「これ乗って!」
蘭子がキャリー・マザーからマッハ・ピジョンを切り離す、地面に置かれた機体に瀬川は乗り込んだ。
「ありがとうございますっ!」
パイロットを取り込みドッキングを行う。
しかしもう瀬川は慣れた、更に親友のためならいくらでもやれる。
「ぐっ、もうこんな痛み効かねぇよ!」
そして一気に飛び立ちカリスへの攻撃に加わる。
「おらぁっ!」
マッハ・ピジョンから放たれる弾丸の嵐がカリスを襲う。
TWELVEの参入によりカリスは大きなダメージを受けていた。
『グガッ……世界そのものとなる体を傷付けようだなんてっ!』
怒りを露わにする咲希。
しかし完全に形成逆転されてしまった。
「大丈夫か⁈」
名倉隊長のタンク・タイタンはゼノメサイアの前に来て彼を守る。
無線の周波を合わせて声を掛けた。
『はいっ、待ってましたよ……!』
快もこんな事が言えるほどの関係性となった。
ゼノメサイアと共に攻撃を加えて行く。
「多連装ミサイル発射!」
『ゼェアッ!』
放たれたミサイルと共に蹴りを繰り出すゼノメサイア。
爆発と共に蹴りの衝撃でカリスは後方へ大きく吹き飛んだ。
『フゥゥゥ……』
深呼吸をするゼノメサイア。
その隣にTWELVEの機体が並んだ。
「よし、我々も本気出すぞ!」
名倉隊長のその声と共にTWELVE隊員たちは気合いを入れる、合体の準備だ。
『ゴッド・オービスッ!!!』
そしてカリスが起き上がる間に合体を済ませてゼノメサイアと並び立つ。
以前は戦い合った両者が今はこうして歩み寄り共に並んでいる。
『ゼアッ!』
「おぉっ!」
両者は一斉に構えを取る。
起き上がったカリスは唸った後、大きく吠えた。
「ゴォォォオォォッ!!!」
ほぼ同時に走り出す両者。
そしてゼノメサイアとゴッド・オービスは連携を見せながらカリスと格闘を繰り広げて行く。
『ハッ、セアッ!』
殴っては殴られ、しかし怯んでいる間は仲間がカバーする。
決してカリスには出来ない戦い方を見せつけて行く。
これは彼女に気付いて欲しいから、歩み寄る事で得られる強さに。
『ぐっ、認めない……!散々アタシを虐げた癖に……っ』
咲希はもはや彼らではない、この世界そのものの鬱憤を吐き出している。
過去の記憶がフラッシュバックしてしまった。
『〜〜っ』
その過去では何やら狭く汚いアパートの一室で小さな咲希と母親が父親らしき人物から暴力を受けている姿が映し出されていた。
更には誰も手を差し伸べてくれない、彼女たちはこんなに助けを求めたと言うのに。
『ぐっ、あぁぁぁぁぁっ!!!』
力一杯叫ぶ。
するとその孤独な叫びは力となった。
「グゴォォオオオオオッ!!!」
叫びと共に凄まじい衝撃波が放たれる。
突然の事にゼノメサイアとゴッド・オービスは思い切り吹き飛ばされてしまった。
「何だっ⁈」
顔を上げてカリスの方を見ると今までとは違う凄まじいオーラを放ちながらこちらを見ていた。
『試そうか?歩み寄る力と孤独な叫び、どっちが強いか……』
咲希の声からも凄まじさを感じる。
彼女の孤独は本当に歩み寄りに匹敵すると言うのか。
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白金の体から赤黒いオーラを放つカリス。
その出たちからは恐ろしさすら感じられた。
ジワリジワリとこちらに向かって歩みを進めて来る。
「オォォォ……」
先程の罪獣と人の中間のような雰囲気ではない、神か悪魔かそのどちらかのようであった。
「蘭子ちゃん、分析をっ」
「もうやってる!」
そう言われた蘭子は焦りながらも分析を進めて行く。
しかしどうしてもある妨害が起こってしまった。
「何これ、邪魔なんだけど……!」
分析を映すモニターにはノイズが走っており時おり分析が中断されてしまうのだ。
「まさか、神の域ってやつか……⁈」
名倉隊長が無線で蘭子に問い掛ける。
しかし蘭子も分かっていないようだ。
「分からない、でも似た反応……神に"成りかけ"みたいな……っ」
蘭子の言葉に一同は恐怖を覚える。
またあのような惨劇が起こるのか?
