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#2

 そして何事もないまま一ヶ月が過ぎ、遂に作戦の日であり結婚式の日がやって来た。

 Connect ONE本部で瀬川は作戦の準備に追われる中で快の事を考えていた。


「っ……」


 快にとってはせっかく姉との関係が上手く行き最も求めていた愛される事を経験するチャンスなのだ。

 快の夢を支えようと思っている瀬川にとってそれを邪魔する訳には行かない。

 そのような事を考えていると陽に声を掛けられる。


「だ、大丈夫……?」


 少し不安そうな陽が話しかけて来た理由。

 それは重なる所があったから。


「分かるよ、不安だよね……」


 しかし瀬川はそれを否定する。


「多分思ってること違います、俺は親友が心配で……」


 親友という言葉を聞いた陽は目を見開く。

 アモンの事を思い出したのだ。

 瀬川はそんな彼に快の事を伝える。


「そいつ仲良くなかった姉とようやく上手く行って、姉の結婚式に出るんです。今日がその日で……」


「罪獣との戦いに巻き込まないかって事……?」


「まぁそうっすね……」


 ある意味正解ではある。

 式場とは距離的に問題ないだろうが快はゼノメサイアとしてこちらに来てしまう可能性がある。

 それを巻き込む事と表したのだ。


「せっかく上手くやるチャンスだったのにそれを台無しにしちまうんじゃないかって……」


 その話を聞いた陽は少し悩む。

 そして答えを出した。


「親友の望みを叶えるって話なら尚更僕なら理解できるな。アモンと色々あったし」


 そう言いながら胸ポケットに掛けてあるサングラスを見せる。


「彼は僕に自分の居場所を見つけて欲しいって言った、それに応えなきゃって思った。だから必死に頑張って僕は今ここにいる」


 この組織こそが居場所になるのだと思い健闘しているのだ。


「それまでの間も彼はもう一つの人格として僕をサポートしてくれた、そのお陰で見つけられたっていうのがあるかな?」


 その話を聞いた瀬川だがいまいちピンと来ていなかった。

 そこで陽は少し頭を抱える。


「つまり何が言いたいのかというと……えっと、あーやっぱ話すの苦手だな……」


 そして陽は眼鏡を外しサングラスを取り付ける。


「ごめんアモン、任せた」


 そして人格をアモンに入れ替え瀬川に答えを示す。


「あいよぉ、んで陽が何を言いたいかというとなぁ」


 目の前で急変したのを見たのは初めてだったので驚いてしまう瀬川。


「親友の望みを叶えてやりてぇなら最後までサポートし続けろって事だ!だから戦え!お前がぶっ壊さないように守るんだよ!」


 その言葉を聞いた瀬川はハッとする。


「今は世間の評価とか色々面倒くせぇがお前に出来る事はソレだろ?今出来る事を最大限やるんだよ!」


「今出来る事……」


 確か快も言っていた事だ。

 純希に言われたと聞いた気がする。

 せっかく快も成長したというのにそれを自分は忘れていたなんて。


「そうだ、俺も成長しなきゃ……!」


「おう、そのいきだ」


 瀬川の肩を叩くアモン。


「ありがとうございます」


 そうして瀬川は去っていく。

 その様子を見ていたアモンはサングラスを外し眼鏡をかけ陽の人格に戻った。


「はぁ、流石だよアモン」



 一方で瀬川は休憩室の自販機の前に立った。

 そこで自分に言い聞かせる。


「(俺の夢は快の夢を支える事だ、そのために親父にも従ってここで戦ってるんだからな……!)」


 そう言って自販機のボタンを押す。

 いつもと違い、快の好きな缶コーラを買った。

 そしてタブを開けて一気に飲む。


「ぷはっ……今はみう姉のヒーローになってくれよ、こっちのヒーローは俺たちがやっとくからな」


 以前瀬川が定義した"愛する事で心を救うヒーロー"という事を考え出撃する事を決意する。

 ニュース番組から聞こえる世間の声を耳にして瀬川は一度彼らのヒーローになる事を考えるのだった。


 ___________________________________________


 そして快は自宅で結婚式に参列するための制服に着替えて準備をしていた。

 しっかり髪型を整え、花嫁の弟として恥ずかしくないように心掛ける。


「準備できた?」


「うん、もう行ける」


 本日の主役である姉の美宇に声を掛けられ点いていたテレビを消そうとリモコンを手にする。

 するとそのタイミングでやっていたニュース番組に一瞬目を惹かれた。


『Connect ONEが本日午後より作戦を開始すると発表しました』


 やはりその話題だ。

 次に画面が切り替わるとそこにはTWELVEの隊員たちがおり会見を開いていた。

 名倉隊長が中央に立ち語っている。


『先の件で我々への信頼は地へ堕ちた事でしょう、しかし今一度信じて頂きたい!今度こそ我々はあなた方を救いヒーローになってみせます!』


