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第7話 猫の名前

「逢志……逢志な。何べん聞いても、ええ名前やな。良かったなあ、お前」


 主の庭の縁側で、わしはのんびりと日向ぼっこをする。

 久しぶりに猫の姿で、ゆらゆら尻尾を揺らしながら、わしを撫でる主の手を堪能する。


「ほんで、兄弟、今日はここにおってええの?」


 主の膝の上で、たしんたしんと尻尾で床を打ちながら、兄弟が問うてきた。


「わし、今日は休みやねん。けど、啓志は仕事やから」


 わしは人の姿で人の世に紛れて、啓志と暮らしている。

 啓志はよく笑うようになって、目から水を出すこともなくなって、わしはとても嬉しい。

 わしは時々、人の仕事もする。

 人が生活するのには、金がかかるからだ。


「ふうん」

「ウタや。逢志が来てくれて嬉しいくせに、そう意地悪を言うてやるな」


 啓志との暮らしの合間、主に会いにやってくると、兄弟がやきもちを妬く。

 今もそう。

 けど、兄弟自身が「どっちに妬いてるのか、何を妬いてるのか、わけわからん」って言っている。

 兄弟は主から、ウタという名をもらった。

 時々びっくりするほど主の匂いをつけているから、きっと、契りも交わしたんやと思う。

 わしはとても幸せで、兄弟が幸せなのも、とても嬉しい。

 いい風が吹いて気持ちが良くて、わしはひげを震わせて目を閉じた。





「ま、先々のことは、誰にもわからんからな……今をしっかりと楽しむがよいさ」




<END>


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