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#4

 突如明かされたこれまでの敵、罪獣の正体。

 一同は更に困惑してしまう。


「え、罪獣の起源ってそこなんすか……?」


 得体の知れぬ恐怖を感じ震える竜司だがその一方で蘭子が時止主任に反論した。


「そんな訳……!だって罪獣がそこから出て来るなんてデータはないっ!いつも何もない所から突然現れるじゃん!」


 彼女の言う通りそこから出現していると言うのならそのようなデータがあるはずだ。


「そこに関しては俺も分からない、継一は何かしら知ってるかも知れないけど……」


 そしてこの話題になったきっかけの言葉を名倉隊長が聞き返す。


「それで利用されそうな発明とは?まずそこが聞きたいですね……」


「そうだった。それはね、君たちもよく知っている技術だ」


 そう言いながらコンピュータを操作しホログラムのモニターにあるデータを映す。

 その内容に彼らは見覚えがあった。


「TWELVE専用機体、それに君たちのライフ・シュトロームを接続し生命エネルギーを増幅する技術。旧支部が崩壊した後にバベルに対抗するため俺が制限を付けて開発したんだ……」


「そのために作られた……?しかもそれが利用されるんですか……⁈」


「あぁ、制限はあれどライフ・シュトロームに直結できる技術だからな。そのために継一は開発に協力してくれたのか……」


 それに対し蘭子はまた反応する。


「制限ってアレでしょ?インディゴ濃度が必要ってやつ」


「なるべく危険が少ないようにそう制限をかけた、そもそも発明した事が間違いだったのかもしれないがね……」


 そのように語って頭を抱えていると我慢が出来なくなった竜司が声を荒げた。


「ちょっと待って下さいよっ!新生さんが何しようとしてるかより時止さん、罪獣の事とか色々知ってて隠してたんですか……⁈」


 これまでの信頼関係の問題を提示してくる。


「周りに嫌われながらも必死こいて戦って、訳わかんなくて不安だったんですよ……?」


 不安を露わにし時止主任にぶつける。

 当の時止主任は重く受け止め彼の言葉に耳を傾けた。


「何でなにも教えてくれなかったんですか……?」


 悲痛な想いを受け止めた時止主任は誠心誠意答えたのだった。


「かつての俺を見たんだ……」


「は……?」


「恵博士の言葉を信じられなかった自分のようになるのを恐れてしまったんだ。研究の失敗で生まれた化け物の後始末、その真実を知った上で任された者はきっとかつての俺のように反抗心を抱くと思った……」


