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第八章 ミハイルの家族

第53話 ねーちゃんは古賀 ヴィクトリア


 席内むしろうち駅から降りると、右手に大型のショッピングモール、左手にはさびれた商店街があった。


「タクトは席内は初めて?」

「いや、何回か買い物に来たことがある」


 ミハイルの住む、席内市とは福岡市に隣接する町だ。

 福岡県の北東部あたりか。

 個人的にはお年寄りが多い印象だ。


「じゃあ席内の『ダンリブ』はいったことあるか?」

 ダンリブとは大型のショッピングモールのことである。

「だって駅の目の前だろ? あそこぐらいしか、遊べないだろ」

 俺がツッコむとミハイルはブーッと頬を膨らます。

「そんなことないぞ! ダンリブ以外にも醤油の工場とか、大きな図書館とか、大根川だいこんがわがあるんだぞ!」

「へぇ……」


 これはいわゆる福岡市外民の妬みである。

 俺の住んでいる真島まじまはギリギリ福岡市内。

 福岡市と福岡県では都会ぽさが段違いなのだ。


「他にもオレが知らないだけで、もっともっと、いっぱいあるんだからな!」

 郷土愛が強いんだね、知らなかった。

「わかった、落ち着け。とりあえず、お前ん家に行くんだろ?」

「そ、そうだったな☆」

 機嫌を取り戻して、鼻歌まじりで行進するミハイル。


 駅から左手に向かい、商店街の門構えが見えてきた。


『席内商店街』


 何件かシャッターを下ろしている。

 真島と同じく、時代の波か……。

 悲しいものだな。


 商店街を歩いているとミハイルは「この店はうまい」とか「あの店はプラモデル屋」とか丁寧に説明してくれた。

 『真島への恩返し』か?


「ついたぞ!」

「こ、これがミハイルの家か……」

 俺はバリバリのヤンキーママが立っているスナックかと思っていたが。


『パティスリー KOGAコガ


 色とりどりの花々が、店の前を囲んでいる。

 1つ1つがよく手入れされていた。

 入口の前には、イスが置いてあって、大きなクマさんのぬいぐるみが座っている。(リボン付き)


 可愛すぎだろ! この店!

 ヤンキーが営む店じゃねぇ!


「入れよ、タクト☆」

 目を輝かせながら、手招きするミハイル。

「あ、ああ……」

 ギャップに驚かされた俺は戸惑っていた。


 チャランと美しい鈴の音が鳴る。


 うちの店もこんな可愛らしい音に、変えてくんねーかな……。

 腐向けのイケボボイスには毎回、悩まされるからな。

 配達員なんかドン引きだよ。



 店内に入ると、ケーキや洋菓子のあま~い香りが漂う。

 ショーケースのなかのケーキは、フルーツがふんだんに使われており、宝石のようにキラキラと輝いて見える。

 他にもチョコレート、クッキー、マドレーヌ、などのお菓子が店中に並べられている。

 所々にクマさんのぬいぐるみが置いてある。

 ミハイルの趣味か?


「いらっしゃい!」


 ハキハキとした声で言われた。


 カウンターの前に立っていたのは、コックコートを着た長身の女性。

 ミハイルと同じく金髪でポニーテール。

 そしてエメラルドグリーンのハーフ美人。

 ただ違うところといったら、胸がパンパンに膨れ上がっているところだ。

 ここにも巨乳がいたのか……キモッ!


「なんだ、ミーシャか」

「うん、ただいま☆ ねーちゃん!」

 この人がミハイルのお姉さんか。


「おかえり。ん? そこのあんちゃんは?」

 鋭い眼つきで威嚇するお姉さま。

 まるで、狩りをする獅子のようだ。

 あれ、この感覚。なんだか誰か似ているような……。

 宗像先生か!


「あ、あの。俺、新宮しんぐう 琢人たくとと申します!」

 一応、姿勢を正して頭をさげる。

「ほう……お前が『噂のタクト』か?」

 顔を上げると、妖しく笑うお姉さまのお顔。


「よし、今日は店じまいだ! 酒を買ってこい、ミーシャ!」

「やったぁ~ パーティだな☆ ねーちゃん!」

「ああ、りきやここあ以外の人間は、初めてだからな!」

 なにそれ? おたくのおねーちゃん、アル中なの?


 ミハイルはお姉さまから財布を預かると、「タクトは待っとけよ、ダンリブ行ってくる☆」と言って鼻歌交じりで店を出て行った。


「さあ……タクトくんとやらの話を聞こうか?」

 なんだろう、背後から『ゴゴゴゴゴ』というスタンドが見えるの俺だけですか?


「あたいの名はヴィクトリアだよ、ピチピチの二十代だぞ」

「ははは、俺は17歳です」

「へぇ、ミーシャの2個上か~ ちょうどいいね~」

 なにがいいの? 怖いよ、ミーシャのお姉ちゃん。


「今夜の酒の肴はお前だよ、坊主」

 俺の顔目掛けて、ビシッと指を指し、睨みつける。

 こ、こえ~


「俺ですか?」

「ああ……だって。あたいの可愛いミーシャを、初めてお泊りさせやがった男なんだからなぁ……」

 口からなんか漏れているよ、凍える吹雪じゃないですか?


「今日は泊まっていけ、坊主」

 これを拒否れば殺される。

「は、はい。お姉さま!」

「だーれがお姉さまだ? ヴィッキーちゃんと呼べ!」

 ちゃん付けできる年じゃねぇだろ。

「は、はい。ヴィッキー……ちゃん、さん」

「ああん?」

 やっぱりヤンキーだよ、こんなパティシエ存在したらあかん!

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