 そう言って頭を下げるTWELVEの一同。

 少し見えた瀬川の表情はまだ不安そうだった。


「瀬川くん大変ね、こんな時に式挙げるの少し申し訳ないな」


 そういう美宇だが快はスマホを見る。

 画面には直前に送られて来た瀬川からのメッセージがあった。



『必ず俺らが守るから安心して結婚式楽しんで来いよ。ps.お前の夢は俺の夢』



 そのメッセージの内容を美宇に見せた。


「瀬川は俺たちのために頑張ってくれてるからそう思う必要はないよ……」


 すると美宇はこう答えた。


「そう、確かに瀬川くん快の夢を支えるのが夢って言ってたもんね」


 しかしそこである事に気付く。


「でも何で今それなの?快の夢ってヒーローじゃ……」


 その言葉に対して快もある答えを導き出した事を姉に告白する。


「お互いに歩み寄って愛を育む関係がヒーローなんだって気付いたんだ、だからみう姉にも歩み寄るって話したんだ」


 それはつまり結婚式で姉を祝う事にも繋がる。


「それが快の新しく出来るようになった事なんだ?」


「そうだよ、だから俺はみう姉が寂しくないように歩み寄り続けるよ」


 そう言われた美宇は嬉しいようなこちらの方が少し寂しいような気もした。

 弟が遥かに成長しているのだから。


「(何だ、もう私大丈夫じゃん……)」


 微笑みながらそう思い二人は式場へと向かうのだった。

 しかし道中、快はスマホでConnect ONEに関するニュース記事を見ては思い悩むような表情をしていた。


 ___________________________________________


 結婚式場に着いた快は一度美宇と別れ一人で会場前で始まるのを待っていた。

 周囲には美宇の学生時代の友人と思わしき者たちや昌高の家族の姿が。

 皆楽しそうに談笑している。


「うーん……」


 しかし快はまだ悩んでいた。

 自分もゼノメサイアの力を持つ者として作戦に協力した方が良いのではと思い素直に楽しむ事が出来ない。

 もし瀬川たちが守り切れずここまで罪獣がやって来たら?

 何もしなかった自分の責任に悶える事だろう。


「おっす、快くん決まってるね!」


 そこにやって来たのは愛里。

 彼女もその場に相応しいお洒落な格好をしている。

 その姿に快は思わず息を呑んでしまった。


「う、うん……与方さんも……」


 "綺麗だ"と言いたいがなかなか言葉が出てこない。

 そういった女子への恋愛感情を思わせる言葉を発した事はほぼないため声がそれ以上出なかった。

 すると……


「うわ〜綺麗!」


 快の思っている言葉が側から聞こえる。

 驚いてそちらの方を見ると。


「っ……!!」


 そこにはウエディングドレスを着た花嫁姿の美宇が立っていた。

 側にはタキシード姿の昌高もいる。


「変じゃない……?」


「凄く綺麗だよ……!」


 快と愛里にはまだ到底出来ないやり取りを自然と行っている二人を見て快は思う。


「(やっぱ俺、守らなきゃなんじゃ……?)」


 出来る事をすると言った。

 つまり力を手に入れた今はゼノメサイアとして戦うべきなのではと思ってしまい揺れるのだった。

 ・

 ・

 ・

 そのまま式は執り行われ花嫁として美宇がブーケを持ち入場して来る。

 祭壇で待つ昌高は少し涙ぐんでいた。


「汝、病める時も健やかなる時も常にこの者を愛し守り慈しみ支え合う事を誓いますか?」


 神父の言葉が心地よく流れる。

 その言葉の意味を美宇と昌高は理解しお互いを誓い合い口付けを交わすのだった。

 ・

 ・

 ・

 そしてブーケトスの時間へ。

 チャペルの外では美宇の友人たちがワチャワチャと集まりブーケを我がものにしようと目論んでいる。


「あれ、与方さんは良いの?」


「私はまだ高校生だし……」


 そう言って少し恥ずかしそうに快の方を見る愛里。

 何を考えているのか理解する余裕はなかったがそのタイミングで美宇がスタートの合図をする。


「投げるよー!」


 そして思い切り後ろ向きに投げた。

 ブーケは友人たちの方へと飛んでいくが。


「あっ」


 友人たちの伸ばした手は思い切りブーケを弾いてしまう。

 あらぬ方向へ飛んでいくブーケ。


「え?」


 そして気がつくと快の方へ飛んで来ていた。

 あたふたしてしまう快。

 すると隣の愛里が行動する。


「危ないっ!」


 彼女の方が逆にヒーローのようになりブーケをキャッチしてしまった。

 その事実に遅れて気付く愛里。


「〜〜っ」


 快の隣で顔を真っ赤にしてしまう。

 それを見た美宇は快と愛里の初々しさ溢れる関係性を見て優しく微笑むのだった。






 つづく

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