放課後。流山が部活に行こうとしたときだった。
「流山さん。ちょっと話があるんだけどいいかな」
クラスの男子が話しかけてきた。
流山はあまり面識のない彼からの申し出に不安そうだったが、周りのクラスメイト達は騒いでいた。
「
「きゃー! きっとそうなんだわ!」
「マジかー、栄のやつやっぱ流山さんのとこ行くかー!」
「まぁ、美男美女でお似合いだな」
そういう方面の話が好きではない流山でも、これが何の話か分かった。
高校生の一大イベント、告白というやつだ。
ただ柏のことが好きな流山からしたら、はた迷惑はイベントであった。
「ごめんなさい。部活があるので」
そう言って去ろうとしたが、前方に栄が立ちふさがる。
「時間は取らせないからさ」
「…………」
栄は笑顔だったが、そこには逃がさないと言った絶対的な意志を感じさせた。
困り果てた流山を横にいた鎌ヶ谷が心配そうに見ていた。
「大丈夫よ、玲奈。先に部活行ってて」
「……分かった」
それだけ言うと、鎌ヶ谷は教室を後にした。
栄と向かい合う流山。
「手短に済ませてください」
「伝わったみたいで嬉しいよ」
――――――――――――――
流山と栄は教室を出て、校舎裏へとやってきた。
人気のないところであるため、流山は少し警戒した。
二人は向かい合う。
そして栄が口を開いた。
「流山さんはさ。僕のこと知っている?」
「……ごめんなさい。クラスメイトってぐらいしか」
「まぁ、そうだよね。そうなんだよね」
何が面白いのか、けらけらと笑う栄。
流山は話が見えなかった。
「僕ね。これでも優等生で通っているんだ」
「そう」
「サッカー部でも一年唯一のスタメンでね」
「……それはすごいわね」
「サッカー部は嫌いかい?」
「そんなことはないわ……」
「嘘だね」
栄は笑顔のままそう言った。
流山は一瞬、全身が緊張した。
話を続ける栄。
「きっと流山さんは、僕のことなんて興味ないだろうなぁとは思っていたよ。だからね。興味が出るような話を持ってきたんだ」
「? 何かしら?」
「僕ね、南中のサッカー部だったんだよ。ねぇ東中の流山さん?」
「!?」
その言葉を聞いた瞬間、流山の脳裏に中学時代のことが思い出される。
忌まわしい記憶がよみがえる。
それでも流山は気丈にふるまう。
「何が目的なのかしら」
「いいね、興味を持ってくれたみたいで」
「私の質問に答えなさい」
「あの事件で、僕たちサッカー部は活動停止。彼は学校にも来なくなったよ。そして地味な中学生活を送ったよ」
「それが何?」
「僕はね後悔しているんだ。だから高校では最高の青春を謳歌しようってね」
「さっきから何が言いたいの?」
「簡単な話だよ。流山さん。僕の彼女になってよ」
「は?」
唐突な話に、流山は理解できなかった。
だが、栄の方は楽しそうに話す。
「分かってないね流山さん。これだから元からスクールカーストが高い人は困るんだ。いいかい僕は優等生、サッカー部のスタメンっていう努力でカーストを上げたけど、ここで一つ問題がある」
「問題?」
「恋人だよ恋人。スクールカーストにおいて上位に入るには恋人の存在が必要なんだよ」
「そういうものなのかしら?」
「ああ、こればっかり難しくてね。でも今僕は三姫である君の弱点を握っている」
「…………」
「もう一度言おう。流山さん。中学時代のことを知られたくなかったら僕の恋人になってよ」