「リノア!! ゴミはゴミ箱へって言ったでしょう!!」
「ごっ、ごめんなさいママ……」
「なに大声だしてるんだ、サリア」
「リノアがまた、ゴミをイレイズで消したのよ!」
「あー、それはダメだってパパも教えただろ。もう次からやっちゃダメだぞ、リノア」
「はい、パパー」
リノアは甘え声でハルキに抱きついた。ハルキは本当にリノアに甘い。
「もう! リノアが外でそんな事やったら、どうなるか分かってるの!? 今日からリノアは、もう四歳なんだよ!!」
「まあまあ。リノアもそのうち、分かってくれるって。なあリノア」
ハルキはリノアを抱きかかえると、リノアはケラケラと笑った。
あの日から六年が経った。
私はハルキと結婚し、レクトたち三人と過ごした家に住んでいる。追い出された形になったレクトとリオは、近所の空き地に新しく家を建てた。夜中に少しずつジェネヴィオンで生成されたその家は、どこかヴェルミラの建築物を思い起こさせる作りになっている。
ミレルは私たちの裏手の家を借り、野菜を育てる日々を過ごしている。その野菜は近所でも評判になるほどの出来栄えで、私は何かしらの量術を使っているのではと勘ぐっている。
そしてアレンは田舎の生活が合わないのか、しばらくすると都会へと引っ越してしまった。すぐに一部上場企業への就職も決め、バリバリと働く日々を過ごしているようだ。
「リノアちゃん、誕生日おめでとう! レクトおじさんが来たぞ!」
「じゃじゃーん、リオおじさんもいるよ! おめでとう、リノアちゃん!」
「はーい、ミツキお姉さんも一緒でーす! おめでとう、リノア!」
「はあ……いつまで、ミツキさんだけお姉さんなんだよ。本来の意味でもおばさんだってのに」
「何いってんの! 私まだ二十六歳だよ! 絶対、リノアにおばさんなんて呼ばせないんだから!!」
今日はリノアの四歳の誕生日会。レクトたち三人は、連れ立って我が家を訪れてくれた。
「こんにちは。ああ、もうみんな着いていたんだね。サラダには、ウチの野菜を使っておくれ。形は悪いけど、味は保証付きだよ。——誕生日おめでとうリノア。今年のばあばのプレゼントは凄いぞう」
遅れてミレルもやってきた。リノアが勢いよく、ミレルの胸に飛び込んでいく。リノアは、このミレルばあばが大好きだ。
***
「兄さん、遅いなあ……」
リビングの壁掛け時計を見て、リオが言った。アレンは事故渋滞に巻き込まれたようで、少し遅れると連絡が入っている。もう既に、テーブルの上は食事にお酒、そしてケーキと準備万端だ。
「いててっ!」
唐揚げに手を伸ばそうとしたレクトの手を、ミツキがピシャリと叩いた。それを見たリノアが、大きく口を開けて笑う。
「ホント怖いよねえ、ミツキおばさんは。——そういやさ、リノアちゃん。パパとママってどっちが怖いの?」
レクトにそう聞かれたリノアは、ハニカミながらレクトの後ろに隠れ、私を指さした。
「リ、リノアがダメなんでしょ! すぐにイレイズを使っちゃうんだから! そりゃ、私も怒るわよ!!」
「ああ……それはダメだ、リノアちゃん。そんなことしたら、怖いおじさんに連れて行かれちゃうぞ」
両手をゾンビのように上げたレクトがそう言うと、「じゃあ、もう使わなーい」とリノアは笑顔で言った。この要領の良さ、一体誰に似たのやら……
「それにしても、本当にリノアちゃんは可愛いですね……僕にもいつか、こんな子どもが出来る日が来るのかなあ」
そう言ったリオは、チラッと横目にミツキを見た。
「リオくんさあ……そういうのダメだよ。出会った頃は可愛かったのに、めっきりオジサンっぽくなってきたんだから……」
「まっ、待ってください! 全然そういうつもりじゃなかったんですよ! ただ、ミツキさんはどう思ってるんだろうなって、つい――」
「ハハハ! だから、そういうのがダメだって言ってんの! ほんと、昔からそういうところはポンコツだからなあ、リオは!」
レクトが声を上げて笑う。
「そういうお前だって彼女いないだろレクト。――まあ、ミツキもそろそろどっちか選んでやれよ」
ハルキが言うと、皆がミツキを見た。
「も、もう、やめてってば、そういうの!! もう、ホント信じられない!!」
ミツキは顔を真赤にして、声を張り上げた。
そう、レクトとリオは地球に着いたときから、ずっとミツキのことが好きだ。そんなミツキが、二人のどちらかを選ぶ日は来るのだろうか? ずっと一緒にいる私でさえ、全くわからない。
ピンポーン
その時、来客を告げるチャイムが鳴った。きっとアレンだろう。
「お。そういや、彼女を連れてくるんだったな、アレン」
私とハルキは顔を見合わせると、急いで玄関へと向かった。
<地球侵略するはずが、守る側になりそうです…… [完]>