目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

episode7

#1

 青森の山中に隠れたM'sの軍用機、クラウスがアリアを捕えるために乗ってきたものだ。

 そこに残った研究員や職員たちはクラウスの暴走により上からの指示を待っていた、そこへ遂に彼がやって来たのである。


「それで、奴らは東京へ行ったと……」


 それは聖王本人だった。

 わざわざ出向いて来たのだ、これほどの事態であると研究員たちは息を呑む。


「クラウス様の件はもうよろしいので……?」


 研究員の一人が震えながらクラウスを止められなかった失態の件を問う。

 しかし聖王は彼の方を向いてすぐに呟いた。


「ヤツは身勝手を極めた、諸君らはある意味で被害者と言えよう」


 意外にも聖王は彼らを憐れんだ。


「だがそこに罪の意識があるのなら、これからも協力を願いたいものだな」


 人々を想ったような聖王の言葉に少し肩の力が抜ける研究員たち。

 そして次に聖王は少し考えるような素振りを見せた。


「ふむ……諸君らの誠実さにも向き合わねばならん、東京へ出向くとするか」


 その発言に一同は驚愕してしまう。


「まさか聖王さま自ら……っ⁈」


 ハッキリ言ってしまうと人々は聖王が外に出るのを見た事がない、そのためそれほどの事態であると身震いする。


「あぁ、既に事態は一刻を要するのだよ」


 そう言った聖王は一人で準備に取り掛かった。

 職員や研究員たちも怯えながらサポートを開始するのだった。








Call Me ARIA. episode7








 東京駅で降りた守とアリアは近くの整形外科を探した、守の右手が痛むので痛み止めを貰うためだ。

 しかし予約もしないで行ったためかなり待たされてしまい時間がかかった。

 そしてようやくレントゲンを撮り医師の診察に在りつけた。


「無理せずオーディションは控えた方が良いですね、残念ですが」


「痛み止めは……?」


「処方はしますが無理していいって訳じゃありませんからね、若いんだからいくらでもチャンスはあるでしょう」


「そうっすね……」


 そのまま病院を出て薬局に向かい痛み止めを処方された守はアリアと会話をしていた。


「保険証持たずにきたから凄いお金取られたね……」


「はい……」


「普通こんな取られたら親もクレカ止めるんじゃない?」


「何で止まらないんでしょうね……」


 しかしそんな事はどうでも良いと言わんばかりに守の目は泳いでいた。

 先程の医師の言葉がまだ耳に残っているのだ。


「俺にチャンスは無いんすよ、これだけなんです」


 親など家庭環境の事を考えてチャンスはこれしかないと思い医師の言葉を無視し守は早速処方された痛み止めを取り出す、そして2錠を口に含みペットボトルの水で喉に流し込んだのだった。


