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第17話 口入屋には、受付がある。

 口入屋には、受付がある。まず横スライド型のドアを開けると、板張りの土間がある。土足で入って貰って構わない。タイミングが悪いとモップがけをしているキツネに会うかもしれないが、朗らかに挨拶してくるから、それに返せばいいだけである。


「あ、こんにちはー」

「こんにちわー」


 受付には一人のキツネが座っている。混雑時に対応できるように、受付は後二つあるけれど、通常キツネが待機している受付は一つだけだ。

 入って右奥の壁に、掲示板がある。そこには、近所の商店街のお祭りだったり、セールの告知だったりと色々雑多に貼りだされていた。

 この町の商店街の一角に口入屋を置かせていただいているのだから、それくらい容易い事である。


「また貼らせてもらいますねー」

「どうぞー」


 そのヒトはその掲示板まですたすたと歩いた。掲示板全体を眺めて。


「あ、これ掲示期限切れてるんで剥がしますね。あとちょっと整理させてもらいますねぇ」

「いつも助かりますー」

「そんな、貼らせてもらってるのはこっちですからー」


 受付の黒髪のキツネは、頬杖を突きながら掲示板を見ていた。着流し姿のそのヒトは、その視線をものともせずに、掲示期限が切れていたポスターを剥がして、ちょっとずつ詰めて貼って、自分の持ってきたポスターを貼った。


「そういや参加者さんいます?」

「そうそう。それなりに来てくれるんですよ!」


 記載されているのは、近所の河川敷で行われる相撲大会の案内だ。

 参加自由。子供の部もある。

 彼らは河童であるからして、月に一度、相撲大会を開催していた。あのポスターはその告知であり、キツネたちは一声かけてくれれば、そのポスターを貼ること自体に文句を言わなかった。参加人数の程度には興味があったが。ちょっとだけ。


「特にこれから夏でしょう。小さい子供が来てもね、私達は河童ですから。溺れさせたりしませんし」

「ああ、それは利点ですねぇ」


 河川敷で遊ぶ際、どうしても水難事故はつきものになる。毎年何かしらニュースで見るほどだ。

 けれど、河童がいれば水難事故の可能性は下がる。そもそもお前ら自体が水難事故の化身だろう。と、キツネは思ったりもするが口にはしない。

 言ったところで、笑い飛ばされて終わりだ。単なる事実なので。


「先日ね、お相撲が好きだっていうお肉屋さんのご隠居様が協賛に入ってくださって!」

「まさか!」

「そうです! 今回はバーベキュー大会も併設されます!」

「行こうかなぁ」

「参加証になるので、お相撲大会に参加してくださいね」


 そんな雑談を軽くして、河童は帰っていく。キツネも、別に参加しようとは思ってはいない。肉は食べたいが、それなら仲間を募ってバーベキュー大会を開催すればいいだけだ。何分、キツネは沢山いるので。

 けれどもそれに釣られて相撲大会に参加しそうなあてはそこそこあったので、彼らが来たら案内してやろうか、くらいには思った。

 ほら、持ちつ持たれつ、ってやつだ。

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