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第2話 二週目の人生

 俺が戻ってきた十年前、20XX年の日本は経済、技術、文化が発展した先進国。世界有数のGDPを持ち、特に自動車・エレクトロニクス・ロボット技術が国際的に評価されている。

 それと同時に、伝統文化と最先端技術が共存する独自の社会でもある。


 政治は安定しており、戦後以来平和国家としての地位を維持している。さらに昨今はアニメや漫画などの文化が世界的な影響力を持ち、日本のブランド力を高めている。


 国ガチャランキング堂々の1位。転生したら生まれたい国Teir表S常連。


 古くは天皇を中心とした小国家。聖徳太子が仏教を広め国をまとめる仕組みを作り出し。そこから武士がぶしぶしものを言わせる時代を経て、外国との出会い。技術を急速に取り入れ、近代化。大きな敗戦後、復習ではなく発展を選び、大国へと成り上がった。


 それが日本である。


 ……。


 というのは表向き歴史。


 歴史の裏では、異界からやってくる魔物たちによって人類は滅亡の危機に瀕してきた。一度や二度ではない。何度もだ。


 魔物はある日突然、なんの前触れもなくこの世界に表れて、破壊の限りを尽くしていく。


 だが、それでもこの世界の人々は「魔物やモンスターなんてのは創作の中にしかいないファンタジーだ」と信じている。


 魔物を見たなどと言った日には笑いものか、精神状態を心配されるだろう。


 なぜか?


 それは、魔力を持たない人間は魔物に関する一切の出来事を記憶していられないからだ。


 もし魔物に襲われたとして、数日はその恐怖を覚えている。だが、だんだんと記憶が書き換わり、別の事件として脳に記憶されてしまう。


 これが、世界の人々が魔物のことを知らない理由である。


 魔物による甚大な被害は自然災害や事故として脳内変換され、やがて忘れる。


 しかし、逆に言えば、魔力を持っている人間は魔物のことをしっかりと理解し、戦うことができるというわけだ。


 そんな生まれながらに魔力を持ち、その力で魔物を退治してきた人々のことを魔法使いと呼ぶ。


 俺、結城一果もそんな魔法使いの一族として生まれ、魔物と戦うために育てられてきた。


「はあああ!」


 双葉と別れ、自宅に戻った俺は庭に立ち、精神を集中させる。体内を流れる魔力を外に放出させ、自分の魔力の量を確かめているのだ。


 一週目。俺が18歳の時に双葉が死んだ。


 強力な魔物の攻撃で傷ついた大勢の一般人を助けるため、魔法による回復を行いながら一人で魔物と戦った。

 魔法使いとして立派な最期だった。……と俺は思えなかった。


 双葉に命を救われたという記憶は、魔物のことと一緒に人々の記憶から消えていく。

 見ず知らずの人々を守るために、大切な人が傷つき、散っていく。


 俺はそれがどうしても耐えられなかったし、許せなかった。


 そんな俺に接触してきたのが、魔人たちだった。


 魔人。魔物の力を取り込むことで永遠の命を手に入れた魔法使いのことだ。彼らは徒党を組み、世界を書き換える力を持つという伝説の秘宝「終極書(オメガスクリプト)」を手に入れるために暗躍している。


 そんなものが本当にあったのかは最後まで分からず終いだったが、双葉を失った俺はそれに縋った。


 結果俺も魔人と成り果て、強大な力を手に入れたのだ。


「どうやら本当に戻っているみたいだな」


 当然だが肉体はちゃんと人間には戻っている。

 フィジカルは8歳当時の俺のまま。


 だが一つだけ違うことがあるとすれば、それは体内を流れる魔力の量。その絶対値は魔人だった時のままということだ。


「すごい……何年も努力して。魔人にまで堕ちてやっと手に入れたこの膨大な魔力をこの年齢から……!」


 興奮が抑えられない。


 まさに強くてニューゲームといった状況になっているのだから。


「もしこの魔力量で。この年齢から真面目に努力を続ければ……」


 一週目の俺よりも遥かに強くなれる。


 もう大切なものを失わなくて済む。


「手にしたやり直しのチャンス、無駄にはしないぜ」


 そう思ったら、もう一分一秒も無駄にできない。さっそく走り込みにでも行こうかと思ったところで、窓がガラっと開いた。


「まったくいつまでやってんの? もう晩御飯よ」


 話しかけてきたのは母さんだった。

 母さんは元いた十年後の世界でも顕在なので、双葉と再会したときのような感動は特にない。せいぜい「うわ、若ぇ~」程度の感想だ。


「しかし若いな……」

「なっ。もういきなり何言ってるのよこの子ってば。ほら、ご飯冷めちゃうから早く上がりなさい」

「うぃ~」


 確か、この頃だと32、33歳くらいか。

 子供ガキの頃は気づかなかったが、母さんもなかなか美人寄りの顔をしていたんだな。


 若くて美人でお淑やかな双葉の母親をずっと羨ましいと思っていたから気づかなかったけど。


「ほらどうしたどうした? 早く食べないと片付けられないわよ?」

「うへぇ」


 それから30分後。俺は夕食に苦戦していた。というのも、あんまり食えないのだ。


 そういえばこの頃の俺は食が細くて食べるのも遅かったし、給食もよく残していたな。


 とはいえ、一度18歳を経て再び8歳となった俺には食事の重要性が理解できる。


 とにかくこの年齢ならたくさん食ってたくさん寝て、沢山運動しまくる。そうすることで強い肉体を作り上げる必要があると理解している。身長だって一週目の時より伸ばしたいと思っている。思っているのだが……。


「おでんは白飯のおかずにならねぇんだよなぁ……」


 子供の頃に嫌いだった夕飯のおかず第2位がおでんだったことを思い出し、ため息をついた。単体なら好きなのだが、これでご飯を食べろと言われると抵抗感がある。


「何か言った?」

「なんでもない。お母さん! からし!」

「いいけど珍しいわね。大丈夫なの?」

「大丈夫だ」


 言うて中身は大人、18歳。おでんを食うならからしがマストだろ。俺はおでんの汁にからしをぶち込むと、箸でぐしゃぐしゃとかき混ぜる。これで具に均等にからしが塗り込まれた。


 ほんのりと黄色みを帯びたはんぺんを口に入れる。


「じゃあ頂きま……ぐふぉ」

「ほら言わんこっちゃない。しょうがない子ねぇ」


 どうやら味覚は8歳のものが適用されるらしい。普通に辛すぎてむせた。



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