そんな事になってしまうのはもう懲り懲りだ。
『寄越しな、剣を……!』
瀬川が持つという愛里のグレイスフィアを求めて迫るカリス。
もう今までのクラスメイトとしての咲希はそこには居なかった。
「絶対渡しちゃダメだっ、何が起こるか分からない……っ!」
急いで起き上がり身構えるゴッド・オービス。
しかしカリスが放つあまりの気迫に全員冷や汗を流した。
『ハァッ!』
手のひらを前に突き出し赤黒いエネルギー波を放つ。
慌てて避けるゴッド・オービスだったがあまりの衝撃で吹き飛んでしまった。
「ぐあっ……」
破壊された地面やビルの残骸が機体を傷付ける。
衝撃はコックピットのパイロット達にまで酷く伝わった。
『ゼアッ……!』
慌ててゼノメサイアもカリスに掴み掛かる。
しかし逆に首根っこを掴まれ持ち上げられてしまった。
『ゥグググ……ッ』
首を掴む掌から赤黒い衝撃波が伝わる。
それはゼノメサイアの全身に流れ込みただならぬダメージを与えた。
『な、何だこれ……っ!』
咲希の心のようなものが快の精神に流れ込んで来る。
この赤黒いエネルギーは変色したライフ・シュトロームだと言うのか。
『あぁっ、がはぁっ……』
先ほど咲希が見たフラッシュバックと同じ映像が快にも見える、そこには確かに咲希が父親から虐待を受け誰も助けてくれない様子が映されていた。
『分かるでしょ、これがアタシ。こんな人生の中で歩み寄りなんか信じれる訳ないじゃん』
そしてそのままの勢いでカリスはゼノメサイアを地面に何度も叩きつけた。
『愛されずっ!罵られっ!そんな中にも希望があるっての⁈笑わせないでっ!』
そう言ってゼノメサイアを思い切り投げ飛ばす。
後方のビルに思い切り叩きつけられたゼノメサイアは意識が飛んでしまった。
『ッ……』
そのまま項垂れて起き上がれない。
その様子を見たゴッド・オービスのパイロット達は絶望してしまった。
「快っ……!」
カリスの攻撃対象がゴッド・オービスに変わる。
もう成す術はないのか、身構える一同だった。
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意識が飛んだ中、快は自らの精神で考えていた。
咲希をどうすれば救えるか。
『河島さんはかつての俺と同じだ……』
そこで快は更に思考を巡らせる。
自分と同じなら自分が救われた方法で救えるのかも知れない、そんなに上手くはいかないだろうが試す価値はあるだろう。
『俺を救ってくれたのは愛里だ、河島さんも愛里を求めてる……』
しかし咲希の現状はかつての快と同じく都合よく愛里を求めているに過ぎない。
このままでは咲希は救われる事はないだろう。
お互いのためにならないのだ。
『ちゃんとお互いの事を想って歩み寄らなきゃダメなんだっ、俺と同じだからこそ気付けるはずだ……っ!』
快は全力で踏ん張り立ち上がる。
もう自分のためではない、他者を救うために。
『ゼェアァァァッ……!!!』
意識を取り戻し勢いよく起き上がるゼノメサイア。
その雄叫びにその場の一同は全員反応する。
「あっ、快……⁈」
瀬川はコックピットから見える景色、カリスの奥に立つゼノメサイアの姿に驚愕する。
フラフラと足はおぼつかないが凄まじい雰囲気だ、体から湯気が立ち快の意識すら感じなかった。
『オォッ!』
思い切り突進して来るゼノメサイア。
しかしカリスは簡単に受け流し背負い投げをした。
『フンッ』
『グアッ……』
地面に叩きつけられたゼノメサイアを心配してゴッド・オービスは駆け寄る。
「おいっ!」
しかしカリスはその拳による叩きつけも簡単に防いだ。
『仲間の心配してる場合?』
そしてそのままゴッド・オービスに手を伸ばす。
愛里のグレイスフィアを奪うつもりだ。
「ぐっ、やめろぉっ……」
そして遂にカリスはゴッド・オービスに自らのライフ・シュトロームを流し込んだ。
『……っ?』
しかし何かおかしい、明らかな違和感が。
『え、アンタが持ってるんじゃないの……?』
慌ててライフ・シュトロームの接続を断つ。
しかしだとすれば本物はどこにあるのか。
『あ、まさか……』
何かに気付いた咲希。
しかしもう遅い、瀬川はコックピットでニヤリと笑みを浮かべた。
『デアァァッ!』
振り向いたカリス、その瞬間に下から腹部へ叩きつけられるゼノメサイアの拳。
その拳には何かが握られており蒼く輝いていた。
『ガッ、アンタまさか……』
『瀬川、囮役ありがとう』
快は冷静に呟く。
そして咲希に想いをぶつけた。
『誰もが求めてるんだよ、救ってくれる存在を……』
その拳に握られたものは愛里のグレイスフィアだった。
瀬川は囮である、快が持っていたのだ。
『ヒーローが必要なんだっ!』
その言葉を聞いた咲希は昔の光景がまたフラッシュバックする。
父親から暴力を受けていた際、ヒーローに救いを求めていた事を思い出した。
しかしその想いは父親により踏み躙られた事も。
『ヒーローなんかいねぇっ!』
その記憶の中で父親の顔を快の顔が上書きする。
その快はこちらに手を差し伸べていた。
『あぁっ……』
快のその表情は今までの弱々しいものと大きく違っていた。
そこにはかつて求めたヒーローの姿があったのである。
つづく