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ep66:リノア[最終話]

「リノア!! ゴミはゴミ箱へって言ったでしょう!!」


「ごっ、ごめんなさいママ……」


「なに大声だしてるんだ、サリア」


「リノアがまた、ゴミをイレイズで消したのよ!」


「あー、それはダメだってパパも教えただろ。もう次からやっちゃダメだぞ、リノア」


「はい、パパー」


 リノアは甘え声でハルキに抱きついた。ハルキは本当にリノアに甘い。


「もう! リノアが外でそんな事やったら、どうなるか分かってるの!? 今日からリノアは、もう四歳なんだよ!!」


「まあまあ。リノアもそのうち、分かってくれるって。なあリノア」


 ハルキはリノアを抱きかかえると、リノアはケラケラと笑った。



 あの日から六年が経った。 


 私はハルキと結婚し、レクトたち三人と過ごした家に住んでいる。追い出された形になったレクトとリオは、近所の空き地に新しく家を建てた。夜中に少しずつジェネヴィオンで生成されたその家は、どこかヴェルミラの建築物を思い起こさせる作りになっている。


 ミレルは私たちの裏手の家を借り、野菜を育てる日々を過ごしている。その野菜は近所でも評判になるほどの出来栄えで、私は何かしらの量術を使っているのではと勘ぐっている。


 そしてアレンは田舎の生活が合わないのか、しばらくすると都会へと引っ越してしまった。すぐに一部上場企業への就職も決め、バリバリと働く日々を過ごしているようだ。



「リノアちゃん、誕生日おめでとう! レクトおじさんが来たぞ!」


「じゃじゃーん、リオおじさんもいるよ! おめでとう、リノアちゃん!」


「はーい、ミツキお姉さんも一緒でーす! おめでとう、リノア!」


「はあ……いつまで、ミツキさんだけお姉さんなんだよ。本来の意味でもおばさんだってのに」


「何いってんの! 私まだ二十六歳だよ! 絶対、リノアにおばさんなんて呼ばせないんだから!!」


 今日はリノアの四歳の誕生日会。レクトたち三人は、連れ立って我が家を訪れてくれた。


「こんにちは。ああ、もうみんな着いていたんだね。サラダには、ウチの野菜を使っておくれ。形は悪いけど、味は保証付きだよ。——誕生日おめでとうリノア。今年のばあばのプレゼントは凄いぞう」


 遅れてミレルもやってきた。リノアが勢いよく、ミレルの胸に飛び込んでいく。リノアは、このミレルばあばが大好きだ。



***



「兄さん、遅いなあ……」


 リビングの壁掛け時計を見て、リオが言った。アレンは事故渋滞に巻き込まれたようで、少し遅れると連絡が入っている。もう既に、テーブルの上は食事にお酒、そしてケーキと準備万端だ。


「いててっ!」


 唐揚げに手を伸ばそうとしたレクトの手を、ミツキがピシャリと叩いた。それを見たリノアが、大きく口を開けて笑う。


「ホント怖いよねえ、ミツキおばさんは。——そういやさ、リノアちゃん。パパとママってどっちが怖いの?」


 レクトにそう聞かれたリノアは、ハニカミながらレクトの後ろに隠れ、私を指さした。


「リ、リノアがダメなんでしょ! すぐにイレイズを使っちゃうんだから! そりゃ、私も怒るわよ!!」


「ああ……それはダメだ、リノアちゃん。そんなことしたら、怖いおじさんに連れて行かれちゃうぞ」


 両手をゾンビのように上げたレクトがそう言うと、「じゃあ、もう使わなーい」とリノアは笑顔で言った。この要領の良さ、一体誰に似たのやら…… 


「それにしても、本当にリノアちゃんは可愛いですね……僕にもいつか、こんな子どもが出来る日が来るのかなあ」


 そう言ったリオは、チラッと横目にミツキを見た。


「リオくんさあ……そういうのダメだよ。出会った頃は可愛かったのに、めっきりオジサンっぽくなってきたんだから……」


「まっ、待ってください! 全然そういうつもりじゃなかったんですよ! ただ、ミツキさんはどう思ってるんだろうなって、つい――」


「ハハハ! だから、そういうのがダメだって言ってんの! ほんと、昔からそういうところはポンコツだからなあ、リオは!」


 レクトが声を上げて笑う。


「そういうお前だって彼女いないだろレクト。――まあ、ミツキもそろそろどっちか選んでやれよ」


 ハルキが言うと、皆がミツキを見た。


「も、もう、やめてってば、そういうの!! もう、ホント信じられない!!」


 ミツキは顔を真赤にして、声を張り上げた。


 そう、レクトとリオは地球に着いたときから、ずっとミツキのことが好きだ。そんなミツキが、二人のどちらかを選ぶ日は来るのだろうか? ずっと一緒にいる私でさえ、全くわからない。


 ピンポーン


 その時、来客を告げるチャイムが鳴った。きっとアレンだろう。


「お。そういや、彼女を連れてくるんだったな、アレン」


 私とハルキは顔を見合わせると、急いで玄関へと向かった。





<地球侵略するはずが、守る側になりそうです…… [完]> 

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