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第29界 ヒーロー

#1

 12月24日、奇しくも快と愛里の誕生日の前日。

 当の快は精神世界を孤独に彷徨っていた。

 真っ暗な闇の中を走る。


「はぁっ、来るなぁ……っ!!」


 快は追われていた、自らの罪に。

 ソレらはこれまで快が傷付けて来た者たちの姿をして彼を追い詰めていた。


『現実から目を背けるなよ、お前は選ばれし者じゃなかったんだ』


 瀬川の顔をしたソレは快の前に回り込むと愛里の顔に変化する。


『歩み寄れない君が選ばれたとでも思った?』


 そしてソレは快の中に侵入していく。

 頭が割れるように痛くなった。


「あがぁっ……⁈痛いっ」


 あまりの痛みに頭を押さえながらふらついていた。

 すると何かにぶつかる。


「っ……⁈」


 それはニコニコした顔で見下ろして来る新生長官だった。

 思わず彼に助けを求めてしまう。


「助けて下さいっ、俺はまだ……っ!!」


 しかし新生長官は笑顔のまま快に厳しい現実を伝えたのだった。


『君の役目は終わった、選ばれし者でないのによくやってくれたね』


 その言葉と同時に崩壊していく世界の光景が快の周囲に照らし出される。

 自分が選ばれし者でないからこのような悲劇が起こってしまったのだろうか。


「あぁっ、こんな俺がっ……愛してもらえるはずがないっ……」


 周囲ではこれまで傷付けた人、歩み寄れなかった人々が快を見下すように立っておりその姿が段々と離れて行く。


「みんなっ、待って……」


 向こうから近付いて来た時は目を背けたというのにいざ離れられると都合よく悲しむ。

 そして最後に残ったのは快が初めに歩み寄れなかった人物、死んだ両親だった。


「置いていかないで……」


 徐々に離れて行く両親に手を伸ばす。

 しかし二人は快を置いて行ってしまった。


「独りにしないで……」


 気がつくと快の体も徐々に小さくなっており両親が死ぬ直前の子供の頃の姿に戻っていた。

 そのまま蹲り愛を求めるような姿勢で横たわるのだった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

 第29界 ヒーロー






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 未だ取調室に瀬川の父親である元参謀がいた。

 そこにある人物が報告へ来る。


「瀬川元参謀」


 その人物とは小林だった。

 意外な人物の登場に驚く瀬川父親。


「君は整備班の職員か、何故ここに?」


「他の者が忙しいので、俺が報告に」


「報告?出動の件か?」


「気付いてたんですね」


「あの轟音を聞けばな」


 そのようなやり取りをしてから小林は彼の向かいの椅子に座る。

 そして話を続けた。


「あんたの息子が道を拓こうとしてます」


 その言葉を聞いた瀬川父は少し歯を食い縛る。


「っ……」


「まだ信じられないっすか?」


 無理もないだろう、最後に会ったのはついこの前。

 その時点で彼の息子はまだ大きく迷っていた。


「良ければモニターで見ません?息子さんの答えを見てやって下さい」


 そう言って立ち上がる小林。

 そんな彼の姿に瀬川父親は疑問を抱いた。


「君の変わりようは何だ?特に息子たちを蔑んでいた記憶があるが」


 小林に関してもかつての姿しか知らない。

 まるで息子を信じているかのような発言に少々疑問を覚えたのだった。


「……確かに今までのアイツらの特別扱いは納得行かなかったけどアイツらはアイツらなりに出来る事を必死にやってたんだなって分かった」


 瀬川が避難所で頭を下げた事を思い出していた。


「アイツらの言葉借りると歩み寄ってくれたから。その誠意に応えないと胸糞悪りぃっすから」


 その言葉を聞いた瀬川父親は腰を重くしたまま立ち上がり小林に着いて行った。

 まだ疑いの念は晴れなかったが今は出撃してしまったという息子たちを見る事でしかそれを晴らせそうになかった。

 ・

 ・

 ・

 瀬川たちTWELVE隊員はキャリー・マザーに繋がれた各機体のコックピットの中でそれぞれ想いに更けていた。


「む、見えて来たぞ……!」


 すると名倉隊長の声で一同は気付く。

 視線の先に十字の樹が見えて来たのだ。


「うわ、やってるじゃん」


「勝てっこないのに……!」


 十字の樹の周囲では既に自衛隊の兵器による攻撃が行われていた。

 しかし全く歯が立たないどころか飛び回っているヒトの素体による妨害を受けていた。


『もう勝てませんっ!退却しましょう!』


「くっ、しかしそれでは……」


 戦車の中で自衛隊の隊長が嘆く。


「(TWELVEの力があれば……っ)」


 いがみ合っていた相手の存在の大きさを実感してしまう、同時に自らの無力さも。


「くっ、助太刀するぞ!」


 ヒトの素体の攻撃により大爆発を起こす自衛隊の兵器たち。

 それを見かねてTWELVEは攻撃体勢に入った。


「まずは各機で攻撃だ、彼らの退路を作れ!」


「了解っ!」


 その声と同時にキャリー・マザーから機体が切り離される。

 四機はバラバラに散り自衛隊の人々を救う動きを見せるのだった。


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 キャリー・マザーが見守る下でウィング・クロウ、ライド・スネーク、タンク・タイタン、そしてマッハ・ピジョンが戦闘現場に現れた。


