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#3

 ここは黒澄んだオーラを放っているグレイスフィアが埋まった地。

 そこでは瀬川の父である参謀の主導で時止主任にデータを送るための分析が行われていた。


「神聖なものだ、もっと丁重に扱え」


 瀬川参謀は厳しい視線を職員たちに向ける。

 オーラの影響が凄まじいのか周辺の物質は全て黒く染まり消滅しつつある。

 そのため分析班の彼らは特殊な防護服に身を包み作業していた。


「なんか怪しくなって来たぞ……」


「本当に宗教絡みのものだとして、こんなもん信仰してるアイツもヤバいんじゃないか……?」


 元自衛官の職員たちは軍に関係のない外部からやって来た宗教家の瀬川参謀を警戒し始めていた。

 現に彼が信仰しているものの恐ろしさを目の当たりにしたため信用ならないのだ。


「長官と参謀、アイツらの陰謀なんじゃね?この力で悪事を働くつもりじゃ……」


 そのような考えが一同に根付いたタイミングで同じ防護服に身を包んだ新生長官がその場にやって来た。


「やぁ、ご苦労さま」


 既に信頼は失っているものの一応長官のため敬礼する一同。


「新生先生、どういったご用件で?」


 瀬川参謀も礼儀正しく接する。

 純粋な宗教家時代の呼び方を今でも続けているのだ。


「あぁ、ちょっと君に話があってね」


 そう言われた瀬川参謀は少し持ち場を離れて二人きりになり話をした。


「"出発"の準備が整ったよ、後は快くん次第だ」


「遂にですか……」


 嬉しそうに言う新生長官と違い瀬川参謀は少し複雑そうな心境だ。


「しかし本当に彼に全てを委ねて宜しいので?私にはとても務まるとは思えませんが……」


 快に全てを委ねるとの発言。

 その意味を考え瀬川参謀は悩む。


「あのような現象が起こるなど想定外でした、危うく世界が崩壊する所でしたのに……」


 彼は彼なりの考えがあり快をあまり推奨したくないらしい。


「"生命の樹の種を与えられずに"何故あれほどの力を……」


 その発言を聞いた新生長官は防護服で見えづらい顔でニヤリと笑った。

 確実に彼は快に生命の樹の種の一部を与えていたのだから。


「とにかく彼は不安定です、神の御心に準ずるためにも推奨は出来ません。あのような奇跡が起こらなければ……」


 そこで瀬川参謀はゼノメサイアが覚醒し世界が崩壊を始めた時、それを止めた出来事を思い出していた。

 ・

 ・

 ・

『ァガアアアァァッ……ヴォッオォォォグオオォォォッルルルォォオオオオオオギィィアアァァァァ……ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 覚醒したゼノメサイアを中心に世界は崩壊し始めた時。

