怪談師、レムリア魔無です。
呪術回戦という漫画が大人気ですが、私は呪いの実体験を
東南アジアはラオスにて聞いたことがあります。今回はその実体験をまとめてみました。
題して、
呪術回戦ならぬ、呪術感染...
私にはモンさんというラオス人女性の友人がいます。
今から10年ほど前、モンさんは当時19才、近所でも評判の美しい女性だった。
彼女は美しいだけではなく、誰かが困っていると進んで人助けをするような優しい性格の持ち主でもあった。
その日、モンさんと友人の女性は仲良く買い物に出かけた。首都ビエンチャンを流れるメコン川沿いにある市場で、衣類やお菓子を買いながら、仲良くショッピングを楽しむ二人。
やがて夕暮れ時になり、二人は帰宅することにした。すると帰り道、夕闇に染まった帰り道の道端に、1人のお年寄りの女性が座っていた。そのお年寄りはいわゆるホームレスの方だった。彼女は二人を見るなりラオス式の合掌をして物乞いをしてきた。
するとモンさんはニッコリとほほ笑んで、その女性に近寄り
「おばあさん、少ないけれどどうぞ」
と、先ほど買ったお菓子といくらかのお金を与えた。
「悪いね、助かるよ~、ありがとう、ありがとう」
と言いながらお年寄りの女性はモンさんの両手を握りしめた。決して清潔ではないであろうホームレスの手を、モンさんはそのままにしていた。
「それじゃ、さようなら」
とモンさんはそっと手を放し、お年寄りに別れを告げ再び歩き始める二人。
しばらくすると、突然異変がモンさんを襲った。意識が途切れるようで目眩がする。足がもつれてしまい上手く歩けない。
友人は急いでトゥクトゥクを呼び、モンさんを乗せて彼女を自宅まで運ぶ。
家に着いたモンさんは
「ごめんね、少し寝れば治ると思う」
と、自分の部屋のベッドに横になった。
モンさんの顔族もあまり心配はしていないようで、友人はお礼を言われ
帰宅した。
しかし、その日からモンさんは変わってしまった...
朝になっても中々起きてこないことを心配した母親が彼女の部屋を開けると、モンさんはまだベッドの上にいた。
モンさんは顔を半分だけシーツから出し、ギョロギョロと自分の部屋を見回している。
そして唐突にガバッとベッドから起き上がり、ドスドスと大きな足音を立てながら母親の横を通り過ぎ、台所にあった鶏肉料理と父親のタバコをとり、部屋に戻る。
モンさんは貪るように鶏肉を平らげた後、慣れた手つきで煙草に火をつけて、さも上手そうに吸った。それまでタバコなんか一度も吸ったことが無いにも関わらず。
しかし、やはり無理をしているのか、時折むせ、涙目にもなっている。だがそれでも吸うのを止めないモンさん。そして一言、
「うめ~」
と呟いた...
その声は、しわがれた中年男性の声のようだった。それはもうあの優しく美しいモンさんではなかった。
家族が病院へ連れていこうにも、激しく抵抗され連れていけない。モンさんが部屋を出る時は食料やタバコを取りに行くときと、用を足すときだけ。部屋の中はどんどん汚れていく。
そして終始しわがれた男性の声で意味の分からない言葉を
「”$&’(&グフヘエエエ」
と話し、不気味に笑っていた。
友人が訪ねたときには、モンさんは七本ものタバコを一度に吸っていたという。
そんな状態が数週間続いた。しかし、救いは唐突に訪れた。
噂を聞き付けた近所の年配の男性が現れ、
「これは憑けられたな、帰ってもらうぞ」
と、ベッドの上にいるモンさんの傍に、木炭を削って作られた御守りのような物を置く。
すると急にモンさんは静かになり、そのまま眠ってしまった。その間に近くの寺院から僧侶を呼び、モンさんの前でお経を小一時間ほど唱えてもらった。
読経後に静かに目を開けるモンさん。その目には、以前のモンさんの
優しい眼差しが感じられた。モンさんはすっかり正気を取り戻していた。
ラオスには、手で触れるだけで意図的に人に霊を取り憑かせる呪術師が存在する。
幸いモンさんは勝機を取り戻したが、一瞬でモンさんへ呪いを発動させたあのお年寄りは、今もラオスのどこかで、誰かに、呪いをかけているのかも知れない...