「うぉぉっ、みんな早く退却っ!」


 突如現れた勾留されているはずのTWELVEに自衛隊の者たちは驚いた。

 まさに求めていた戦力がやって来たのだ。


『何故ここに⁈』


「アイツが呼んでんだよっ!」


 そう言った竜司の視線の先には十字の樹が。

 そこに眠るゼノメサイアこと創 快を目指すのだ。


「食らえっ!」


 陽も元の人格のままでヒトの素体へ攻撃を加えていく。

 その隙を作ってもらえたお陰で自衛隊は退却の機会が与えられた。


「どうします⁈」


「くっ、我々では敵わない事は分かった……」


 そして自衛隊の隊長は部下たちに指示を出した。


「退却!退却だっ!!」


 その声と共に自衛隊は退却していく。

 司令室の田崎参謀はその様子を見て歯軋りをした。

 隊長機に無線を入れる。


『勝手に任せて退却など……!TWELVEが何をしたか覚えているのですか⁈』


「しかし我々で敵わないのは目に見えていますっ!」


『これまで彼らに仕事を奪われて来たというのに、それでも国を守る誇りを持つ者ですか⁈』


「自らの私欲でチャンスを捨てるなど、そんな誇りこそ捨ててやりますよっ!!」


 そのまま彼はTWELVEの隊長機、タンク・タイタンに無線を繋げた。


「現場の指揮、任せたぞ!」


 いがみ合っていた彼らに任された。

 その事実に少し喜びを覚える。


『あぁ、任せろ!』


 そして自衛隊が離れるまで彼らの退路を塞ぎ、完全に退却するのを見届けてからTWELVEの機体はヒトの素体と睨み合った。


「攻撃だぁっ!!」


 その声と共に整列するヒトの素体へ攻撃を始めた。


「首なしマネキン野郎っ!!!」


 ライド・スネークは飛び上がりながら弾丸を連射し攻撃していく。

 後方に吹き飛ばされるヒトの素体。


「合体はまだだ、樹までの活路を開いて一気に決めるっ!」


 あくまで目的はゼノメサイアの眠る十字の樹だ、そこに辿り着くまでの道を切り開くのである。


「よしっ、僕も戦えるっ……!」


 ウィング・クロウに乗った陽はアモンに頼らない自分の新たな戦闘スタイルに少し感動を覚えていた。


「よぉし……」


 そのまま視線の先の集団に狙いを定める。

 しかしヒトの素体も黙ってはいなかった。


『フォオオオ』


 陽の視線の先で集団で並ぶヒトの素体。

 それらは一斉に武器を構えた。


「あれはっ⁈」


 その武器とはゼノメサイアが覚醒した時に一瞬だけ見せた謎の剣、"ヰノ矛"である。


『フォンッ』


 ウィング・クロウに向かってソレを一斉に投擲する。

 しかしスピードはそれほど無かったため簡単に避けられると思った。


「これなら……えっ⁈」


 なんとヰノ矛は投擲された全てが変形し一つの巨大な円となった。

 その円はウィング・クロウの機体を包み込み内部に侵入する。


「ぐっ、がぁぁぁあああああっ⁈」


 突然叫び出す陽。

 機体には何もダメージが無いように見えるが絶叫が無線を通じて全員に伝わって来る。


「陽っ、どうした陽っ⁈」


 一同も何が起きたのか分からず慌てて陽を呼ぶ。

 しかし返事はなく絶叫が響くだけだった。


「ああぁぁっ、アモンっ……!!」


 気がつくと視線の先にはアモンが見えた。

 しかしそれはただのアモンの姿ではない、ヒトの素体の中の一体の首から上がアモンの顔になっているのだ。


『陽……』


 そして次々と周囲のヒトの素体は無い首を生やしそれはアモンの顔を身に付けた。

 そしてウィング・クロウを取り囲み陽に迫る。


「あっ、アモンっ!ダメだ、来ないで……!!」


 アモンと化したヒトの素体が陽に迫る。

 あまりの恐怖と不安で彼は操縦桿から手を離してしまい何も出来なくなった。






 つづく

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