「逢志……逢志な。何べん聞いても、ええ名前やな。良かったなあ、お前」
主の庭の縁側で、わしはのんびりと日向ぼっこをする。
久しぶりに猫の姿で、ゆらゆら尻尾を揺らしながら、わしを撫でる主の手を堪能する。
「ほんで、兄弟、今日はここにおってええの?」
主の膝の上で、たしんたしんと尻尾で床を打ちながら、兄弟が問うてきた。
「わし、今日は休みやねん。けど、啓志は仕事やから」
わしは人の姿で人の世に紛れて、啓志と暮らしている。
啓志はよく笑うようになって、目から水を出すこともなくなって、わしはとても嬉しい。
わしは時々、人の仕事もする。
人が生活するのには、金がかかるからだ。
「ふうん」
「ウタや。逢志が来てくれて嬉しいくせに、そう意地悪を言うてやるな」
啓志との暮らしの合間、主に会いにやってくると、兄弟がやきもちを妬く。
今もそう。
けど、兄弟自身が「どっちに妬いてるのか、何を妬いてるのか、わけわからん」って言っている。
兄弟は主から、ウタという名をもらった。
時々びっくりするほど主の匂いをつけているから、きっと、契りも交わしたんやと思う。
わしはとても幸せで、兄弟が幸せなのも、とても嬉しい。
いい風が吹いて気持ちが良くて、わしはひげを震わせて目を閉じた。
「ま、先々のことは、誰にもわからんからな……今をしっかりと楽しむがよいさ」
<END>