そして陽が沈み始め夕焼けが街を照らし出した頃、マリアは巨人の姿となり街で待機していた。
無線で耳に指示が届く。
『もうすぐ第5のシナー"憤怒のサタン"をここに再出現させる。今回は必ず浄化しろ、出来るだけ傷つけずに綺麗なまま浄化するのだ』
聖王の声が耳に響く。
嫌と言うほど聞いた声に腹が立って来た。
『では……来るぞ』
聖王の言葉に合わせるように地面から先日と同じ腕が6本の恐竜のようなシナーが出現した。
しかし前の影響で腕は2本切り落とされている。
「(神崎クン、勇気を貸して……!)」
マリアはもうここでやる事を決めていた。
守に示してもらった自由を掴むため行動するのだ。
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シナーが思い切り突っ込んで来る。
怒りを具現化したような勢いだ。
『ハッ……』
マリアは何とかその突進を受け流しシナーを転ばせた。
しかしまだまだシナーは力が有り余っているのか一瞬で起き上がり尻尾で追撃をして来る。
『フンッ』
それも両腕でガッチリとホールドして掴み、何とか踏ん張ってこちらへ引き寄せようとする。
それでもシナーは近付いた隙に腕を2本使いマリアの顔面を思い切り殴った。
『ガハッ……』
そこから何度も何度も倒れたマリアを殴った。
巨人としての皮膚に亀裂が入り血液が流れてしまう。
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一方その頃、守はJR札幌駅で特急の切符を買っていた。
まだ発車まで時間があるため一度外に出ると駅前通りのビルに設置された大画面にニュースが映し出される。
「あっ」
それはまさに今行われているマリアとシナーとの戦いだった、倒れたマリアをシナーが何度も殴っている。
「立って下さい、そして自由を……!」
画面越しの彼女に向かい祈りを捧げた。
熱い眼差しを彼女が変身した姿に送る。
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何処からか守の声援が届いた気がした。
脳裏に浮かぶのは学祭でのライブ。
思い切り熱唱し初めて自由を味わった気がした。
『〜ッ』
そして決心する。
こっそり右手に光の刃を出現させた。
追撃が来たタイミングで思い切り振る。
『セヤァッ!』
何が起こったか、シナーもM'sの人々も一瞬理解が遅れた。
吹き出す血液、そして地面に落ちる腕。
立ち上がるマリアに倒れるシナー、それが意味する事はもちろん。
『な、何をやっているセイント・マリアッ⁈』
無線で聖王の焦る声が届く。
しかしもうマリアは気にしなかった。
自分の耳元を殴り無線機を破壊した、それは反逆の象徴である。
『私はもう縛られないっ!』
もう片方の手からも光の刃を出現させ二刀流で構える。
そのままシナーに向かって走り出した。
『ハッ、セアッ!』
今度は逆に何度も何度もシナーを斬りつけていく。
ありとあらゆる部位に傷が生まれそこから鮮血が吹き出す。
反撃してくるシナーだがマリアはそれらを全て華麗に避けトドメの一太刀を喰らわす。
『セアァァァッ!』
遂にシナーの首を切り落としたのだ。
それにより完全に生命活動を停止してしまうシナー。
その様子を見ていたM'sの一同は冷や汗を流した。
『ハァ、ハァ……』
返り血を浴び真っ赤に染まりながらも自由のために行動したマリア。
守は画面越しにその様子を見て笑顔になっていた。
☆
マリアの戦いを見届けた守は一人で寂しく特急列車に乗り込もうとしていた。
夜の札幌駅は平日という事もあってか人は少なかった。
「あ……」
反対側のホームには遠くから帰って来たらしい父親を迎える母と子の姿が。
幸せとはああいったものなのだろうが守にはない。
彼らのように迎えたり見送ったりしてくれる人はいない守が特急に乗ろうとすると自分の名を呼ぶ声がする。
「守クンっ!」
思わず一度立ち止まり振り返ってしまう。
そこには会いたかった人の姿が。
何故ここにいるのかは分からない、しかし確かにここにいるのだ。
「マリアさん……っ⁈」
息を切らした彼女は同じ特急の切符を見せて来る。
「はぁ、はぁ……間に合った!」
同じ切符を見せてくる意味、それは一つしかないが守はまだ理解が出来ない。
「何でここにっ⁈ てかその切符……」
「分かるでしょ、私も一緒に行く!」
「えぇっ⁈」
驚いて思わず大声を出してしまう守だったがすぐに自分の本心に気付く。
やはり嬉しいのだ、それが一番大きい。
見送りをしてくれるどころか共に来てくれるなんて。
「……ははっ」
そして二人は特急に乗り向かい合わせの指定席に座るとお互いの顔を見合った。
幸せの種類が一つでないのならこれもその一つだろう。
「そいえばさっき名前で呼んでくれましたね、守クンって」
「あ、ごめんつい言っちゃった……」
下の名前で呼んだ事に顔を赤くするマリアだが守はそれすら愛おしいと思えた。
「良いんすよ、俺も下の名前で呼んでますし。マリアさんって」
便乗し守もマリアを下の名前で呼んでみた。
すると少し俯いたマリアは以前に話した内容を出す。
「前に話した事あるでしょ、その名前で呼んで欲しくないって」
「あぁ、使命の象徴みたいだからってやつ」
「私は全部投げ出して来た、これで世界がどうなろうが知ったこっちゃないってね」
そしてもう一度顔を上げたマリアは守に告げた。
「もう普通の女の子なの、その名前は関係ない!」
片目を閉じてウインクする。
そこで守は質問をした。
「そっか、じゃあ何て呼べば良いですか?」
その質問に対しマリアは少し考える。
「んー、組織の名前がM'sだからそのMを捨てて……あ、じゃあ!」
呼び方を思いついたらしい。
一度守に向き直り改まって新たな名前を告げるのだった。
「お願い、アリアって呼んで!」
彼女の新たな人生の一歩。
その自由を象徴する名前、アリアが誕生したのだった。
二人を乗せた特急が発車する。
そのまま夜の闇へ愛に溢れた二人を運んで行くのだった。
これから長い旅が始まる、自分という存在を知る旅が。
つづく