「ふぅ、これで痛み引けば良いんですけど……」


「うん……」


 アリアもそんな守の様子を見ながら少し心配してしまっていた、しかしそのまま2人は歩き出しある場所へ向かうのだった。





 東京の路線図に困惑しながら電車を乗り換えて行く。

 しかし何度か間違えてしまった。


「え、これこっち?」


「いや逆じゃないすか?」


 そのようなやり取りをしている内に少しずつ日が暮れてしまう。

 そもそも東京に着いたのが昼過ぎだったため時間がかなりギリギリになってしまった。


「はぁー、ようやく着いた……」


「まだ駅っすよ、ここから歩かなきゃ」


 そしてたどり着いたのは"下北沢駅"。

 ライブハウスや劇場、古着などサブカル文化が根強い街が目の前に広がっている。


「すげぇ、本当にサブカルだらけだ……」


「みんなお洒落だね……」


 周囲の光景に溶け込めず少し肩身を狭く感じている中、スマホで地図を見て目的地へ向かう。

 そして人通りの少ない路地裏へやって来た、そのまま細い道を進んで行くと地下に入る階段を見つける。


「……ここっすね」


「本当に? なんか怖くない?」


 薄暗い地下への道を覗く2人だが決心をする。


「決めたじゃないすか、償うって……!」


 そう言いながら地下への階段を降りて行く守。

 アリアも怖がりながら着いて行った。

 そして降りるとそこには扉があり横には看板があった。

 ライブハウス"アンダーゴリラ"と書かれている。


「間違いない、オーディションの会場……!」


 緊張しながらも守は扉を開ける。

 中は少しボロかった、細長い廊下がありそこにはポスターが多数貼り付けてある。


「おぉ……」


 一気に雰囲気が様変わりした事で守は本当にライブハウスに来たと圧倒されてしまう。

 そのまま奥に進んで行き扉を開けると夢にまで見たような空間が広がっていた。


「っ……!」


 声すら出ない、完全に圧倒されてしまっている。

 絵に描いたようなライブハウスだったのだ。

 しかし光景に圧倒されているとスタッフと思わしき人物から声を掛けられる。


「あの、オーディションなら明日……っ」


 派手な髪色の女性スタッフが何やら途中のセッティングを止めて来るが圧倒されている守とアリアを見て途中で言葉を止める。

 何か自身の過去を思い出しているかのように。


「あっ、すみません……オーディションの日時は分かってるんですけど先に会いたい人がいて……!」


 女性スタッフに声を掛けられた事に気付いた守が慌てて彼女の顔を見た、そこで彼女の正体に気付く。


「あ……もしかしてモモさん?」


 髪色や服装やピアスなど、篤人のスマホで見た写真から少し変わってはいるが彼女は間違いなくモモだった。


「あんた達もしかして……」


 守の声を聞いて思い出す、これは電話で話した声だと。

 すぐに篤人の事を思い出し少し感傷的な気持ちになってしまう。


「どうした? あたしに会いに来たの?」


 そして優しくも切なく微笑みながら彼らの来訪を受け入れるのだった。





 ライブハウスの角にある机を囲み三人で椅子に座り話をする、そこでモモは守やアリアに事の顛末を聞いていた。


「で、何でオーディション前にあたしなの? 大体はあっちゃんから聞いてるけど、家出してる件とかね」


 二人の事情は分かるが何故自分に会いに来るのかが分からないといった様子だった。

 なので二人はそこを踏まえて説明をする。


「あの、掘り起こすようで申し訳ないんですけど……篤人さんの事で償いをしたくて……」


「どういう事……?」


 そして守はアリアの背中を叩いて彼女を応援する。

 その鼓舞を受けてアリアは深呼吸をし想いを伝えた。


「篤人さんが亡くなったのは私のせいですっ……! 私をっ、助けようとしてくれてそれで……ごめんなさいっ!」


 その言葉を聞いたモモの目は一瞬だけ光を失ったように見えた、しかしすぐに光を取り戻しアリアに伝える。


「謝る事じゃないよ。まぁあっちゃんも災難だったけどねぇ、北海道で巻き込まれたと思って出たらそこでも巻き込まれて……まぁある意味自業自得だよ、親の言いつけ守らなかったからね」


 篤人本人も似たような事を言っていた気がした。

 アリアと守は顔を上げて話を聞く。


「私たちさ、親と縁切ってまで音楽やろうとした。でもお互い上手く行かなくてね、それぞれ働く事にしたの」


「え、でも篤人さんはモモさん凄いって……」


「そんな事はないよ? 売れなかったのにズルズル引きずってここで働いてさ、業界にしがみ付いてるだけ。キッパリ切ってちゃんと働き出したあっちゃんの方が立派だよ」


「モモさん……」


 二人は彼女の話を聞いて胸が痛んだ。


「才能ないのに現実から目を背けて、その報いが来たんだよ。あたしもそろそろ帰って将来考えないとかな?」


 腕を組みながら言うモモの表情は寂しそうであった。

 だからこそ守とアリアは自分たちが旅で見つけた事を伝えようとしたのだ。


「あの……こんなガキが言う事なんで無視してくれて構わないんですけど、俺たちが気付いた事があって……」


「何、聞かせて?」


「一度決めたらそれが間違ってたとしても来た道は戻らないって、戻らず進みながら正しい方に修正しようって……」


 それはクラウスとの戦いなどこれまでの経験で気付いた事。


「だから私たちは償いたいんです、罪を犯したからこれ以上何もしないんじゃなくて償えるような事するんだって考えてここに来ました」


 その言葉を聞いたモモは少し驚いたような表情を見せた、そしてしばらく考えた後ある質問をした。


「じゃあさ、具体的に何してくれるの?」


「え! あ、そこまでは考えてなかった……」


 良い事を言った直後にそのような焦りを見せる二人に思わずモモはプッと吹き出してしまう。


「あはは、良いね君たち! 気に入ったよ!」


 そしてそのまま立ち上がり二人にある提案をした。


「じゃあ簡単な事からで良い? 丁度困ってた事があるんだけど」


「は、はい! 何でもやります!」


 そのままモモは口角を上げてお願いをした。


「あたしの部屋、最近ちょっと汚くてさ。片付け手伝ってもらって良い?」


 そのお願い事を聞いた二人は思わず顔を見合わせてしまう、予想以上に簡単な願いだったから。


「え、そんな事で良いんですか……?」


「そんな事って、結構大事な願いだよ?」


 しかし二人は少し肩の荷が降りたような気がした。

 そのままモモに案内され二人は彼女の借りているアパートに向かい償いを始めるのだ。






 つづく

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?