「追ってきてるか!?」
「い、いえ。来てません!」
階段を上がる。止まらずそのままひたすら上へ上がる。3階の踊り場まで行き、俺は後ろを見た。追ってくる気配はない。なら暫くは安全か?
「糞、やられた。なんだこの身体は!」
縮んだ身体を見下ろしながら思わず近くの壁を叩く。衝撃で小さなヒビが入るが、そんな事を気にしていられない。どうすれば戻れる!? あいつを倒せばいいのか!? いや逃げれば能力が解除される可能性はないのか!
「落ち着いてください、ディズ君!」
「くそ! わりぃ。熱くなっちまった」
そうだ。冷静になれ。俺の身体の半分は向こう側に捕まってる。考えろ、戦うにしろ、逃げるにしろ。
「考えましょう。まずあのエイブって熊の人。あの人の
「多分な。そんな事を本人も言ってたし」
「もう少し詳しく教えてください。能力を受けた時の話を」
俺は突然足が動かなくなって、そして後ろからやってきたエイブに叩かれたと説明した。
「両手で身体を叩く事によって身体が半分になる……両手、両手ですか」
「何か気になるか」
「はいです。考えてみてください。両手で相手を叩くって全然強そうじゃないです」
「強そうって」
まぁ確かにな。両手で相手を叩く一見派手に見えるが実際が喧嘩で使えるかって言われると使えない。両手を一緒に使う場合、腕の力だけで叩かなきゃいけない。片手なら身体も使って体重を乗せられるが、両手はそれができない。だから両手で叩く場合、明確な意味がないと確かに……。
「両手じゃないと割れないのか」
「もしくは、2回叩かないといけない……かもです」
「2回だって?」
「はい。一応そう考えておきましょう。下手に過信して両手じゃないと発動しないと考えるのは危険です。それとあのネズミの人。多分ですが、ただの分身能力ではないと思います」
ネズミ。銃を持っているあいつか。確かに分身して銃で攻撃してきていたな。俺の身体だと銃は効かなかったみたいだけど、普通に考えたらかなり厄介な力だ。それがただの分身じゃないってどういう事だ。
「恐らくですが、分身はすべて本物。そして……身に付けている物も一緒に増えるんじゃないかなって思います。カエルの人が言っていました。あの銃はレアリティの高い
それも一緒に増えるか。
「あとはカエルか。あれは固まる液体を出すって事だよな」
「唾ですね。直接的な戦闘能力はなさそうです。とはいえ厄介なことに変わりませんが……」
敵は3人。多分強いのは熊のエイブだな。能力はネズミの方が厄介だが多分俺なら倒せる。問題はタイミングだ。
「ディズ君。
「今日は1回だけだ」
「確か前回の検証だと大体7、8回程度使うと身体が維持できなくなりますよね。威力を調整して弱く使えばもっと増えると思いますが……」
「ああ。なあ……このまま寝たら俺の身体って戻ると思うか?」
俺と向こうの俺がどういう扱いなのか分からないが、一度この世界から出れば戻れたりするのかだろうか。
「どうでしょうか。ただ多分それはやめた方がいいと思います」
「逃げるつもりはねぇけど、なんでだ?」
「寝た場所でまた明日現れます。多分ディズ君が逃げちゃうともっと人集めてここで待ち伏せされると思うです」
「ああ。なるほど。なら今日中に片付けねぇとな」
「そうですね。恐らく何かディズ君のその身体を維持するために向こうも制限があるはずです。向こうも長期戦は望んでいないでしょう。じゃ考えましょうか!」
「何をだ?」
「作戦です! ぐるぐる回された恨みは忘れませんからね、勝ちましょう!」
ふんすと鼻息を荒くするリリアを見て俺も気を引き締めた。
「ヴァンダリム!!」
そう叫び破壊した壁。その壁の穴の向こうにこちらを見て驚くネズミとカエル。そしてこっちを見て笑っている熊がいる。
「なんだ、1人か!? まぁあの妖精は戦えなさそうだしなぁ」
「お前らは俺1人で十分ってだけだよ、熊野郎!」
「威勢がいいな! お前の半身はこっちで情けない姿になってるってのによ」
ほとんど全身を拘束され倒れている俺のもう半分の身体。こちらを見て怪訝な顔をしている。
「おい、俺! 一旦無視するぞ!」
「問題ねぇ!」
そう簡単に意思疎通をして俺は落ちている瓦礫の破片を取り走り出す。そして走りながら思いっきり跳躍した。階段を飛び越え一気に一階へ移動する。そして足に力を入れ思いっきり近くの柱を蹴り飛ばす。
「ヴァンダリム!!」
俺の蹴った箇所が抉れるように破壊され、その破片がネズミの方へ飛んでいく。
「ちょ、ふざけんな!」
顔を守るように腕を交差させるネズミ。その隙にネズミの方へ向かおうとして……。
「俺を無視する気かよ。包帯野郎」
「くッ!」
割って入って来た熊の蹴りが俺の腹に当たりそのまま吹き飛ばされた。