 後悔するように語る時止主任。


「しかも宗教団体が神とか言って起こした事件だぞ?かつての自分たちのようになり士気に関わると判断したんだ、すまない」


 かつて恐れた自分をあざ笑うかのように続けた。


「滑稽だよな、自分がした事をされるのをビビった結果君たちが苦しみ親友にも裏切られた。そして今、世界は最悪な事態に直面している」


 少し黙って一同は考えた。

 しかし思う事は変わらなかった。


「……もっと結果はマシになってたと思います」


 それだけ言い残し竜司は部屋から去って行った。

 彼に賛同するように次々と出ていく一同。


「すみません……」


 名倉隊長だけは頭を下げてから去った。

 一人取り残された時止主任は歯を食いしばりながら机を叩いた。


 ___________________________________________


 TWELVE隊員たちは各々自室に戻っていた。

 先ほど過去を思い出し何も言えなかった陽は鏡に向かって話しかける。

 するともう一つの人格であり親友のアモンが現れた。


『久々だな、あん時の話』


「うん……」


 時止主任や新生長官のかつての姿を思い出し過去に浸る。

 今の彼らにはその面影は既に無かった。


「ねぇ、僕たちどうすれば良いんだと思う?新生さんに居場所を貰って着いてきたつもりが捨てられたみたいになって……」


 孤独を感じる現状を嘆く。


『……俺が居るだろ』


「ありがとう……」


 そんな中で陽はある事を思い出す。

 先程の会話の中で感じた事だ。


「元少年兵のみんな、どうしてると思う?」


 中東時代の少年兵の生き残りが気になった。

 共に新生長官に預けられたはずだが旧支部が崩壊してからはバラバラになってしまった。


『さぁな……でもお前の事からかってた奴らだろ、今更何を思う?』


「知ってる人達だから……何かあったら悲劇を身近に感じちゃうよ」


『俺はお前だけが心配だよ……』


 そんな話をしながら陽はベッドに潜り込み自らの存在について考えるのであった。


 ___________________________________________


 職員たちの嫌な視線を感じながら名倉隊長が休憩室にやって来るとそこでは瀬川が反抗的な職員である小林と言い合っていた。


「やっぱりてめぇもグルなんだろ!ゼノメサイア使ってまたあんな事させるつもりか!」


「違うっ!俺はただ親友を助けたいだけだっ!」


 お互い力強い口調でぶつかり合い周囲も止められない。

 それほどまでヒートアップしていた。


「その親友のせいでこんな事になった、そんなヤツに同情してる時点で信用なんか出来るかよ!」


 そして更に父親の話題まで出す。


「それにお前あの瀬川参謀の息子だろ?父親と同じで神の意思だとか言ってまたあんな事やらせんじゃねーだろうな……っ⁈」


 大嫌いな父親と同じ扱いをされた瀬川は怒りが更に強まった。


「ざっけんなっ!誰があんなクソ親父と同じこと考えるかよっ!!」


 そう言って小林に掴み掛かる。

 しかし小林は冷静で逆に瀬川を殴り飛ばした。


「ごふっ……」


 思い切り尻餅をついて倒れてしまう瀬川。

 口からは少量の血が流れている。


「チッ、調子狂うんだよ……っ」


 そのまま小林は去って行く。

 その際に入り口前で見ていた名倉隊長を手で押して無理やり退かした。


「邪魔だっ!」


 倒れた瀬川には誰も手を差し伸べてくれない。

 職員たちは次々とその場から去っていき遂に名倉隊長と二人になった。


「……大丈夫か?」


 憐れみを抱き手を差し伸べると瀬川はその手を取り立ち上がる。


「すみません……」


 そして二人きりになった休憩室で瀬川は名倉隊長に今の話について語るのだった。


 ___________________________________________


 Connect ONE本部の休憩室で瀬川は名倉隊長に想いを投げかけて行く。

 たった今職員である小林に総意見のように言われた事への自分なりに思う事だ。


「俺、本当に親父とは違うんすよ……」


「知っている」


「本当に快のこと助けたいだけで、あんな親父から……」


「分かっている」


 ただひたすら瀬川の言葉を肯定する名倉隊長。

 自販機で買った缶ジュースを殴られた頬に当てて冷やしている。


「ずっと親父を否定したかったんです、神の事ばっか見て俺らを捨てたようなヤツを……」


 歯軋りをしながら力強く言う。


「だから親父が信じる神も信じない、しかもそんな事に快を利用しようだなんて……っ」


 名倉隊長はとにかく瀬川を宥めるために肯定する。


「確かにそんな非科学的なものはな……」


 しかし瀬川はそうは思っていないようだ。


「そういう事じゃないんです、ゼノメサイアとか罪獣とかこの組織と関わって親父が信仰するものを目にしてきた」


 あくまで父親が信仰するものは確認したのだ。


「でもあれは神なんかじゃない、得体の知れない異物だ」


 沸々と怒りが露わになって行く。


「神なら何でこんな最悪な事になる?アレは誰も救ってくれなかった、そんなの神なんて言えない……っ!」


 歯にヒビが入るほど力強く食い縛る。


「家族を引き裂いた後は親友も引き裂くのか、そんなのを神と呼んでたまるか……!!」


 より一層親友を救い出す事を強く決意した瀬川とその様子を見た名倉隊長は親友同士を憐れに思った。


「(俺は隊長なのに何も出来ない……)」


 そう心に強く思い一瞬の静寂が訪れる。

 それはまるで嵐の前の静けさのように。


「……っ⁈」


 すると突然館内のサイレンが鳴り響く。

 これは罪獣の出現を始めとした緊急事態の合図。


「こんな時に……っ!」


 名倉隊長は急いで司令室に向かおうとし瀬川を立ち上がらせようとする。

 しかし瀬川は彼よりも真っ先に立ち上がった。


「行きましょう、隊長」


「あ、あぁ……!」


 そのまま二人は休憩室を飛び出し司令室へ向かった。

 ・

 ・

 ・

 司令室に着くと既に新生長官の代わりに田崎参謀が指揮を取っていた。


「こちらから攻め込もうと思いましたが先を越されましたねぇ……っ!」


 既に旧支部に攻め込む準備をしていたが向こうから先に来たようである。


「見えて来ましたよ……」


 カメラの映像でも確認できるほど対象が近付いて来た。

 その姿を見てオペレーターの一同は言葉を失う。


「何ですかアレ……?」


 それは列を成した渡り鳥のような。

 複数の軍用機のようなものが飛んできている。


「何です……?あんな軍用機は知らない……」


 元自衛官の田崎参謀も知らない機体のようだ。

 それに通常より遥かに巨大である。

 一機全長百メートルはあるだろうか。

 その隊列の中、列の真ん中にある機体の内部ではある人物が険しい表情をしていた。


「はぁ、やるしかない……っ」


 それはパラシュートを背負いインカムを片耳につけた快だった。

 新生長官に言われたようにヒーローになるための覚悟を決めたのだった。






 つづく

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