「……完全に二日酔いだ」
目が覚めた瞬間、激しい頭痛が俺を襲った。
昨日は久しぶりの美味い酒にテンションが上がってしまいかなり飲みすぎてしまった。
「誤算だったのはマリーだな……」
こいつ、この幼い見た目で大酒豪だったのだ。ウイスキーのボトルを二本も一人で開けやがった。
セリーヌも完全に飲めないってわけではなかったんだが、途中で眠いと言ってすぐに布団に入ってしまった。
あまりにも頭が痛すぎるので、寝ていたマリーを揺さぶって起こすことにした。
「おい、マリー。起きてくれ」
「……ん。どうしたですか?」
「二日酔いで頭が痛すぎる。回復魔法をかけてくれ」
マリーは横になったまま俺に回復魔法をかけるとまた布団をかぶってしまった。
まあ、ほぼ朝まで飲んでいたからもう少し横にしておいてやろう。
そうして俺は三人も寝ている狭いシングルベッドから抜け出し、冷蔵庫からお茶を取り出してテレビをつける。
朝の情報番組が流れていたが、昨日のダンジョンスポーンは取り上げられていないようだった。
ま、あの程度なら日常茶飯事なのかもな。
俺は特に気に留めることも無く、スマホでネットサーフィンを始めた。
「そういや大学どうするかなあ……」
異世界から帰還しててっきり忘れていたが、一応俺は現役大学生である。
一応クソ女神から送られてきた金はあるが、三人暮らしとなってしまった手前、心もとないってのが事実だ。
「なんか楽に稼げる仕事ないかな」
そんなことを呟いていたところ、一件の広告に目が留まる。
『高収入! 戦闘経験がなくても大歓迎! 研修制度も充実! 討伐隊ギルドでお待ちしております』
「討伐隊ギルド、ねえ……」
正直戦闘はもう懲り懲りなんだよなあ。
ただ、今の金遣いを続けているとあっという間に金は尽きてしまうだろう。
もう少し向こうの世界でも金を貯めときゃ良かったな。
今の俺は大学三年生。一般企業に来年には就職活動なども始めなければならない。
「どうしたもんかね」
俺が天を仰いでいると、インターフォンが鳴り響いた。
「ん? また配達か?」
俺がインターフォンのモニターを覗き込むと、そこにはスーツ姿の女性と男性が映っていた。
「……はい?」
「あ、朝早くにすみません。私、討伐隊ギルド栃木第一支部の北村と申します。こちら梶谷太一様のご自宅でお間違いないでしょうか?」
「ええ、そうですが……」
討伐隊ギルドが何の用だ? あれか? 昨日のダンジョンスポーンの件か? まさか一般人が勝手にモンスターを討伐しちゃいけなかったとか?
俺の頭に様々なことがよぎったが、とりあえず表に出てきて欲しいとのことだったので、俺は渋々玄関に向かった。
「あ、おはようございます。改めて栃木第一支部の北村です。こっちが討伐隊員の岩瀬です」
「どうも」
岩瀬と紹介された女性はぺこりと頭を下げた。
北村と名乗った男性は白髪交じりのオールバックで、かなりガタイが良い。正直めっちゃ怖い。
「それで……俺に何の用ですか?」
「とりあえず見て欲しいものがありまして……」
そう言うと北村さんはタブレットを取り出して動画を再生した。
そこに移っているのは俺がダンジョンスポーンの渦を目の前にゴブリンやらを討伐していく動画。
やはりこの件か……。
「これが俺だとして、何か問題でも……」
「いくつか問題はありますが、梶谷さんが罰せられたりといったことはありませんのでご安心ください」
あ、やっぱり問題がないって訳じゃないのね。
ただ、嘘をついている感じもないので俺は観念して正直に答えることにした。
「その動画に映っているのは俺に間違いありません」
「そうですか……! 単刀直入にお聞きしますが、梶谷さん。討伐隊ギルドに入隊しませんか?」
「……は?」