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猫のひげが震える日だまり
猫のひげが震える日だまり
たかせまこと
BL現代BL
2025年02月22日
公開日
1.1万字
完結済
わしは猫。 二十年生きて主の力で猫又になった。 わしの未練は猫の頃に出会ったニンゲン。 未練を絶つために、お化けの夜、わしはニンゲンの元に行く。 猫又×ニンゲンのほのぼの恋物語。

第1話 主の元へ

(よぉ、がんばったなぁ)


 痛くて寒くてだるくて、どうしようもなくて、ああこれはもう駄目かなって思っていた時のことだった。

 真っ白の視界の中で、ゆらりと影が揺れる。

 体全部が包み込むように持ち上げられて、どこかへ攫われようとしてる。


(なあ、お前)

(吾のひざ元いうてもただの公園やのに、あないなとこで、よぅ二十年以上がんばったな)

(もうええのやで)

(吾の庭に迎え入れてやる故に、そこでゆっくり過ごしたらええ)

(飢えも乾きも、暑さも寒さも、身の危険も何もないとこや)


 その存在が何なのかはわからないけど、自分より強くて偉いってことはわかった。

 わしを保護して慈しんでくれる存在。

 ああ、そうだ。

 きっとこれが神とか主とか、そういう存在。

 今まで野良猫として生きてきたけど、そういう存在やったらしょうがないなって思う。

 わしを手に入れようとしたニンゲンもいたけど、わしはここで生きてたかった。

 傍に居てやりたいニンゲンもいたけれど、わしはただの猫にすぎひんから、ニンゲンはニンゲンといた方がいい、そう思って諦めた。


(神なあ……そんなええもんやない、ただ長く生きただけの妖やけど、そやな、お前の主にはなってやれるやろ)

(お前には吾の力を分けてやる)

(さて、ほな行こか)


 くすくすと笑って主はわしをそろっと運ぶ。

 あのニンゲンはわしを探すかな。

 せめて最後に一目会いたかったな。

 目から水を流しているくせに、わしには餌を食べさせてくれて、恐る恐る手を伸ばしてこしょこしょと耳の下をくすぐってくれた。

 たまには膝に乗ってやったら良かったな。

 わしの兄弟が乗っかってやったら、とても喜んでいた。

 けど、わしはできんかった。

 何の揺れも振動もなく、するすると主は進む。

 白い中を進んで行く。

 進むにつれてさっきまで白くて寒くて冷たかった四肢が、温くぅなってうずうずしてくる。


(まだやで、まだ庭の外やし、自分で走り回るのんは無理や)

(もうちっとかかるさかい、お前、目ぇ閉じて寝とき)


 主の声に従って目を閉じて、次に目を開けた時、わしは人の姿をしていた。

 こうしてわしは生まれてから二十年を超えて、ただの猫から猫又になったのだ。






 ※※※※※ 


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