工房の外に響く金属音と規則的な足音が、近づいてくる敵の存在を知らせた。
「チッ……。ハイペリオンの連中め……」
ハルトは制御パネルに向かい、モニター越しに映る映像を睨みつける。
「ついに実行部隊を差し向けてきたか。戦闘用ドローンも連れてきやがったな」
「侵入までの時間は?」
「そんなに猶予はないな」
セラフィナの言葉にハルトが返す。
「やむを得ないですね」
セラフィナはまとっている服を脱ぎ捨て、工房の奥に隠していた戦闘用スタイルに自身を変更させていた。
豊満な胸部装甲は姿を消し、両腕に細身のブレードを装着。両足は稼働しやすいように必要最低限の装甲が施されている。
「久しぶりに見たよ。そのセラフィナの姿」
「本当の機械人形みたいで私はあまり好きじゃないが、ハルトやアリアを守るためだから」
「……すまないな」
「ハルトが気にすることじゃない。さあ、アリアを連れて安全な場所に」
「待て、セラフィナ。お前だけでは分が悪すぎる」
「『それでも守りたいものがある』。旧世紀のロボットアニメのセリフにこんな言葉、ありませんでしたか?」
セラフィナが言う。
「……お願い、セラフィナさん。私も戦わせてほしい」
「それは構いませんが、あまり前に出すぎないでくださいね。いざとなれば守りますが……」
「ありがとう、アリアさん」
刻一刻と侵入者の足音が大きくなっていく。
そして、工房の外壁が炸裂し、黒い装甲を纏った兵士たちがドローンと共に突入してきた。
「二神ハルト及びアリアを確認」
「二神ハルトの粛清の後、アリアを回収せよ」
「
兵士が銃口を向けるよりも早く、セラフィナが攻撃を開始する。
「なっ……。早い……」
銃口を切り落とされたことに気がついた兵士は、瞬間セラフィナによって倒され、命だった物質へと変化してしまった。
目では見えない速度で振動する細身のブレードを両手に展開して、兵士を攻撃していく。
その動きは滑らかで正確、まるでダンスを踊るようだった。
ドローンの光学兵器が彼女を狙うが、セラフィナは全てを読んだように避け、的確に撃墜していく。
一方でアリアは、震える手で耳を塞いでいた。戦闘音が響き渡り、そのたびに心が揺れる。
だが、ある瞬間、セラフィナが敵の包囲に追い込まれるのを目にし、思わず立ち上がった。
「セラフィナさん!!」
その声が届いたのか、セラフィナがアリアを振り向いた瞬間、アリアの胸の奥から湧き上がる感情が声となって現れた。
自分でも意図しないまま、彼女は歌い始めた。
「~♪」
アリアの歌声は、空間全体を揺るがし、侵入者たちの動きを止めた。
「グッ……」
「なん……だ……この……げっそりとする……感覚は……」
「体の……自由が……効かない……」
兵士たちは悶え苦しみ始めた。
『System Error』
『Combat Mode Error』
『Warning Warning』
ドローンも兵士たちと同じように苦しみもがくように軌道を乱し、次々と地面に落ちていく。
侵入者だけでなく、ハルトやセラフィナ、そして工房全体に影響を与えた。
「やめ……ろ……アリア……」
「アリア……さん……やめて……ください……」
ハルトとセラフィナが苦しむ様子が視界に入ったアリアは歌うのをやめた。
「――!!」
兵士たちは泡を吹いて全身を痙攣させていた。
ドローンは火花をちらしながら動きを止めている。
ハルトとセラフィナは、なんとか立ち上がる。
「ごめん……なさい……私……」
涙を流しながら、ハルトとセラフィナに駆け寄るアリア。
「いいんだ……。兵士は気絶。ドローンは機能停止……。よくやった」
「アリア……あなたの判断は間違いじゃない。その力を正しいことに使おうとした結果だから……。
それでよかったのよ、アリア……。ありがとう」
工房の周囲は沈黙が戻り、敵の影は一掃されていた。
だが、彼らがこの先も安全でいられる保証はない。
この一件で、アリアも、ハルトも、そしてセラフィナも、それぞれに背負う覚悟が一段と重くなったのを感じていた。