 突如としてゼノメサイアの中から女神のような存在が現れた。

 それはゼノメサイアの体を優しく包み込み崩壊を止めたのである。



『大丈夫、君は大丈夫だから……』



 どこからかそのような声が聞こえた気がした。

 そして気がつくと世界の崩壊、ゼノメサイアは消えておりその場には黒澄んだグレイスフィアが残されていたのだ。

 ・

 ・

 ・

 その事を思い出した瀬川参謀はあの出来事が無ければ世界はそのまま崩壊していたと語る。


「また彼がゼノメサイアになればあの続きが起こるかも知れない、そんな事は神の御心に背いている……っ」


 すると新生長官は少し考えるように黙ってから告げた。


「彼に救いの意味を説くのが君の仕事だよ、つまり結果は君次第なんだ」


 そして去っていく新生長官。


「向こうに着いたらすぐ彼と話す機会を与えよう、そこでじっくり見定めてくれ」


 そのままヘリに乗り飛んで行った新生長官。

 残された瀬川参謀はその場から動けなかった。


「…………」


 防護服に隠れて表情を察する事は出来なかった。


 ___________________________________________


 一方快はずっと病室のベッドの上で縮こまっていた。

 もう何も考えたくない、しかしそれでも思考が止まらない。

 ネガティブな声が脳に直接響くようだ、他に誰も居ないというのに無数の叱責に押しつぶされてしまいそうな感覚に陥る。


「……誰ですか」


 こんな時に扉が開き誰かが入ってくる。

 本当に自分を責める人が入ってきたのではないかと思ってしまう。


「驚かせてすまないね、私だよ」


 現れたのは新生長官だった。

 少し力が抜ける快。


「また貴方ですか……」


「不満かい?せっかく君に機会を与えに来たというのに」


 その言葉に快は少し目を見開く。


「え、機会って……?」


 少し内容が気になり前に出る。


「ふふ、きっと喜ぶと思うよ」


 そう言って新生長官は語りだす。

 快の現在置かれている状況を整理するかのように。


「君は大きな罪を犯してしまった、その結果人々の信頼は失われ君はヒーローとしてのキャリアを失いつつある」


 そしてハッキリと快にやるべき事を伝えた。


「ならばその罪を償うんだ。そして自らがヒーローである事を示し、信頼を取り戻せ!」


 その言葉に快は疑問を抱く。

 新生長官に問いかけた。


「今更何か出来るんですかね……?」


 不安な瞳を浮かべる快に新生長官は答える。

 肩に力強く手を置き頷いた。


「我々と共に来たまえ。今ちょうど世界を救うための準備をしている所なんだ!」


 その言葉を聞いた快は一つ疑問を抱いた。


「もしかして瀬川たちも一緒ですか……?」


 ヒーローを辞めて欲しいと言った瀬川と一緒では気まずいし戦わせてくれないかも知れない。

 その点が不安だった。


「いや、彼らは一緒じゃない。一度この組織から離れて専用の施設へ行くんだ」


「え……」


 驚いたのが正直だが少し安心感も同時に抱く。

 今の快にとって親友の瀬川は心許せる存在では無くなっていた。


「そうなんですね、それなら俺も……」


「あぁ、またヒーローになれる!」


 そう言われて目に光が少しだけ灯る。

 快の心は完全に新生長官に奪われていた。


「さぁ行こう!今君の力が必要なんだ!!」


「……はいっ!」


 こうして快は立ち上がり新生長官と共に病室から外へ出て歩き出したのだ。


 ___________________________________________


 そしてここは本部の休憩室。

 TWELVEの隊員たちが肩を落として休んでいた。

 瀬川も飲み物に手をつけられず暗い顔をしていると職員たちの声が聞こえる。


「おい、新生長官とゼノメサイアがどっか行くぞ!」


 決して自分に向けて言っている訳ではない。

 しかしそれでも動かなければならない、そんな気がした。


「っ……!!」


 瀬川は慌てて立ち上がり勢いよく本部内の廊下を走り出した。

 親友の過ちを止めるために。

 ・

 ・

 ・

 階段を駆け上る瀬川。

 ヘリポートのある屋上へ向かって息を切らしながら全力で走り親友を止めに行った。


「快っ!!」


 扉を思い切り開けてその先にいる親友へ大きな声を掛ける。

 すると親友は驚いたように振り返った。


「瀬川……」


 どこか後ろめたい表情をしている親友。

 何か隠している事があるのだろう。


「おい、どこ行くんだよ……俺たち何も聞かされてないぞ?」


「世界を救いに行くんだ。罪を償って今度こそヒーローになる……っ!」


 先程よりも更に強い焦りを浮かべた瞳をした親友に胸が痛む。


「余計な事はもうするなっ!これ以上傷ついて欲しくないんだよ……!!」


 感情を露わにし思い切りぶつける瀬川。

 しかし親友には届かない、都合が悪いからだ。


「お前はそうやって俺に戦わせないようにするけどさ、新生長官は俺を必要だって言ってくれた!」


「それでまた傷付いたらどうする⁈」


 互いに一歩も退かず思いをぶつけ合う。

 そして親友はハッキリと言った。


「もう良い、俺は俺を必要としてくれる人の力になりたいんだ……っ!」


 最後にそう言ってヘリに乗り込んだ。

 そのままヘリはプロペラを回し飛んで行ってしまう。


「快ぃぃぃーーーーっ!!!」


 取り残された瀬川は親友の名を叫ぶ。

 その声はもう届かなかった。

 こうして組織は分断されてしまったのだ。






 つづく

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