が見える……)」


 露天風呂からは僅かだが星が見えた。

 そこで快は両親の事を思い出す。

 彼らと良く来たカナンの丘で星が良く見えたからだ。


「まだ何か悩んでるのか?」


 快の表情を読んで瀬川が問う。

 すると快も真面目に答え出した。


「色々分かったからこそ俺って今まで色んな人を傷付けて来ちゃったのかなって思って……」


「というと?」


「みう姉にも"せっかく歩み寄ってるのに"って言われたし、もしかしたら両親も……」


 両親が最期に見せた姿がどうしても忘れられない。


「歩み寄ってくれてたのに俺が気付かずに拒絶してた事が沢山あるんじゃないかって思えて来たんだ」


「なるほどな……」


 瀬川は関心したように少し微笑んでいた。


「何で笑ってるの……?」


「いや、お前も成長したんだなって思ってさ」


 そして彼も真面目な顔になって答えた。


「正直お前に拒絶されて傷付いた人は沢山いると思う、でも今更それ悩んでもしゃーないだろ」


 快の肩を叩いてアドバイスを始めた。


「自分で言ってただろ、今出来る事をするんだって。だったら俺や与方さん、そしてこれから歩み寄ってくれる人達に気付いて返せるように頑張れ!」


 段々と笑顔になっていく瀬川。

 それに合わせて快も少しずつ微笑み始める。


「うん……そうだよね」


 そしてお互い屋上から街を眺める。


「綺麗な景色なのに罪獣のデカい体があるなんて不思議だな」


 ルシフェルの固まった体が街を異様な光景にしていた。


「でもきっとConnect ONEとゼノメサイアが何とかしてくれる。彼らが歩み寄れば無敵だ!」


 瀬川が快の事情は知らずに発言したこの言葉で快は決意が固まった。


「そうだ、今歩み寄ってくれる人達に応えなきゃ」


 そして風呂から上がった後、彼らは避難に向けた準備を始めるのだった。


 ______________________________________________


 時刻は午後十一時五十五分。

 Connect ONEの一同も大阪に到着しそれぞれ作戦の準備と避難誘導を始めていた。


「皆さんには我々の指示に従ってなるべく現地から離れた地下通路へ避難してもらいます」


 そして十二時になる頃にようやく彼らはホテルを出て指示通りに地下通路へ向かった。

 辿り着くと、そこにはかなりの人が集まっており多くの不安の声が聞こえて来た。


「何でウチの近所で……」


「母ちゃん無事かな……?」


 快は瀬川や愛里と共にいたが担任の指示で同じ学生同士で近くに集まっていた。

 つまりは委員長なども近くにいるのである。


「みんな周りに居てくれた方が無事を確かめられるからな」


 そう言って担任はホテルにいた人数との照合を始めた。


「よし、全員いるな」


 しかし委員長や同じ班の女子は不安そうだ、何故なら他に仲の良い友人は別行動で違う所に避難しているから。


「先生、他の皆んなは大丈夫なんですか……?」


「連絡はついてる、みんなそれぞれ地下に避難してるそうだ」


 そう言って安心させようとする担任だが女子生徒の不安は全然拭えない。


「でも結局また罪獣が動き出すんでしょ?次こそみんな無事でいられるかどうか……っ」


 頭を抱えて震えている。


「……っ」


 その声を聞いた快は責任を感じた。


「なぁ瀬川」


「ん?」


 委員長と女子生徒から少し離れた位置で聞こえないように瀬川に話しかける。


「ゼノメサイア、Connect ONEだけじゃなく皆んなも必要としてくれてるかな……?」


「どういう事だ?」


「いや、負けたからさ……もう皆んなを安心させてやれるようなヒーローじゃなくなっちゃったかなと思って……」


 自分が行くだけで安心させてやれるようになりたい、しかし今の自分にそれが出来るのだろうか。


「確かに安心させてやれるかどうかはヒーローとして大事かも知れねぇ、でもそれが出来ないからって戦わないのはもっとヒーローらしくねぇと思うぞ」


「そっか……」


「現にホラ、聞いてみろよ」


 そう言って瀬川は委員長たちの方を指差す。

 彼らはこう言っていた。


「ゼノメサイア、本当に来るかな……?」


「来ないとヤバいんだろ……?」


 彼らの口からはゼノメサイアの話題が。

 それを聞いた快に瀬川は告げる。


「安心させられるとかは別にさ、どうしようもない時の拠り所にはなってるみたいだぜ?」


「……っ!」


 正直彼らはまだゼノメサイアの正体が分からず素直にヒーローとは呼べない状態だろう。

 しかし最後の拠り所として今は成り立っているのだ。


 そして女子生徒は更に言う。


「でも本当に大丈夫かな?得体の知れない生物なんでしょ……?」


 少なからず残る不安を口にする彼女。

 するとそこにある人物が現れる。


「大丈夫だよ!絶対いい人だからっ!」


 なんとそれは愛里だった。

 仲があまり良くなくなってしまっていた二人の前に笑顔で現れる。


「与方さん……」


 そして愛里はかつて救われた事を話した。


「前にゼノメサイアに助けられた事があったの。その時感じたんだ、この人は必死に私たちを助けようとしてくれてるんだって」


 ルシフェルと初めて対峙した時の事だろう。

 確かにその時は必死だった。

 しかしそれを好意的に捉えていてくれたとは。


「だから信じよう?彼はきっと来て助けてくれる」


 そう言って女子生徒の震える手を握った。


「そうだね、ありがとう……」


 女子生徒はそのまま愛里に抱き着いて今までの事を謝った。


「ごめんね無視したりして……」


「ううん、私も悪かったから……」


 その様子を見ていた委員長も優しく微笑んでいた。

 愛里の方から彼らに歩み寄り関係を取り戻したのだ。


「(そうだ、今出来る事をするんだ……!)」


 その決意のもと、快はある人に電話を掛ける。

 応答されると心配そうな声が聞こえた。


「あんた大丈夫なの⁈先生から無事って連絡は来てたけど……」


 姉である美宇だった。

 今回歩み寄る事へのきっかけをくれた人物であり快の夢を理解してくれてはいるが複雑な気持ちを抱いている人物。


「うん、こっちから連絡できなくてごめん」


 そして一言だけ告げた。


「ヒーローが助けてくれるから、安心だよ」


 そう言って電話を切った。


「よし……」


 覚悟を決める。

 後は作戦開始時間まで待つのみだ。






 つづく

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